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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第16章 二度目の夏 第2回

2010.04.08  *Edit 

 お盆休み、増山紫(ゆかり)は結婚式場を幾つも訪れていた。
弟に頼まれたからだ。
 「俺は正直言って、どこでもいいんだよな~。でも、まぁ、
愛する理子の為にさ。ちゃんとやってやりたいじゃん?でも俺、
男だから。女の子が喜びそうな所ってわからないしさ。だから、
姉貴、お願い」
 自分の事だと言うのに、そう言って姉の紫に押しつけて来た。
なんてヤツなんだ。あれで理子の前では、「俺に全部任せろ」、
とか何とか言ってカッコつけているに違いない。
 だが紫は、何故か弟には弱かった。
 小さい時は、本当に可愛い男の子だった。エクボが愛苦しくて、
みんなに可愛がられた。顔つきが可愛らしいので、紫にとっても
自慢の弟で、いつも連れて歩いていた。幼稚園へ入った頃から、
どういうわけか満面の笑みを浮かべる事が減って来た。長じるにつれ、
それが顕著になっていった。
 それでも家では、まだ明るい。とても仲の良い両親で、家庭の
中は愛に満ち溢れていた。その場所では、親鳥の懐に包まれた
雛鳥のように、とても深い安心感が得られる。だが、外は違う。
紫もやがて、外では自分を見せられないようになってゆき、
弟の心境がわかるようになった。
 家の外は虚飾に満ちていた。誰も彼もが、下心を持って近寄って
くるのを感じる。特に異性に対してそれを強く感じた。弟は自分
よりも繊細で敏感だ。だから、早くからそれを感じて警戒する
ようになったのだと紫は悟った。
 弟も紫も、自分をあまり飾らない。ありのままが好きだった。
だが、二人を取り巻く環境は違った。誰もがその気持ちを勝ち
取りたくて、自分を飾り立てて周囲と競う。その様を醜いと思った。
だから、初めて理子と会った時、弟が好きになったのがわかった
気がしたのだった。
 理子は飾らない女の子だった。ありのまま。自然体。気負いや
衒(てら)いが無く、ピュアだった。そして、とても複雑で捉え
どころがない。醒めた目と熱い心を秘めていた。それがとても
魅力的だ。聡明なので、話しをしていても面白い。珍しいタイプの
女の子だ。だから、弟の心の中に入ってきて、そのままオンリー
ワンになってしまったのだろう。
 紫も彼女を気に入っている。だから、忙しい二人の為に、
こうして一肌脱ぐことになったのである。
 弟の希望は、横浜の中心地だった。両親に相談したら、妥当
だろうと言われた。希望日は5月3日。祭日の方が、みんな確実に
休めるだろうから、と言われたが、ゴールデンウィークだ。早く
から予定を入れている人間もいるだろう。
 弟は、自分で来ない癖に、あれこれと注文が多い。普段から
妙な所にこだわるタイプだからなのかもしれない。式は教会式が
いいと言っている。理子の家は仏教だと言っていたので、大丈夫
なのだろうか?理子本人は、何でもいいと言っていると言う。
どうやら理子は、その辺にはこだわらないようだ。女の子なら、
結婚式に関しては色々と夢がありそうに思えるが、理子は特に
無いらしい。自分も無いから、別にどうとも思わない。
 もしかしたら、結婚式に一番こだわっているのは弟かもしれない。
女嫌いと思われる程クールだった弟が、いざ自分の結婚となると、
かなりの思い入れを示しているのが不思議だ。それ程、入れ込んで
いる証拠とも言えるが。
 何でも、新居はマンションを購入するつもりでいるらしい。
その事で、理子の父親は仰天したとか。結婚式も新居購入も、
全て理子の為だ。極端な男だと思わずにはいられない。逆に、
理子の方が醒めている気がする。あの子の方が現実的だ。
あの子が伴侶なら安心だろう。
 式は教会式で、披露宴は簡素に。招待客は両方合わせて
50人程度で良いだろうと言われた。親戚中心だ。なんせ、
決行できるかどうかは、理子の東大合格次第ときている。
3月半ばまでわからないので、それまで正式に招待状を送れない。
キャンセルと言う事も考えられるからだ。50人と計画した所で、
実際にどれだけの人数が出席できるのか不安である。取りあえず、
増山の方の親戚や知人には根回し的に了解をとっておく必要が
あるだろう。問題は吉住家の方の親戚関係だ。頭が痛い。
 そういう事情を踏まえた上での場所探しである。日が日だけに、
難しい。混む日だから、あまり融通が利かないのである。そんな
中で、幾つか良さそうな候補は見つかったものの、矢張り不安
要素が多過ぎて決定できない。紫は仕方なく、父に相談した。
 「一番、悩むのは、どういう点なんだ?」
 と、雅人は娘に訊ねた。
 「混む日だけに、融通が利かない点です。どこも、きっちり
やりたがるんです。私はもっと、ゆったりと大らかにやって
あげたいと思ってるのに」
 すっかり、プロデューサーである。
 「わかった。お父さんもそれには同感だ。それなら私の方から
手配するから、気に入った場所を教えなさい」
 雅人は紫に言われた場所へ電話をした。混む日と言っても、
まだ予約が一杯になっているわけではない。そういう点で、早くに
動いていて正解だったと言える。雅人の力で、2組分の枠を確保した。
全てにおいて、こちらの希望通りに運べるようにも手配した。
