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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第16章 二度目の夏 第4回

2010.04.10  *Edit 

 あの時に見た笑顔に似ていると増山は思った。
 「お前、まさか、また報われない恋をしてるんじゃないだろうな」
 「増山君、鋭い・・・」
 彰子は増山と別れて随分経ってから、大学の講師と不倫関係になった。
別れ際に聞かされた、高校生時代の不倫の話しを思い出し、どうしてまた、
同じような事をしてるんだろうと当時は思った。増山は人の事には関心が
無い。別れた女のその後なんて全く興味は無かったが、二人の関係が
学内で噂になったので、自然と増山の耳にも入ってきていたのだった。
 そしてまた、懲りずに同じ事を繰り返しているのか。
 「でも、もう終わったの・・・」
 彰子はそう言って、増山から目を逸らせた。
 「お前、いい加減、求めない習性を改めろ」
 「えっ?」
 増山の言葉に、彰子は驚いた眼差しを向けた。
 「欲しかったら欲しいと言えばいいだろう。どうせ壊れる恋なら、
もっと自分をぶつけて壊れる方がマシだし、諦めだってつくだろうが」
 「増山君にそんな事を言われるとは、夢にも思って無かった」
 彰子は目を丸くしていた。
 「どうして、心はそんなに受け身なんだろうな」
 「・・・臆病だからよ」
 そう言う彰子の目を見て、増山は悲しい気持ちに襲われた。自分が
愛してやれていれば、彰子はこんな目をする事も無かっただろう。
当時は何とも思わなかったが、今は何故か彰子を不憫に感じる。
 「今の部署にいるのはね。前の部署のボスとの不倫関係が破綻して、
それで飛ばされたからなの。好きな古典関係の仕事だから、それは
それで別に構わないんだけど、本当は第一線でもっと頑張りたかった」
 彼女は優秀だ。なのに、いつも結局は、男のせいで不遇を強いられる。
選ぶ男が悪いのだ。
 「本当に、悪い事は言わないから、もう止めとけ。もっと男を
見る目を養え」
 心の底から、そう思った。
 「ありがとう。増山君にそんな風に言われるなんてね。親切
ついでに、一度だけ、また私を抱いてくれないかな・・・。
そうしたら私、きっと生まれ変われるような気がするの」
 そう来るとは、思っていなかった。
 「悪いな。抱いてやりたいのは山々なんだが、無理なんだ」
 「どうして?」
 彰子は不思議そうな顔をした。今誰かと付き合っているとの噂は
耳にしていない。望と別れてからはフリーな筈だ。フリーの時なら、
望まれれば大抵は抱く男なのに。
 「今、付き合ってる女性がいる」
 「えっ?」
 彰子は驚いた。そしてすぐに思い直す。そうだ。これほどの男なの
だから、相手がいても不思議はない。いない方が却って不自然だ。
 「今までのような付き合いの女だったら、彰子の頼みだから
聞いてやる。だけど、今度は違うんだ。俺はもう、彼女以外は
誰も抱けなくなった」
 増山の言葉に彰子は驚愕した。まず、付き合っている女がいても
彰子の頼みなら聞いてやると言った事だ。これまでだったら考え
られない事だ。どの女にも興味を示さず、愛情を持たない男の癖に、
そういう所は妙に律儀なのだ。そして、今度の相手は今までとは
違うと言う事。
 「ま、増山君。それは、一体、どういう事なの?」
 「好きな女ができたんだ。来春、結婚する」
 「し、信じられない・・・」
 彰子は茫然とした。
 増山に好きな女性ができたなんて、本当に信じられなかった。
これまでの4年間、彰子は増山と別れてからも、ずっと増山を見て
