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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 14

2011.12.21  *Edit 

 笑い過ぎて、腹の筋肉がつってきた。十四年間生きて来て、
これ程激しく笑った事は無いような気がした。それほどに
可笑しかった。幸也の大笑に不服そうな顔をしていた樹も、
やがて一緒に笑いだした。そして、ひとしきり笑った後、
がばりと跳ね起きて幸也の肩を掴んだ。
「もう、そろそろいいだろう?続きを話しても」
 瞳が輝いて見えた。その瞳に魅せられて、幸也は大きく頷いた。
「リチャードは、『本物のお姫様に逢うのは初めてだ』と言って、
敬うような視線を僕に向けたよ」
 リチャードは、樹に手を引かれた後も跪いたまま、
憧憬の眼差しで樹を見つめていた。
君のことは、最初からどこか他の女達とは違うと思って
いたんだが……。そういう訳だったんだ

 頷きながら納得したと言わんばかりにそう言うリチャードが、
樹は可笑しくてしょうがない。
(そりゃぁ、他の女達とは違うさ。僕は男なんだから)
 この男は、僕を男かもしれないと微塵も疑っていないのだろうか?
それ程の女顔と言う事なのか。大体、男だから胸が無い。
こんなぺったんこな胸の女もいるものなのだろうかと、
樹は不思議に思う。
 確かに日本女性は欧米の女性に比べて肉感的とは言い難い
体型ではあるが、経験豊富そうな中年男が、外国人とは言え
男女の見分けもつかないとは間抜けな気がしてくる。
 だが、そんな内心とは裏腹に、樹は気品に満ちた微笑みを浮
かべた。この微笑みで、国民学校でも一中でも周囲を悩殺して
きたのである。自分の笑みが大きな武器になる事を既に
十分知っている樹だった。
あなたのような気高いお姫様が、幼い妹の為に私達の所まで
やってこなければならない世情を私は悲しく思う

 リチャードは目を潤ませていた。
そう思ってくれて嬉しいです。戦争は国と国の事情だから、
私にはよく分かりません。でも……、子供には関係の無い事です。
それなのに、多くの子供達が死にました。だから……。
助けて欲しいんです。こうして出会えたのが親日派の貴方で
良かったと、私はつくづく思っています

 樹の言葉にリチャードは優しい笑みを浮かべて深く頷いた。
僕も、君が僕の所へ来てくれて良かったと思っている。
君はとても綺麗だ。そしてとても若い。君のようなお嬢さんが
訪れてきたら、大抵の男はきっと君を……。そう思うと、
本当にこれは天の采配だ。神の思し召しに違いない

 リチャードはそう言うと、胸の前で十字を切った。
 天の采配……。神の思し召し……。いやこれはきっと、
ふぅの仕業だ。ふぅが僕を守ってくれたに違いない。そして、
この男と出会わせたのだ。
 下準備をし、あれこれと考えて出て来たが、行動そのものは
無謀だ。米軍が駐留するようになってから、あちこちで
婦女暴行事件が発生している事は知っている。
 最初に出会った若い兵士は樹を見てすぐに少年と悟ったが、
女顔の樹をボーイッシュな少女と思っても不思議はないし、
少女を好む成人男子の存在も承知している。それを考えると、
子供扱いして親切に対応してくれた事からして幸運だったと
言えるだろう。
こうして巡り逢えたのが天の思し召しなら、僕は君の望みを
叶える使命を負っているのだと思う。……生憎、粉ミルクは
手許には無いが、何とかして手に入れてあげよう

本当ですか?」
 思わず聞き返した樹の言葉に、リチャードは大きく頷いた。
既に家族と住んでいる将校もそれなりにいるし、赤ん坊のいる
所帯もある。だから入手は可能だ。ただ今夜はもう遅い。
君さえ良ければ、今夜は泊まっていってくれないか。そして、
日本の色んな話しを聞かせて欲しい