だが、その分、必要経費は高くなった。高くなった分は雅人が
負担すると言った。
 「お父さん、俺の事なんだから全部俺が出すから」
 と、弟は言ったが、父は譲らなかった。
 「この事は、理子ちゃんには言うなよ。きっと、気を使う
だろうからな。彼女には、お金の心配は一切させるんじゃない。
わかってるな」
 「勿論さ。ありがとう、親父」
 結局、増山家の人間は、二人に弱いのだ。
 日取りも場所も決定した。場所は海が見えるホテルにある
式場で執り行う事になった。紫はひとまずホッとした。あとは、
これからは当日までに色々と細かい事を詰めて行くだけだ。
秋以降、追い込みに入る理子の事を慮って、月末に、ドレスを
決める為に理子を連れてホテルへと向かった。
 「お義姉さん、すみません。みんなやってもらっちゃって・・・」
 「あら、いいのよ。結婚式なんて、結局は女の為にあるような
ものだから、マーが言うように男じゃわからないしね。でも理子は、
大事な勝負事に打ち込まなきゃならないでしょ?だから、そんな気を
使わなくていいのよ?最初は何て弟だろうって、マーの事を思った
けど、やってるうちに楽しくなってきちゃった。総合プロデューサー
として頑張らせてもらうわよ」
 紫は笑った。腹を据えたら、サプライズなアイデア等が浮かんで
きて、本当に楽しくなってきてしまったのだった。
 ホテルに到着した時、「素敵な場所ですね~」と理子が感嘆の
声を上げたので、紫は満足した。紫は理子の感性と自分の感性は
似ているような気が前々からしていた。それは、弟とも通じる。
きっと理子は自然が好きに違いない。
 「理子って、海とか山とか、好きでしょ」
 紫は訊ねてみた。
 「はい。大好きです。ただ、泳げないし、登山も苦手なんです
けどね。その場の空気に触れながら、眺めているのが一番好きなんです」
 「もしかして、写真撮ったりするの、好きなんじゃない?」
 「はい。とても。自分が綺麗と感じた世界を切り取るのって
楽しいですよね。でも、お金無いから、父のカメラを時々
借りて撮る程度ですけど・・・」
 そう言って、はにかむように笑うのが可愛かった。
 「じゃぁ、結婚祝いに、カメラをあげようか?」
 若い女の子への結婚祝いとは思えない品だとは思うが、そういう
枠に捉われないのが紫だった。
 「えっ?いいんですか?」
 理子は戸惑と喜びの両方を同時に示した。
 「遠慮しなくていいのよ。あなたは私の妹になるんだし。私の方が
遥かに年上なんだもの。これからは、お姉さんにうんと甘えて頂戴。
遠慮されるより、その方が嬉しいんだから」
 本心だった。可愛い妹が欲しかったのだ。妹がいる友達を、ずっと
羨ましく思っていた。弟も可愛いけれど、やっぱり姉妹はいいものだと思う。
 理子は紫の言葉を受けて、最初は躊躇いの表情を見せていた。
だがやがて、その澄んだ瞳は明るくなり、喜びだけを現した。
 「お義姉さん、ありがとう。じゃぁ、お言葉に甘えて、カメラ、
頂いちゃいますね。だけどカメラって、本体よりもレンズがすっごい
高いんですよ。私、好きだから色々勉強したんですけど、レンズの
高さには本当に驚いちゃいました。これじゃぁ、いいレンズなんて、
ずっと買えそうにないって諦めてたんです」
 「それってもしかして、高値のレンズも一緒にって意味かしら?」
 「勿論です。レンズが無ければ撮れませんから」
 理子は喜色満面でそう言った。そんな理子に、紫は大笑いした。
この子には敵わないな。弟もきっとこうして、彼女に転がされて
いくんだろう。
 ウエディングドレスは、驚く程たくさんあって、選ぶのに苦労した。
紫は理子に似合いそうなデザインを頭でイメージしてから、カタログ
からピックアップし、実物を見た。まだ未成年でもあるので、肩や
背中が剥き出しのタイプは避けた。だからと言って、きっちりと
したタイプも堅苦しくて面白くない。シンプル且つ清楚で、更に
女の子らしいロマンティックさを感じさせるデザインは無いものか。
 そんな中で、ある一つのドレスに目が止まった。これは素敵だ。
早速、理子に試着させた。そして、試着室から出て来た理子を見て、
これだ、と思った。理子のピュアな雰囲気にとてもマッチしている。
恥ずかしそうに頬を染めている理子がとても可愛らしかった。
この場に弟がいたら、絶対に抱き寄せてキスしているだろう。
紫は満足した。
 お色直しのイブニングドレスも決めて、二人はホテルを後にした。
 「お義姉さん、本当にありがとうございます。お義姉さんの
時には、私に手伝わせて下さいね」
 「あら。ありがとう。でも私は、どうなのかな~。結婚願望は
まるで無いし」
 「それなら、私も同じです。全く結婚願望無かったですから。
先生でなかったら、一生独身でしたね」
 理子の事は、弟から色々と聞いていた。だから、生い立ちも
大体知っている。ご両親の夫婦仲の事も。理子の両親の夫婦仲と、
自分達の両親の夫婦仲は、まるで対極にあるような感じがする。
それにもかかわらず、その子供達は、同じように異性に対して不信感を
持っているのだから不思議なものだ。
 「私と先生が出会えたように、お義姉さんにもいつかそういう
人が必ず現れるって、私信じてます」
 「ありがとう。じゃぁ、その時はよろしくね」
 紫は、本当にそうなったら嬉しいんだけどな、と心の底から
思うのだった。
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