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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第16章 二度目の夏~第21章 前夜


クロスステッチ 第1部第16章 二度目の夏 第1回

2010.04.07  *Edit 

 8月に入ってから、毎週金曜日の午前中、補習クラスの授業が
始まった。夏休みが始まってから、これまでのように増山と毎日
顔を合わせる事が出来なくなったので、この補習は有難い。去年
の夏は、まだ増山への思いをはっきり自覚してはいなかったから、
増山の顔を見られない事にそんなに抵抗は無かった。逆に、好きに
なってはいけないと言う思いの方が強かったから、顔を見ないで
いられる方が楽だった面もあった。
 一昨年、去年は、夏休み中は部活以外の日はゆきと一緒に図書室
で勉強していたが、今年はそれをしていない。既に二人の学力の
間には差が付き過ぎてしまっていて、一緒に勉強するには理子の方の
負担が大きくなってしまう。東大を目指す彼女と、平均的なランクの
短大を受験するゆきとでは、一緒に勉強するのには無理があった。
 ゆきは、小泉と距離を置くようになってから暫くは沈んでいたが、
中間テストを過ぎた頃から落ち着いてきた。元々、幼稚園の教諭に
なりたいと目指していたのである。その目標を目指して、頑張るしか
ないと腹を決めたようだった。それに、距離を置くと言っても、
週に一度は一緒に帰っていた。
 小泉とゆきは同じ中学に通っていたが、家は高校を挟んで反対側に
ある。だから、一緒に帰ると言う事は、小泉が自宅とは反対方向に
あるゆきの家まで彼女を送ってから帰ると言う事になる。小泉は
自転車通学だ。ゆきの家は学校から徒歩で30分程ある。普段は
バスで通っているが、小泉と帰る時は、二人で歩いている。だから、
小泉にとっては、30分少々の時間をゆきの為に費やしている事に
なるのだ。
 その事に、ゆきは感謝した。その時間さえ、本当なら惜しい筈だ。
なのに、ゆきの為に、そうしてくれている。それ以上の我儘は言え
ないと気付いたのだった。だが、それも、そう長くは続けられない
だろうと覚悟も決めていた。秋以降は、一緒には帰れないだろう。
 8月の、お盆に入る前の水曜日に、理子とゆきは、二人で海へ
出かけた。去年は伊東まで出かけて行ったが、今年は熱海にした。
二人は泳がない。ただ、海を見に行くだけなのだ。二人とも海を
見るのが大好きで、オールシーズン、気が向くと江の島や鎌倉まで
出かけていた。ビーチや堤防に腰かけて、お喋りしながらのんびり
と海を見ながら過ごす。ただそれだけなのだが、その時間が好きだった。
 二人はビーチや公園を、手を繋いで歩いた。ゆきの指はとても
細くて、手を繋いでいると理子はドキドキする。小泉はいつも
この手を繋いで歩いているんだな、と思うと嫉妬めいた気持ちが
湧いてくるのだから不思議だ。彼氏がいなかった一年の時などは、
自分はもしかしたらレズなんじゃないか、と疑う程、ゆきが好き
だった。嫋(たおや)かで、おきゃんで、儚げで、守ってやりたい
衝動に駆られる。
 ゆきは、子供の時に病気をしたせいで、小中学校の時には欠席が
多く、友達ともなかなか馴染めなかった。だから、高校へ入学した
時も不安で一杯だった。隣の席になった理子はとても明るく活発で
優しくて、すぐに親しくなった。
 そして理子は、まだ知り合ったばかりだと言うのに、ゆきの通う
病院まで学校帰りに一緒に付き添ってくれたのだった。いつもは
父の車で連れられて行くのだが、この日は父の都合が悪く、一人で
行かなければならなくて、とても不安だったのだ。その話しを聞いて、
理子はその病院を前から知っているから、一緒に行ってあげると
