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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第16章 二度目の夏 第3回

2010.04.09  *Edit 

 8月も、もう終わろうとしている或る日の午後、増山は都内の
ホテルにいた。
 大学の同窓会だった。毎年この時期に実施する事に幹事が決めて
いて、今年で二回目だが、去年は欠席した。精神的にとても出る
ような気分では無かったからだ。人数が多いので、ホテルの宴会場を
借り切っている。増山が登場すると、場内がざわめいた。自然と増山
の周囲に女性陣が集まってきた。増山はそれを掻き分けるようにして、
旧友(きゅうゆう)達の元へと向かう。
 「よぉ!久しぶりだな」
 古川の笑顔が迎えてくれた。古川明夫は大学の研究室に残って
平安時代をしきりに突いている。
 「おおっ!皆さんもよくお越しで・・・」
 古川はそう言って、揉み手擦り手で女性陣も出迎えた。その
古川の様に、女性陣は引いた。増山はそれを見て、クククッと笑う。
 「お前がいつもそうやって女どもを追い払ってくれるから、助かるよ」
 「おいおい、俺は追い払ってるつもりは毛頭無いんだけどな。
本当に心から大歓迎してるのに、なんでみんな逃げてくんだ?」
 と、真面目な顔で言うのがまた可笑しかった。
 モテない男なのである。老け顔なのも理由の一つかもしれないが、
アプローチの仕方にも大きな問題があるだろう。それと、博愛主義者
の女性好きだ。モテない反動なのだろうか。女性なら誰でもいいの
ではないかと思わせる所がある。気さくでお喋りだが、肝心な事は
喋らない、頭のいい男でもある。勿論、人もいい。だが、女性達
には敬遠されるのだった。
 「ところで、あれ以来だな、会うのは。お前、いつからそんなに
人づきあいの悪い奴になったんだ?」
 と古川が言った。“あれ以来”と言うのは、去年の秋の平安展の事だ。
 増山は、普段、友人との付き合いは大切にしている方だった。
女にモテるのに、女どもを足蹴にして男友達との付き合いの方を
大事にする増山は、仲間達から人気があった。学生時代は、よく
みんなで旅行へ行ったり飲みに行ったりしたものだ。
 古川が女性陣を追い払ったら、旧友達が彼らの元に集まって来た。
みんな増山と久しぶりに会うのを喜んでいた。
 「お前、去年は来なかったよな。連絡も無いし、どうしてるか
心配してたんだぞ」
 と、その中の一人が言った。
 「悪い、馴れない教師生活でストレス溜まっちゃっててな」
 「そういう時こそ、みんなと飲んでパーッとしなきゃ駄目だぞ」
 「そうだよな。スパイラル状態にハマっちゃって、ドツボだったんだ」
 「そう言えば、去年は望と付き合ってたんだろう?秋頃に別れ
たって噂が耳に入って来たが、その後はどうしてるんだ?」
 望、と言うのは真下望と言う、英文科の女で、去年増山が付き
合っていた女だ。卒業論文も通って、就職先も決まって、ホッと
していた時に頼まれて付き合いだした女だった。細身でボブカットの、
顔にあるソバカスが愛嬌を感じさせる女だ。
 「お前ら、地獄耳だな」
 増山は感心する。
 「俺達これで、お前の事は随分と気にしてるんだよ。お前の女遍歴
には興味津々だしな。まるで平成の光源氏のようだ」
 そう言って、みんな笑った。
 「俺、自分から口説いた事は一度も無いけどな」
 「ああ、羨ましい奴だ。口説かなくても、向こうからやってくる」
 と、大爆笑する。
 増山は、学生時代は大抵いつも付き合っている女がいた。増山の
ルックスに惹かれて女の方から寄ってくる。増山は、その時に
付き合っている女がいなくて、生理的に好かないタイプで無い限り
受け入れていた。いちいち面倒くさいからだ。
 だが、付き合うと言っても、自分からデートに誘う事は全くない。
女の方から誘われて、友達との約束や用事が無ければ、それに付き