来た。独身の男で唯一愛したのが増山だったからだ。自分は他の男を
愛するようになっても、増山が他の女を愛せずにいる事に満足していた。
彼は女を愛せない。そんな中で、自分は彼の初めての女である事に
優越感を抱いていた。
 彰子と別れた後、増山は多くの女と付き合っていたが、全部体だけ
の関係だった。心を通わせた事なんて一度も無い。だが、自分とだけは、
愛し合う事はできなくても、心を通わす事はあったと自負していた。
その事が彰子の唯一の慰めでもあった。彼は誰も愛せない。だから、
誰のものにもならない。そう思っていたのに。ショックだった。
 彰子は戦慄(わなな)きながら増山を見た。増山は今まで見た事の
無いような優しい瞳をしていた。
 「彰子、ごめんな。愛してやれなくて」
 増山はそう言った。
 その言葉に、彰子は泣いた。増山の優しい瞳と優しい言葉。
今まで一度も、見た事も聞いた事も無い。だからわかった。彼に愛する
女性ができた事を。愛する人が出来た事で、他人に優しくなれたのだ。
 「増山君・・・、おめでとう。良かったね・・・」
 彰子は涙を拭いながら言った。
 「お前は、俺にとっては初めての女だから。他の女とは違うから」
 「ありがとう。そんな風に言ってくれるとは思ってなかった。
誰にでも等しく冷たい人だったのに、変ったね」
 「そうか?俺は今でも女には冷たいけどな。ただ、誰にでも、
では無くなったとは思う」
 増山はそう言って笑った。
 「それが変わったって事じゃない。人を愛するようになったから
でしょう。私、愛してくれない人を愛し続けるのが辛くて自分から
別れたけれど、貴方が誰も愛せない事に安堵してた。誰と付き合って
いても冷たい人だから、嫉妬する事も無かったし。だから、貴方に
愛する人ができたと聞いて、とても寂しいわ。おまけに、結婚しちゃう
なんてね。誰のものにもならない人だと思ってたのに」
 「俺もそう思ってた。望と自分から別れたのも、彼女を好きに
なったからだ」
 「去年は相当荒れてたそうね。でも今は、彼女のお陰で落ち
着いちゃってるわけね」
 「まぁ、そういう事だ。お前の事は好きだった。なのに、何故
愛せないのか自分で不思議だったんだ。お前が別れたいと言いださ
なかったら、多分、ずっと付き合っていたと思う。俺にとっては、
お前といるのは楽だったから。まぁ、女に執着しない男だから、
別れたらそれまでなんだが、こうして再会してみると、報われない
恋ばかりしているお前を不憫に感じる。俺を愛してくれた女性だから、
お前にも幸せになって欲しいって、今は思うんだ」
 「貴方に優しい言葉を掛けられると、却って戸惑うわね」
 彰子はそう言って笑った。
 「俺に抱かれなくったって、お前は変われるさ。いい男を見つけてくれ」
 「うん。ありがとう。ところで、増山君の結婚相手はどんな人なの?」
 「どんな人と訊かれてもな。どう答えたらいいのか・・・」
 増山は首を捻る。理子は言葉ではなかなか表現しにくい女だと思う。
 「じゃぁ、具体的に訊くわね。美人なのかしら?」
 「女って、まずは容姿が気になるんだな。俺にとっては美人だ。
派手なタイプじゃない」
 「ふーん。俺にとっては、って所が味噌ね。まぁ、増山君は
外見ではこれと言ったタイプっていないみたいだものね。
じゃぁ、私とそう変わらないわね」
 「お前よりは美人だと思うが」
 「あら、酷いわね」
 でも、そう思う。増山は元々正直なので、思った事をストレートに
言ってしまう。それで女を怒らせた事は数知れないが、興味が無い
から怒られても痛くも痒くも無かった。
 「年は?」
 「女性の年齢を訊くのは、失礼だろう?」
 「あら、まさか、彼女の年を訊いてないとか?」
 「そんな事はない。ちゃんと知っている」
