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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第9章 染まる染まらない~第15章 許されざる者許す者


クロスステッチ 第1部第15章 許されざる者許す者 第5回

2010.04.06  *Edit 

 増山と会った翌週、宗次の元に増山の父親である増山雅人が訪ねて来た。
場所は会社である。前日に電話が掛ってきて時間を約束していた。
 「どうも、はじめまして。雅春の父親の、増山雅人です。この度は、
お嬢さんの事で息子がとんだお願いに上がりまして、さぞや驚かれた
事と思います。お許し頂いたと息子から聞いて、本当に、何とお礼を
申し上げたら良いか。本当に、ありがとうございます」
 雅人は、そう言って、深々とお辞儀をした。
 「いえ、そんな。どうか、顔をお上げ下さい」
 宗次は恐縮した。そこまで丁寧に礼を言われるとは思っていなかった。
 雅人は顔を上げると、「失礼しました」と言って、名刺を出してきたので、
宗次も慌てて名刺を出した。交換した名刺には、中田製薬、取締役と確かに
印刷してあった。自分はただの係長である。少し肩身の狭い思いがした。
 増山雅人は、息子の雅春と同じように背が高く、堂々とした風貌を
していた。顔立ちも整っていて、落ち着いた中年紳士と言った感じだ。
瞳はとても優しくて、偉そうな感じは全くない。好感の持てる印象である。
 「吉住さんには、今回の事は大変驚かれた事と思います。まだ
高校生なのに、担任の教師と、卒業後とは言え、結婚したいなんて
話しですからね」
 雅人は恐縮そうに言った。
 「息子さんは、そちらでは大変うちの娘を気に入ってくれていると
おっしゃってましたが、その、相手が受け持ちの生徒である事に、
抵抗とかは無いんでしょうか」
 増山に言われても、今ひとつピンと来なかった事だ。
 「最初に息子から聞いた時は、確かに驚きました。教師になった
ばかりだと言うのに、受け持ちの生徒さんと恋愛関係になるなんて、
何をやってるんだって思いましたよ。ですが、本人が本気だから会って
欲しいと懇願するので、まずは会ってみようと思い、うちへ来て貰ったんです。
お会いしてみたら、これが実にいいお嬢さんなので、みんな好きに
なってしまったんですよ。息子が惚れるのもわかりました」
 雅人はそう言って和やかな笑みを浮かべた。
 だがそう言われても、宗次にはピンとこない。
 「そう言われましても、親としては娘のどこが良いのか良くわからない
のですが。なんせ、まだ高校生の子供ですし・・・」
 宗次は苦笑する。そんな宗次に、雅人は優しい笑みを向けた。
 「お嬢さんは確かにまだ高校生ですが、実にしっかりしてらっしゃる。
それに、優しくて、ユーモアがあり、溌剌としていて、それでいて
恥じらいもある。聡明ですし、感性が豊かだ。今はまだお若いが、
いずれ理子さんの方が息子をリードしていくだろうと思いましたよ。
うちの息子は結構、ああ見えて子供っぽい所がありましてね。ですが
普段はとても冷静でして。あまり感情を表に現さないんですよ。小さい
時はそうでも無かったのですが、育つにつれ感情を見せなくなった。
それが理子さんの前だと、とても感情豊かな表情をするんです。それに、
何より幸せそうな顔をするんですよ。そんな顔を見たのは初めてです。
そういう息子を見て、反対なんてできませんよ。私達も理子さんと一緒に
いると楽しい気持ちになりますし、本当にいいお嬢さんです」
 幸せそう、か。確かに理子も、増山との結婚を許した時、とても幸せ
そうな顔をした。全面的に増山を信頼している様子が伝わってきていた。
 「そうですか。そう伺って安心しました」
 宗次は静かにそう言った。
 「本当に、こちらは感謝の気持ちで一杯です。一般的には、まだ
お嫁に出すには早い年齢の娘さんですからね。私達は親馬鹿でして。
うちの息子なんですが、あの通りの外見なので、幼少期から異性の
人気が高くてですね。でも本人は割と偏屈と言うか、チヤホヤされるのが
苦手なんですよ。だから、ずっと女嫌いの気がありまして・・・」
 宗次は、雅人から増山の女性遍歴を聞かされて驚いた。
 「そういうわけで、女性には冷たい男なんですよ。学校でも、女生徒
には大変冷たく接しているとか。そんな息子が、唯一、心を許し愛した
女性が理子さんなんです。息子はとても一途なので、これから先も、
ずっと理子さんだけを愛し続けるでしょう。浮気の心配なんて全く無い
ですから、その点はご安心下さい。これに関しては、親の私も保証できます」
 雅人はそう言って笑った。その笑顔を見て、宗次は不思議な親子だと
思った。増山が情熱的なのは、この間の会見でわかった。えらく理子に
ぞっこんだな、という印象を抱いた。どうして、そこまで入れ込んで
るのか、宗次には理解できなかったし、今だって理解できない。ただ、
とても理子を愛していると言うことだけは、よくわかった。
 「息子は、親の私が言うのもなんですが、信用できる男です。学者