言って付いてきてくれたのだった。とても嬉しかった。
 その時に二人は色んな話しをして、互いを大好きになった。二人で
出掛ける時は、いつも手を繋ぐ。男の子のようにさっぱりしている
理子が、内向的なゆきには頼もしい存在だった。理子は、自分達
二人を、ヘンゼルとグレーテルと称した。兄のヘンゼルが理子で
妹のグレーテルがゆきだ。月齢でも理子の方が一年近く年上だ。
ゆきは理子と一緒にいると安心できた。学校の帰りによく横浜へ
遊びに行ったし、休みの日には、ゆきが好きな歌手の詩の舞台を
訪ねて出かけたりした。
 理子はゆきをよくリードしてくれ、出かける場所は、いつもゆき
の行きたい所だった。ゆきはロマンチストなので、ロマンティック
な雰囲気の場所が好きだ。だが、理子は、本当はどういう場所が
好きなんだろう?海も鎌倉も、山下公園も馬車道も、みんなゆきが
行きたいと提案した場所だった。
 小泉と付き合うようになってから、理子と出かける事が減った。
その事に対して、理子からは何も言われた事は無い。彼女はいつも
応援してくれた。小泉とのデートは楽しかったが、今よくよく考えて
みると、理子と遊びに行った時の方がもっと楽しかったような気がした。
 「理子ちゃん・・・」
 ゆきは呼びかけた。
 「うん・・・」
 と理子は応える。
 「海風が気持ちいいね」
 手を繋いだ二人に、乾いた風が吹き寄せる。8月に入ってから、
気温は高いが風は乾き始めていた。
 「水の中に入ろうよ」
 理子はゆきにそう言った。
 二人はサンダルを脱いで、波打ち際を歩いた。
 「理子ちゃん、彼とはどうなってるの?」
 「うん。まぁまぁかな・・・」
 ゆきの質問に、理子は足元を見ながら答えた。
 理子の雰囲気からすると、どうやら上手くいっているようだ。
レベルの高い国立を目指して一生懸命に勉強しながら、恋愛も
順調にいっている理子が羨ましく思えた。なんだか、自分一人が
取り残されてしまったような寂寥感を覚える。3年生になって
クラスが別々になった。二人は隣のクラスなので、何かあれば、
よく互いの教室へと顔を出す。だが、こうして二人で出掛けるのは
久しぶりの事だった。
 「理子ちゃんは、偉いね。恋愛しながら、ちゃんと勉強も
できてるんだもん」
 ゆきは小泉と付き合っている時、あまり勉強ができなかった。
気付くといつも小泉の事を思い出して、好きな歌手の切ない
ラブソングを聴いているのだった。
 「そんな、偉くなんかないよ。ここまで来るの、大変だったし・・・」
 ゆきは、自分と理子の違いを考える。国立目指して頑張って
いるのは理子と小泉だ。小泉は男だが、理子は自分と同じ、
恋する女の子だ。もし自分が小泉と同じように国立を目指して
いたら、今とは違ったのだろうか。いや、きっと同じだ。勉強
なんて手に付かなくなって、国立どころじゃなくなるだろう。
なのに、理子は変わらずに志望校目指して頑張っている。この
違いは、二人の性質が違うからなのか。あれこれ考えるが、
矢張りわからない。
 須田先輩と付き合っていた時、理子は小泉と付き合っていた時の
ゆきとは違って、彼氏よりもゆきと遊びに出かける方が多かった。
デートだからと、遊びを断られた事は一度も無かった。いつでも、
ゆきとの時間を最優先してくれた。須田先輩に対して、淡泊だと
思ったが、ゆきにはとても優しい。今も、彼氏には淡泊なのだろうか。
 「デートは?夏休み、どこかへ行ったの?もしくは約束してる?」
 「この夏休みは、デートは無しかな」
 理子の言葉にゆきは驚いた。
 「やっぱり、勉強が大変だから?」
 「うん」
 「でも、じゃぁ今日は?大丈夫なの?」
 「ゆきちゃんと出かけるの、久しぶりだし、夏休みの海は毎年の
恒例じゃん。図書室通いは出来なくなっちゃったからさ」