 樹は僅かに眉をひそめた。
 できれば今夜中に帰りたい。何日も留守にしていて、さすがに
家の事が気がかりだった。それに澪の事も心配だ。
私もあなたともう少しお話ししていたいのですが……。
妹の事が心配です。もし間にあわなかったらと思うと
……」
 樹は思いきり哀切に満ちた表情を浮かべながら、持っていた
背嚢から反物を出した。
これはっ!」
 リチャードは大きな目がこぼれ落ちそうな程、眼を見開いた。
「Oh!Beautiful!!」
 手に取って魅入っているリチャードを見て樹は満足した。
アメリカ人が好みそうな派手な色柄の反物を選んできた。
もう三十路を過ぎていると言うのに、久恵は派手好みだった。
これは……、友禅ですか?」
 リチャードの言葉に樹は驚いた。
よくご存じですね
日本の着物は芸術です。大変美しい。特に友禅は華やかで
心が浮き立ちます

 樹は笑顔で「それは良かった」と言って、もう一つの反物を出した。
こちらも、友禅です
おおっ!!ですが、ちょっと雰囲気が違いますね
お好きとおっしゃるだけあって、さすがですね。最初に
出した方が京友禅で、こちらは加賀友禅です

 友禅とは着物の染色方法の一つで、簡単に言えば着物を
一つのキャンパスと見立てて一つの絵を描いたものである。
元絵師である友禅斎が考案した技法で、京で生まれ、後に
友禅斎が加賀へ移転し、そこでも発展した為、京友禅と
加賀友禅の二つが友禅の主流として発展した。
 土地柄の特徴がそれぞれあるが、多色で鮮やかな色彩で
ある事は共通している。
この二つの反物を貴方に差し上げます。ミルクを分けて
頂く対価として

 リチャードの顔に複雑な表情が浮かんだ。
私は……、こうして友禅を目の前にし、触れる事ができて
いるだけでも十分です。これを自分の物に出来るのは大変
嬉しく思うものの、こんな高価な大切な物を貰う事に抵抗も
感じてしまう

 眉をひそめている。どうやら困惑しているようだ。
リチャード……。私には他にお支払いできる物がありません。
あとは……この身くらいしか
……」
 恥じらうように目を伏せる。
「オーゥ!それはいけません!」
 困惑顔が、いきなり厳しい顔つきになった。
高貴な貴女が、そんな事をしてはいけません
 説教口調だ。
でも、誇りだけでは生きてはいけないのです。それでも、
その誇りを維持できるならしたい。そう思うから、それを
対価として持参したのです

 嘘では無い。自分の身は売りたくない。それには対価が必要だ。
物資が不足している中で、紙幣は紙くず同然で何の価値もない。
そもそも、家にはまとまった金は置いていない。世帯主が
いないからだ。大殿当てに送金はされているようだが、
大した金額では無かった。
 樹は相手の憐情を煽るように表情を作った。だが、
高貴な者の矜持を示す事も忘れない。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

リチャード、笑っちゃうよね。いい歳した大人のくせに、
お茶目?

そうそう。樹ってば、ちょっと相手を見くびりすぎかも
しれませんね。油断は禁物。
まだもう少し続きます。。。。^^

NoTitle 

リチャード!なんてイイ人なんだ。
そして、かわいい人ですね。
樹が出会ったのがリチャードで本当によかった。

樹、やっぱり冷静ですねぇ。相手の出方をちゃんと見てる。
そうそう。
ぺっちゃんこ胸の女の子、いっぱいいますもんね^^
(そうよ私だって、なんにも無いわよ。娘に抜かされそうよ)

しかし樹、
あとは……この身くらいしか……
なんて言っちゃだめですよ~。
イイ人だって、いつ豹変するかわからないんだから~。

って、いろいろハラハラします^^;

もっと樹の話、聞きたいです!

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

今回の事は、本当にきっと文緒のお陰なんでしょうね。
彼女が樹と澪を守ったのかもしれません。
天地がひっくり返る程の激動の中、運が強くないと
生き残っていけなかったと思います。
勿論、座していては何も成し得ないですが。

樹の回顧も、あと少しで終わりです(^^)

NoTitle 

オーウ!加賀友禅よりも樹のほうが高貴ですかー!
(いい加減、この外人訛りやめよう)(^^;

本当に、これはもうふぅの仕業としか思えなくなってきました。
世の中にはこうやって、考えられないほどの幸運に恵まれる人が本当にいるんですよね。
でも、たぶん、それは、その「幸運」を「幸運」として受け止めて、誰かがそれをもたらしてくれた、と感謝することができる人にだけ訪れるんでしょう。

あぁ本当に、この樹の告白を読む間ドキドキしました。すっかり自分が幸也になった気分でした。
さて、これで問題なくミルクを手に入れられたのかな・・・?
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