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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 19

2012.02.02  *Edit 

 ポツダム宣言の受諾により、無条件降伏が決まった。
 連合軍が占領する前に、その金を隠さなければならなくなった。
いずれ再起の為の軍資金だ。無いと言って国民に塗炭の苦しみを
課して来たのに、実は大金がありました、と公にはできない。
また、没収されてはかなわない。
 そのプロジェクトに裕也や文博は関わる事は無かったが、
おおよその事は知ってしまっている。だから簡単には解放され
なかったのである。そして、全ての帳簿の不備のチェックに追われた。
どこを見ても怪しまれない為である。
 裏金がどこへ消えたのかは知らないが、それが存在していた事は
知っている。機密漏洩を恐れた旧陸軍幹部は二人を軟禁した。
 軟禁と言っても、普通に生活はできていた。ただ外出範囲は
限られており、監視つきだ。
 やがて進駐軍が上陸し、東京へやってきた。全ての書類を提出し、
問題は無いとされ安心したものの、自由にされる気配が無い。
そのうち、矢継ぎ早に占領政策が出され、内閣はその対応に追われた。
そして、旧軍部の幹部たちが戦争犯罪人として次々と検挙される
ようになってきた。
 二人を旧陸軍の管轄下では最早監視できないと判断した幹部は
二人を大蔵省へ派遣した。大蔵省も物価の高騰と対策に追われて、
てんてこ舞だった。
 ピリピリとした、切れそうな空気を漂わす軍部の監視から
解放されて、精神的に少しはゆとりを持てた二人だったが、
大蔵省の上の人間は多少の事情を知らされていたので、監視役が
大蔵省に変わっただけとも言える状況で、外出範囲の制限は
解かれてはいなかった。
 年明けには子供が産まれる。それまでには何とか帰りたい。
だが見通しがつかない。
 東京は見るも無残な焼け野原だった。だが、終戦直後から
人々は焼けた残骸から使えそうな物を漁っては、掘立小屋を
立てたり、商売を始め出した。国家は崩壊し、この先の見通しなど
何一つ無いにも関わらず、そんな事とはまるで無縁のように
人々は自身の生活を立て直そうとしていた。
「人間って、逞しいな」
 共に帰宅の途に着いている義兄の文博が呟くように言った。
「人は、生ある限り生きる事に懸命になるんだな」
 裕也は黙って頷いた。
 散って逝った多くの友の事を思うと、今生きている事に感謝
せずにはいられない。早く家へ帰りたいが、戦地に残された
兵士たちの事を思えば自分の願いは贅沢なのかもしれない。
「もうすぐ、だよな」
「ああ……」
 出産の事だとすぐに分かった。
「文緒の所へ早く戻りたいんだろう?やっと授かった二人目だものな」
「ああ。豊かな時代であれば、そんなに気は揉まないんだが、
こんな時だ。出産自体が心配でならないんだ」
 裕也を励ますように文博は肩を軽く掴んだ。
「あいつは丈夫だ。気丈でもある。大丈夫さ」
 文博の言葉に裕也は軽く微笑みを返した。
 二人は帝大の同期だ。
 在学中はさほど親しくは無かったが、文緒との婚姻以来、
親交が深まり、今では親友である。特に、共に同じ主計部に
配属されてからは運命共同体となって絆は更に深まったと言える。
「文博、ありがとう。お前がそばにいてくれるだけでも、俺は
随分と癒されるんだ。俺の心の内を分かってくれるのは
お前だけだからな」
 今度は文博が微笑んだ。
 文博は文緒と顔立ちがよく似ていた。長兄の綱紀も兄弟妹と
すぐに分かる程よく似ているが、三人とも雰囲気は違った。
綱紀は鷹揚で穏やかな学者のような雰囲気を漂わせ、文博は
冷静沈着で決して感情的にはならない性格がはっきりと伝わって来る。
そして文緒はひたむきで前向きで、明るく力強い。輝く瞳は、
夢を現実にさせる力が潜んでいるような印象を与えるのだった。
「せめて、兄貴が戻って来てればな。少しは安心できるのに」
 綱紀の事だ。南方に軍医として出征している。出征して暫くは
手紙が届いていたが、南方諸島が次々と陥落するようになってから
消息は途絶えている。戦死公報が来ていない事だけが一縷の望みだが、
こちらも心配の種だった。
「お義兄さんの事も心配だな。南方は激戦で、どこも全滅している。
考えるだけでも胸が塞ぐよ」
「兄貴も大丈夫さ。ああ見えて、かなりしぶといんだ。それに要領もいい」
 文博は歯を見せて笑った。だが、無理しているように裕也には感じる。
「そう信じたいが……」
「……兄貴は……、文緒の所へ何が何でも帰ってくるさ」
 声の調子がいきなり低くなった。そんな文博を裕也は問うように見た。
「兄貴はさ。文緒に惚れてるんだよ、昔から。あっ、変な意味じゃなくね。
可愛くてしょうがないんだ。あいつの為なら身を粉にでもする。
文緒もそれが分かってるせいか、また甘えるのが上手いんだ。
華陽院の乳母に入ってからと言うもの、文緒の苦労を少しでも
軽くしてやろうと、それは涙ぐましい努力を重ねてたよ」
 その事は裕也も承知している。障害を負った樹の為に頑張っている
文緒をどれだけ支えてくれたかしれない。医者としての立場から、
そして兄としても。
「だからさ。再び文緒に逢う為に、兄貴は死んだりなんか、
しやしない。這いつくばってでも、帰って来るさ」
 だが、二人でそう話していた時から僅か数日後に、文緒が死んだ事を
知らせる電報が裕也の元に届いたのだった。
 晴天の霹靂だった。出産予定まで、まだひと月あると言うのに、
早産して死ぬとは。おまけに、そんな妻の元へ帰る事ができなかった。
 裕也は上司に何度も掛け合った。文博も共に土下座までして請い願った。
にも拘わらず、仕事が緊迫していて許されなかった。自宅が
二十三区内であったなら許されたが、葉山は遠すぎた。燃料不足で
鉄道の本数も少なく、帰るにも戻るにも多くの時間を要す。
内閣も行政府も、GHQからの追い立てるような催促に時間の
余裕など全く無いのだった。
 裕也と文博は、共に文緒の死を悼み、酒を酌み交わして二人だけで弔った。
寒風が吹きすさび、虚しく胸を通り過ぎる。何故、自分がこんな目に
遭わされなければならないのだろう。そう思うばかりだった。
 虚しさを抱えながら与えられた仕事をこなし、気付けば大晦日だった。
この日を最後に、帰宅出来る事をその朝上司から告げられた。
だが文博は元々銀行家の為、引き続き近々公布される予定の
金融措置の準備を手伝わされる事になっていた。
「裕也……、俺はまだ文緒の所へは行けそうにない。俺はそれが悔しいよ。
だから、俺の分まで、頼むな」
 涼やかな瞳の奥に、蒼い炎が揺れてるような気がした。長兄の
綱紀のように表だって文緒に愛情を注ぐような真似はできないながらも、
文博なりに妹を愛していた。二人きりで酒を酌み交わした晩、
文博は文緒との思い出を訥々と語った。愛情の示し方は違うものの、
文博の深い思いを知って裕也は一層、消失感を募らせたのだった。



