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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 15

2012.01.03  *Edit 

「なんか、樹って役者だよね。将来、俳優になったらどう?
二枚目だし、引っ張りだこになるんじゃないの?」
 幸也は冷やかすように言った。
 実際、本当にそう思う。
 日常的に、あまり感情を顔には出さない方なのに、集団の中へ
入ると豹変すると言っても良いくらい、顔つきや態度が変わるのを
幸也は見て来た。学校へ行き出すようになってからだ。
「まぁ、自分でも装うのは上手い方だと思ってるよ。だけど
役者にはなりたくないな。別に好き好んで自分以外の何者かに
なりたいなんて思わないしね。好き勝手な役をやれる訳でもないしさ」
「スターになってみたいとか、そういう気持ちは全くないの?」
 樹は呆れたような笑みを浮かべた。
「君は案外ミーハーなんだな。スターなんてものになりたいだ
なんて、微塵も思った事は無いよ。憧れる事もない」
「長谷川一夫とか市川雷蔵とか、かっこいいと思わないの?
僕は憧れるけどなぁ」
「映像を見て、学ぶ所もあるとは思ってる。だけど、演じている
人間にはあまり興味がない。所詮は、演じさせられてると
思うからさ。長谷川一夫なんて、戦時中の活動を見ると哀れじゃ
ないか。国策に沿った作品ばかり演らされて。所詮、役者なんて
その程度の扱いでしかないのさ」
「それは確かにそうだけど……」
 幸也はなんだかガッカリした。憧れのスターに対する樹の言葉は、
許せないと思える程のものではないが、全く夢の無い現実的な
言葉に心が萎えてくる気がした。
「ユキ、ごめん。君を批判してる訳じゃないんだ。役者は
演じる事で、人々に様々な感情を喚起させる。喜びも悲しみも。
それ自体は価値のある事だと思ってはいるんだ。ただ僕には、
そういう仕事は性に合わないって、そう思っているだけなんだ」
 軽い気持ちで口に出しただけなのに、なんだか深刻な話しに
発展してしまったような気がした。僕は軽率過ぎるのだろうか?
と、ふと幸也は思った。単に冷やかすつもりだっただけなのに、
いつの間にか思いがすれ違っている。
 そう。すれ違っているのだ。
 結婚の話題にしても、そうだった。
 共に同じ女性の許で育ってきたのに、この違いは何なのだろう。
 兄弟のように育ってはきたが、実際には兄弟ではない。
兄弟であっても違う人間なんだから、違いがあるのは当たり前な
筈だ。実際、幼少の頃から、樹と自分の性質の違いははっきりと
分かっていた。それなのに、何故今になって、その違いが
気になるのだろうか。
「どうしたの?気を悪くした?」
 その言葉にはっとした。幸也は慌てて「ううん」と首を振った。
樹はそんな幸也をジッと見つめていた。綺麗な琥珀色の瞳の色は
そのままで、感情は読めない。
「スターに憧れる君の感情は普通の感覚だよ。だから、僕の言葉に
気に病む必要なんてないから。僕はそんな君が好きなんだし」
 どうやら気遣ってくれているようだと幸也は分かり、笑顔になった。
「そんな事を言われると、ちょっと照れるかな。樹に言われて、
自分はまだまだ子供っぽいなって思ったんだ」
「馬鹿だな。僕達はまだ子供だよ。スターに憧れて可笑しくない
年ごろさ。だから君は健全さ。僕がちょっと変わっているだけ。
でも僕は、自分に無いものを持っている君に憧れるんだ。
……そう。憧れの対象はスターじゃなくて、君さ」
 樹の瞳が金色に輝いた。機嫌の良い時の色だ。母が亡くなってから、
この瞳の色を初めて見る。柔らかな笑みの中でその瞳を向けられて、
幸也の胸の鼓動が急に速くなった。
 美少女のような樹の、淡い桃色の唇からもたらされた言葉と
金色の視線が、歓びの感情を湧きたてて、胸を締め付けてくる。
 どうしてこんなに嬉しいのだろう……。
 共に育ちながら、その違いに寂しさを感じていたのかもしれない。
一番近い所にいる筈なのに、その存在を遠いと感じた。相容れない