合う、そういう交際だった。セックスも同じだ。増山の方から誘う
事はまずない。増山の方から誘うのは、精神的に落ち込んだりスト
レスが溜まったりして、どうにもやりたくなった時だけで、そう
いう事は稀だった。
 だから自然、女も積極的になる。交際を申し込んでOKしてく
れた事を喜び、デートに誘われるのを待っていても、いつまで経って
も誘われない。電話も無ければメールも無い。消極的な女では、
増山の彼女は務まらない。
 「去年の同窓会でな。お前が頻繁に誘ってくるって望が自慢げ
にみんなに話してたんだよな。お前の方から誘う事なんて、早々
無いからな。みんな驚いてたんだぜ」
 増山との長い付き合いで、友人達は皆、増山が誰も好きになれ
ないのを知っていた。次から次へと女が変わるが、その無関心な
態度から、みんな女の方から愛想を尽かして去って行く。要は、
イイ男なのに、増山の方が振られている事になるのだ。色んな女と
やれるのが羨ましい反面、恋愛の醍醐味を経験できない増山に同情
の念を抱いていた。だから、愛を求めて彷徨(さまよ)う光源氏に
なぞったのだった。
 「だから、さっき言ったろ?スパイラルでドツボだったって」
 増山の方から誘う時は、ストレスが溜まっている時だ。その事
は仲間も承知している。
 「じゃぁ、望と別れたのは、それを脱したからなのか?」
 「そういう事」
 「それも珍しいよな。お前の方から断ったって聞いたぞ」
 そんな事まで、みんな知っているのかと、増山は驚いた。
 「望がな。友達に喋って、それが皆に広まったと言う訳だ。それを
聞いて、女性陣は鵜の目鷹の目だ。でも学生の時のように、毎日
学内で会うわけじゃないからな。お前をゲットする機会が早々無い。
今日あたり、来るんじゃないかぁ?」
 それを聞いて、増山は溜息が出た。面倒くさい。その一言に尽きる。
取りあえず、誰かと付き合っていれば、その間は争奪戦に巻き
込まれる事が無い。簡単に受け入れて来たのも、そのせいだ。
 「お前もホント、苦労するよな。モテ過ぎるのも考えものだな」
 その言葉を受けて、
 「俺なら喜んで、皆に十分サービスするんだけどなぁ」
 と、古川が言った。笑いの渦が起こった。
 「増山君」
 後ろから女に呼ばれた。振りかえると、村上彰子(しょうこ)だった。
 「凄い久しぶりだよね。元気だった?」
 「ああ。お前は?」
 「元気は元気なんだけど、ね・・・」
 と、少し意気消沈した様子を見せた。
 その様子に、周囲の仲間達は少し距離を置いた。
 「お前、今は何をしてるんだっけ?」
 「出版社に勤めてるの。古文の辞書や事典を作る部署にいる」
 「儲からない部署だな」
 「うん」
 そう言って、力無く笑った。
 村上彰子は国文科で、増山の初めての相手だった。

 大学に入って暫くした頃、たまたま大学の図書館で知り合った。
平安文学好きの彼女とは、学問上共通点も多いせいか、話しが合い、
なんとなくそのまま自然に付き合うようになったのだった。
大学に入学しても、周囲の女子の反応は相変わらずで、増山には鬱陶しい
限りだった。そんな中で、たまたま知り合った彰子の目は、他の女が
自分を見る目とは違っていた。媚が無かった。そういう点では、
理子と共通していたかもしれない。媚びない目で自分を見る女に
興味が湧いた。
 彰子は静岡から上京していて、マンションに一人で暮らしていた。
実家は地元の資産家で、だからセキュリティのしっかりしたマン
ションを娘の為に用意したようだった。増山はその部屋に、付き
合い始めて一カ月経った頃に招待された。
 広めのワンルームだった。
 「この部屋へ入る男性は、増山君が初めてよ」
 と、彰子が言った。
 白と黒で統一された、女性らしくない部屋だった。だが、彰子は
十分過ぎる程、女だった。同級生だと言うのに、彰子は馴れた手で
増山を誘(いざな)った。いつもストンとした感じの、体の線が目立た
ない服を着ているのに、裸になった彰子の体はくっきりとした曲線を