 「あたしは凄く嬉しいけど、彼の方は平気なの?」
 「どうなのかな。でも、今年で終わりだから。こんな夏も」
 ゆきから見ると、矢張り理子は淡泊に見えてしまう。それに、
大人の男性と交際しているにしては、以前と殆ど変りが無く、
サバサバしているように感じる。
 理子は、須田先輩の時と違って、今付き合っている男性の事を、
とても好きだと言う。最初、彼女がいると知っていても好きだと
言っていたのだから、一途な面も持ち合わせている。そう言えば、
一年の時に、中2の時からずっと片思いの男の子がいた。最初の
夏が来る前に、自ら吹っ切っていた。その後、須田先輩と付き合う
まで、誰も好きな男子はいなかったようだ。
 理子がずっと片思いをしていた男子は、ゆきも知っている。
理子とはとても仲が良くて、知らない人間が見たら付き合って
いると誤解する程だった。その男の子と接している時の理子は、
とても女の子らしくて可愛かった。ゆきもその恋を応援していた。
だが、彼は、入学して知り合った同じクラスの女の子と付き合う
ようになったのだった。
 教科書を忘れては、理子の所へよく借りに来ていた。落語研究会
に入っていて、文化祭で浴衣を着てやりたいから着方を教えてくれ
と言われて、理子と二人で教えに行った事もあった。とても明るくて
瓢(ひょう)軽(きん)な性格の男子だった。凄く仲良しだったのに、
お似合いなのに、好きになったのは別の女の子だったのだ。
 どうして理子ちゃんを好きにならないんだろう?あんなに仲良し
なのに、とその時にゆきは不思議に思ったものだった。理子の話し
では、同じような事が中学の時にもあったと言う。その時の事で
可哀そうだと思ったのは、彼女ができた喜びを真っ先に理子に報告
した事だ。「理子に一番最初に知って欲しかった」と、その時に
言われたそうだ。とてもショックだったと理子は言っていた。
 中2になる時、それまで好きだった枝本が別の学校へと移って
しまい、新しいクラスで一緒になった多田哲郎と言う男子だった。
夏休みに入る頃に、好きになっている事に気付いたと理子は言って
いた。それ以来、約2年間も好きだった事になる。彼女がいる枝本の
事をずっと思い続けていた事からしても、矢張り理子は一途なのに
違いない。須田先輩に淡泊だったのは、それ程好きだったわけじゃ
ないからなのだろう。
 理子は、多田に再び彼女ができた事をきっかけに、彼を思い切る
事にしたのだった。どうしたって、友達以上にはなれないんだと、
改めて思ったのだと言う。可哀そうだった。だから、須田先輩と
言う彼氏ができた時、ゆきはとても嬉しく思った。須田先輩は大人
でとても優しい人だった。これで理子ちゃんも幸せになれると思ったのだ。
 今の恋はどうなんだろう。理子ちゃんの彼氏は一体、どんな
人なんだろう?とゆきは思わずにはいられない。何故なら、自分の
恋をこんなに語ってくれないのは初めてだったからだ。
 ゆきは、寄せてくる波と格闘している理子を見た。楽しそうに
笑っている。相手が大人で辛い思いをしたりはしていないか。
いつの間にか理子の優しさに馴れて、自分は理子を思いやって
来なかったのではないかと気付いた。
 去年、ゆきが図書室での約束を忘れてしまった時、理子はずっと
待っていてくれた。あの時、先生は理子が泣いていたと言っていた。
そうだ。彼女は、本当は脆い人なんだ。なのに、いつも自分の事を
思いやってくれる。その事に感謝の念を抱きつつ、いつまでも、
このままじゃ駄目だと思った。もっと自分もしっかりして、理子に
迷惑をかけないようにしなくては。そして、自分も彼女の力になって
あげられるようになろうと、ゆきは思うのだった。
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