 「じゃぁ、敢えて言いたくないって事なのかしら?」
 「まぁ、そういう事。年下、とだけ言っとくかな」
 「なんなのよ、それー」
 「俺が秘密主義なのは、お前だって知ってるだろう?来春、
結婚する時に全てをオープンにするよ。それまでの、お楽しみと言う事で」
 増山は、何だか楽しくなってきた。本当に彼女と呼べる恋人の事を、
こうして語るのは、何て嬉しくて楽しい事なのだろう。本当なら、
全てを話してしまいたいくらいだ。
 「増山君、えらく嬉しそうに話すのね。じゃぁ、結婚式には
招待してくれるのかしら?」
 「冗談は休み休みにしてくれ。お前が来たら、彼女が卒倒しちまう。
なんせ、ウブでデリケートだから」
 「なんて憎らしい男なのかしら」
 「はっはっはっ、まぁ、いずれ機会があれば紹介するよ」
 増山が朗らかに笑った。彰子にはその笑顔が眩しかった。
滅多に見せない笑顔だ。
 「じゃぁ、増山君。またいずれ」
 彰子はそう言うと増山のそばを離れて行った。
 彰子が去った後、古川が寄って来た。
 「おい、彼女と何を話してたんだ?途中彼女、泣いてただろう」
 「お前、見てたのか」
 「当たり前だ。気になるからな。他の奴らだって、チラチラと
様子を窺ってたぜ」
 増山は溜息を吐いた。
 「一体、何が気になって様子を窺うんだか・・・」
 「そりゃぁみんな、お前が好きだからさ。女も男も」
 古川はそう言うとニヤリと笑った。
 「望ちゃんとは別れてるし、一体今は彼女がいるのかいないのか?
って訊こうとしていた所に、村上さんがやって来たからな。お前の
最初の女だろ。もしかして?とか気になるじゃないか」
 「過去の女と付き合ってもしょうがないだろうが」
 「そうか?焼けぼっくりに火が付くって事もあるじゃないか」
 「お前、それを言うなら、焼けぼっくいだ」
 「どっちだって、同じだろう」
 「同じじゃないぞ。焼け木杭、なんだからな。学者がそれじゃぁ、困るぞ」
 「お前も、揚げ足取りだなぁ」
 と、古川は睨む。
 「そんな事は、今に始まった事じゃない」
 と、増山も睨み返す。
 「しょうがないなぁ。それより何より、女の話しだ。彼女、
いるのかいないのか」
 「単刀直入だな」
 「当たり前だ。まどろっこしいのは苦手だ」
 「そんなんだから、女に振られてばかりなんだよ」
 「余計なお世話だ。それで、どうなんだ?」
 「しょうがない。・・・彼女は、いる」
 増山は少々照れながら言った。こんな風に訊かれて答えるのは
初めてだった。
 「おお~いっ!」
 増山の答えを聞いて、古川がいきなり大声で皆に声をかけたので、
増山は慌てて古川の口を塞いで人気の少ない所へ引っ張った。
 「おい、なんなんだよ。何でみんなに声をかけるんだっ」
 「決まってるだろう。みんなに教えてやる為だよ。みんな訊きた
がってたんだから」
 古川は憮然として言った。
 「だからって、何もあんな大声出さなくてもいいじゃないか」
 「何言ってるんだよ。秘密にするような事じゃないだろう。いつも
必ず女を侍らせていたヤツが」
 「馬鹿言わないでくれ。侍らせた覚えなんて無いぞ」
 ついつい、増山は興奮してしまった。古川といると、こうして自分の
ペースを乱される事がよくある。
 「言葉のあやだよ、あや。彼女がいるならいるって告知した方が、
また女どもに付きまとわれなくて済むだろうがよ」
 「それはそうなんだが、根掘り葉掘り訊かれるだろう、彼女の事を」
 「いいじゃないか、答えてやれば」
 「それができたら、苦労しない・・・」
 増山の答えに、古川は表情を変えた。
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