描く、見事なボディだった。その体に、初めてだった増山はそそられた。
 増山のぎこちない手付きに、
 「もしかして、増山君、初めてなの?」
 と、彰子が訊いた。増山は、何となく恥ずかしくなって、憮然と
した表情で黙っていた。
 「凄くモテるのに、まだ知らないなんて・・・。じゃぁ、
私が教えてあげる」
 彰子は優しく微笑んでそう言うと、増山に口づけた。
 それからの増山は無我夢中だった。彰子は煙草を吸っていたので、
煙草の匂いがした。その煙草の匂いの中に、微かに女特有と思われる
匂いがする。それに欲情した。
 初めての時は、あっと言う間に過ぎて行った。やっている時には
夢中だったが、終わってしまうと、あっけないものだと思った。
 「ごめん、俺、早かった?」
 本当にあっと言う間だった。
 「そうね。でも最初はみんな、そんなものよ」
 と、彰子は優しく笑った。
 それからは、会うたびに交わっていた。彰子は貪欲で、増山は
彼女から色んな事を教わった。
 「増山君のって、長いから大変だわ・・・」
 初めて口に咥えられた時、彼女はそう言った。増山は初めて覚える
感覚に、いつになく興奮した。だが、度重なる交わりに、増山は頭の
奥が醒めて行くのを感じていた。
 彰子の見た目は派手ではない。とても、こんなにセックスに長けた
女には見えない。どちらかと言えば清楚で、落ち着いた知的な印象の
女だった。華美で無い所は、増山の気に入っている所だ。勉強熱心で
話しも合う。こうして何度も体の関係を重ねていれば、普通なら自然
と愛着が生まれたり、愛情が育まれていくのだろうに、そういった
感情が一切湧いてこないのだ。
 自分のモノを口に咥えている彰子を、増山は醒めた目で見ていた。
そこだけが敏感に反応している。強い刺激が脳に伝わってくる。見て
いると醒めてくるから、増山は目を瞑った。だが、心は熱くなって
こない。彼女に対して、愛おしさを感じない。
 最初は彰子の誘導でやっていたセックスも、いつしか、増山の方が
優位な関係になっていた。増山の望む事すべてを、彰子はやらせて
くれた。二人は数えきれない程、一緒に深い淵へと落ちた。なのに、
相変わらず愛情が湧いてこない。
彰子の事は好きだった。話していて楽しいし、これだけ深い関係に
なっていながら、ベタベタしてこない。事が終わるとさっさと身支度を
整える増山に平然としている。そういう彰子との付き合いは楽だった。
彰子と付き合っているお陰で、近寄ってくる他の女達を冷たくあし
らっても、文句を言われないで済んでいる。
 夏が終わる頃に、彰子が言った。
 「私達、別れましょう」
 増山はその言葉に驚いた。喧嘩をしたわけでもないし、何か行き
違いがあったわけでもない。これまでと何一つ変わった事など無い
のだから、その言葉は増山にとっては唐突だった。
 「なぜ・・・?」
 増山のその言葉に、彰子は初めて深い悲しみの色を浮かべた。
 「貴方は一向に私を愛さないのに、私はどんどん貴方を愛していくから」
 増山は衝撃を受けた。自分が彼女を一向に愛せずにいる事は十分
過ぎる程わかっていた。だが、彼女が自分を愛している事には全く
気付かなかった。
 「気付かなかったでしょ、私の気持ちに。それは、貴方が私に
無関心だった証拠よ」
 「ごめん・・・」
 増山はそれしか言葉が見つからない。
 「しょうがないわ。人の心はどうにもできない。ただ私は、
段々とこの関係が辛くなってきたの。どんどん好きになるのに、
愛されないし、この先もきっとそれは変わらないとわかってるから」
 「お前は、セックスには貪欲なのに、人の心には貪欲じゃないんだな」
 「貪欲になっても、増山君が困るだけでしょ?これは私の習性ね。
高校生の時に、大人の男性と不倫の関係になってね。我慢する事に
馴れちゃったみたい」
 彰子はそう言って、寂しそうに笑った。
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