ものがある事を漠然と感じながらも、その事をはっきりと
教えられたような気がしたのかもしれない。だから意気消沈したのだ。
 だが、目の前にいる樹は、その違いを認識した上で幸也に
憧れていると言った。その事がたまらなく嬉しい。そして思った。
憧れているのは、自分も同じだと。自分も憧れているのだ。樹に。
だから、彼の言葉や行動に一喜一憂する。
 こんな顔は、きっと僕以外の誰の前でも見せないに違いない。
そう思うと、何だか優越感が湧いてきた。
「じゃぁ僕は……、君のスターって事になるのかな」
 幸也は照れくさくて、思わずそんな言葉を口走ったら、
樹がプッと吹きだした。
「ユキってば、しょってるな。じゃぁまぁ、そういう事にしておいて」
 そう言いながら、尚もクックックッと笑っている。幸也は
そんな樹を見て心が軽くなって来るのを感じた。母が亡くなってから、
魂の抜けた人形のようだった彼の様子にずっと胸を痛めて来たが、
今は笑っている。心の底から笑っている訳ではない。それでも、
笑えるようになったのだ。その笑顔がすぐに曇るものであったと
しても、感情の起伏が生じてきているのは確かに生きている証しだ。
「それで、リチャードは反物を受け取ったんだね?」
 笑いが少し治まってきた所で幸也は問いかけた。
「ああ。『僕は君の決意を深く受け止める』、とかなんとか
言ってね。思い起こしてみると彼はとても理屈っぽい男だったな。
自分の行動に何かしら理由づけをしないと気が済まない
性質(たち)みたいだ。その癖、情に脆くて」
 リチャードは、樹が妹の状況に逼迫していると理解して、
急いで出かけて粉ミルクを調達してきたのだった。飲んで帰って
きたのだから時間は真夜中に近い。そんな中、何軒も回って
相手を叩き起こしたらしい。
これしか手に入らなかった
 リチャードは消沈したようにミルクの缶を二つ差し出した。
友禅がどれだけ高価な物か、僕は知っている。それを2つも
手にしながら、たった2缶とは
……」
 済まなそうに肩を落としている様子に、さすがの樹も申し訳ない
気持ちになった。確かにミルク二缶では安すぎるが、彼の行動に
対する感謝の念は拭えない。
今は喉から手が出るほど欲しい品です。それを2缶も入手できる
だけでも私は嬉しいです。それに、あなたの善意にも
……」
 意気消沈しているリチャードの肩の上に、樹はそっと手を乗せた。
「Oh!,my lady……」
 リチャードは樹の手を取り接吻した。樹はゾッとしたが我慢した。
(いつの間に、マイレディになったんだ)
 内心では憤慨している。
(この男は、すっかりいかれてるな。まるで女神でも崇めるように
僕を見ている。なんだか滑稽だ)
 リチャードの善意に感謝の念を持つ一方で、冷めた目で
冷笑している自分がいた。
君の言葉に癒される。けれどもこれじゃ、納得がいかない
 リチャードは「ちょっと待っててくれ」と一言残し、
奥へと姿を消した。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

揺れるお年頃の上に、文緒の死と言う大きな
出来ごとがあっただけに、いろんな想いを二人とも
抱えているんでしょうね。

樹は謎が多いですね。
少しだけネタバレになりますが、互いに歩み寄ると
言うよりは、素直な幸也に樹が故意に合わせているんですね。。。

やがて、本心を表す時がやってきますが、
それすらも全てではありません。

NoTitle 

幸也も樹も、複雑な感情を持つ年頃ですもんね。
何気なく相手が入った言葉に、本心で答えようとすると、少しずつずれが出てきてしまって悩むんでしょうね。

でも、それでも歩み寄ることのできる程度に、大人になって来てるなあって感じます。
このまま、いい具合にお互いを思いやりながら、大きくなって入ってほしいです。
樹は・・・まだまだ謎な部分がたくさんありますが^^

しかし、リチャード。あまりにいい人で、ちょっと気の毒なほどですねw
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