気質なので偏屈な部分もありますが、有言実行の男です。自分に正直で、
正直過ぎて困る部分があるものの、いい奴です。理子さんの為なら命を
捨てる事も惜しまないでしょう。大袈裟だと思われるかもしれませんが、
それ程、深く愛しているのです。どうか、よろしくお願いします」
 雅人はそう言うと、再び深々とお辞儀をした。
 「いや、どうか、その・・・」
 宗次は何と言っていいかわからなくて、シドロモドロになってしまった。
 娘が女子高生だと言う事を抜きにして考えれば、良縁だろう。本人は
東大出の県立高校の教師で安定しているし、人柄にも問題は無さそうだし、
何より娘を深く愛している。実家は金持ちで、俗に言えば玉の輿だ。
何の不足があろうか。
 「それで吉住さん。結婚式の事なんですが・・・」
 「はい・・・」
 「息子からも聞いてると思いますが、ゴールデンウィークにやりたい
との事でして、本人はこの夏休み中に見つけて予約する気でいます」
 「はい。そう聞きましたが」
 「それで、構わないでしょうか?3月末に入籍してそのまま一緒に
暮らすそうなので、式もあまり先に延ばすよりは妥当な線かと私どもも
思った次第ですが」
 「構うも構わないも、本人達がそうすると言ってるので、了承するしか
ないです。家内の方がどう反応するかは、私にもわからないんですが・・・」
 宗次は恐縮してそう言った。あの妻の事だ。どうなるかわからない。
最悪の事態も考えられる。
 「それに関しましては、息子からも聞いています。理子さんから、
もしかしたらお母さんは欠席されるかもしれないと。理子さんは、その事で
うちに恥をかかす事になるのではないかと心配されたようですが、そういう
心配は一切なさらなくて大丈夫ですから。そんな事を恥だなんて思いません。
人間ですから、様々な事情があるのは当然です」
 宗次は、雅人の言葉に驚いた。話しをしていると、とても鷹揚で懐の
深い人物という感じがする。
 「ちょっと、気になる事があるんですが・・・」
 宗次は、増山の経済観念について訊ねた。どうしても、心配でならな
かったからだ。
 「なるほど。お父さんが心配されるのも尤もです。大事な娘さんを嫁が
せるわけですからね。本人からの話しだけでは、よくわからなかったんで
しょう。実は、息子には投資の才があるんですよ。これには親の私も驚きましたが」
 「投資の才?」
 「そうです。経済学部の生徒でもないのに、独学で始めた株が見事に
当たりましてね。最初はまぐれかと思ったんですが、これが中々でしてね。
上手いんですよ、売買のタイミングが。欲を出さないので、売る時も思い
きりがいいんです。でもこれは、株取り引きには必要な事なんですよ。
見切るタイミングが悪いと大損しますからね。どうも、私の父親の才能を
受け継いだみたいです。学者にしておくのが勿体ないくらいです。本人の
経済観念は、ごくごく普通ですよ。幸い、倹(つま)しい暮らし向きでは
無かったので、貧乏の経験は無いですから、そういう点では苦労知らずと
言えるかもしれませんが、今時分、苦労して育った人間の方が稀ですからね。
マンションやピアノを買うのは、みんな理子さんの為です。息子が必要だと
思ったから買うんでしょう。無駄遣いをするわけではないです。金は腐る
ほど持ってますから、その位の金額なんて、屁でもないんじゃないかなぁ」
 そう言う雅人の顔を見て、矢張り住む世界が違うと思う宗次だった。
農家の家の次男として生まれて、自分の働いた金で専門学校を卒業した
宗次からすると、別世界の人間のように思えた。そもそも、妻も別世界の
人間だったのかもしれない。自分にとっては高嶺の花だったのだ。
 自分達が結婚する時も、大手重工業の工場長をしていた義父は反対せず、
義母の方が大反対だった。その反対を押し切って一緒になったのである。
それなのに、今の夫婦の姿はどうだ。理子も同じような思いをしない
だろうか。そんな不安が湧いてきた。
 「こんな話しをすると、次元が違うとか思われるかもしれませんが、
そんな事は無いですから」
 と、宗次の不安を敏感に悟ったのか、雅人が言った。
 「息子は本当に、普段は堅実です。株で稼いだ金だって、使い道が
無いからずっと口座に預けたままです。金額が大きいので、利息が増えて
ゆく。教師の給料だって、あまり使っていないので貯まる一方です。
ですから、浪費家だとか思わないでやって下さい。必要以上に使う事は
無いですから。好きな女性には気前がいい。その程度だと思って下さい。
それに、お宅のお嬢さんはとても経済観念がしっかりされてる。だから、
無駄使いをする事もないでしょう。後は、この先、娘さんが生活に困る
ようなことは無いと言う事です。私達も幾らか子供達に残すつもりですから」
 雅人は自信たっぷりな様子でそう言った。
 「そうですか。わかりました。増山さんを信用します。どうか、
今後とも娘をよろしくお願いします」
 宗次はそう言うと、深々と頭を下げたのだった。
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