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~ Comment ~

Re: NoTitle>よっこ様 

よっこさん♪

来てくれて、ありがとー♪

大晦日の記事、アップしてたね^^
あの日は楽しかった~~~。
比較的、近い方だし、また逢いたいね。

ブログ、また遊びに行きます。よっこさんも
遊びに来てね~~(^_^)/~
これからもヨロシク~(^_-)☆

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

そういう時代ですよね。
家族の死に目に会えないどころか、戦死者の場合、
遺体すらなかったわけですし。

ただ、戦争も終わったし、まさかこんな風に
突然逝ってしまうとは思っていなかっただけに、
その苦渋は大きかったでしょう。
裕也も可哀想な人ですね……(;_;)

NoTitle 

マシャカラで、お会いした、よっこです
この前は、よっこのブログに遊びにきてくれてありがとう(^0^)
nariさんもブログやってるんですねnariさんの名前のところ
クリックしたらnariさんのブログに辿り着きました(^0^)
nariさんのブログは小説がメインなんですね★彡
オリジナルって自分で小説 書けるって凄いですね(*^▽^*)
よっこのブログはのんびりペースだけど、更新は
してるので、遊びにきて下さいねっ(^_-)-☆
nariさんのブログ、遊びに来ますねっ(^0^)

NoTitle 

男たちも、苦しいですね~。
愛する者のそばに行けないなんて。
とんでもない苦渋ですが、これが現実だったんでしょう。

飛んで帰れたとしても、最愛の文緒はもういない。
やっと帰ってこれた裕也も、安堵なんて無かったでしょうね。
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