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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 13

2011.12.10  *Edit 

「そ、それで……、どうなったの?リチャードとは」
 幸也は話題を元に戻して先を促した。
 樹はひと呼吸置いた後、続きを話しだした。
「彼は、真面目で良心的な人物だった。だから、困っている事を
素直に話したよ。自分が男である事は伏せたままだったけどね」
 そう言った樹は、小悪魔のような笑みを浮かべた。
 父は戦地から未だに戻って来ず、母を亡くして産まれたばかりの
子供を抱えて乳が無くて困っている。周囲に授乳してくれる者もなく、
このままでは妹が餓死してしまう。だから粉ミルクを手に
入れたくてここまで来た。樹はそれを相手に同情を誘うように訴えた。
日本の食糧事情の厳しさは、一応知っているが……」
 リチャードは厳しい顔つきだった。
闇市で手に入るなら、そうしていました。それができないから、
直接お願いするしかないと思って
……」
どうして僕に?」
最初は……、誰にお願いしたら良いのか分からなくて、街を
さまよっていたら若い兵隊さんに声をかけられて
……」
若い兵士?」
はい……。陽気な人だったので、粉ミルクが欲しい事を伝えたら、
それは自分には無理だって。でも、上の階級の年配の将校なら
入手できるかもしれなと言われて

 躊躇いがちに言った。
 リチャードは溜息を洩らした。
上級将校だからって、何でも入手できるとは限らないのにな。
無責任な事を言うヤツだ

 そう言うとリチャードは難しい顔をして腕を組んだ。その顔を
そっと見つめる。金色がかった褐色の髪に、同じ色の眉が太く
真っすぐ伸びていて、睫毛までもが薄い色であるのを不思議な
気持ちで見つめていた。
 肌の肌理は少し荒く、剃りあとの濃い髭の辺りはザラザラした
印象だ。鼻が考えられない程、高い。黒船が来た時に描かれた
アメリカ人の似顔絵は異様な顔をしているが、その鼻の大きさを
見ると、それだけインパクトが強かったんだな、などと思ったりした。
 果たして、手に入れる事ができるのか?見慣れない外国人の
顔を評しているところでは無い筈なのに、なぜか珍しい顔貌に
興味が湧く。
 リチャードの視線が樹に向けられた。見つめられている事に
気付いたのだろう。ドキリとしたが、眼を逸らせずにいた。
リチャードの瞳は小さく揺れていた。白い部分が薄く青み
がかっているようで、綺麗な瞳だな、と思った時、薄くて大きな
唇が動いた。
君は、どうしてそんなに英語が上手なんだ?」
 思いも寄らない質問だった。
そう多くの日本人に会ってはいないが、こんなに上手な日本人は
通訳以外で会った事が無い。見た所、君はとても若いし……。
事情を聞けば、日系二世と言うわけでもなさそうだ

 訝しそうな視線に、樹はにっこりと微笑んだ。
基本は母に教わりました。後は家庭教師に。日本の学校では、
敵性言語と言う事で途中から英語の勉強は無くなったのだけれど、
将来を見越す目を持った母は、英語の勉強を続ける事を
課してたんです

 彫りの深い、奥まった場所にある目が大きく見開かれた。
それは、凄い!なんて素晴らしいお母さんなんだ。教養の
高い女性だったんだね

 樹は大きく頷いた。誇らしい思いが湧いてくる。
どんな時代にあっても、学問を疎かにしてはいけないと
教えられたんです。本当に素晴らしい女性でした

 文緒の事を思うと体が熱くなってくる。樹の白い体に熱気が
帯びて来た。リチャードは頷きながら「全くだ」と言った。
教育は大事だよ。……これまでの日本の教育は間違っていた。
ミカドを敬う心は素晴らしいが、皇国史観に則った軍国主義教育は
国も国民も滅ぼす
……」
 リチャードは瞳に熱いものを滾らせていた。
これから日本は産まれ変わるんだ。その為にも、教育は大事だ……」
 そう言った所で、リチャードはハッとした顔をした。
君のお母さんの話しを聞いて、今思ったんだが、ひょっとすると、
君の家は名家なんじゃ
?」
 探るような目に、樹は気品高く、黙って微笑む。こういう
奥ゆかしさはアメリカ人には通用しないかもしれない。だが樹の
微笑みを見て、リチャードは感じるものがあったらしい。
畏れ多い者に対するような感情が瞳に浮かんできた。
 アメリカの歴史は浅い。自由の国で、基本的には身分の差は無い。
だが、流れ者の集団だ。だからこそ、伝統や高貴なものへの憧れを
持っている事を、アメリカの歴史を学んだ時に知った。
 特に、目の前にいる男は親日派だ。これは武器になるかも
しれない。そう樹は思った。
 樹の気高い微笑みは、気高さを湛えたまま僅かに哀切を
浮かべていた。
私の家は……、ミカドとは遠い親戚で華族の家柄です。
でも今となっては、そんなものは
……」
オーゥ!華族!」
 リチャードの声は驚く程、大きかった。だがその声音は批判的な
色合いは全くなく、思いもよらない珍宝を見つけた時のような
驚きに満ちていた。
あなたは、お姫様だったのかっ!」
 リチャードは立ち上がると、すぐさま樹の前に膝を付き、そっと
手を取って甲に唇を付けた。
 とっさの出来ごとに唖然とした。映画で見たシーンそのものだ。
西欧諸国の男の当たり前の行為なのだろうが、日本においては
信じられない光景だ。映画は作り物だから不思議に思いながらも
平然と見ていた行為だったが、それがまさか現実に自分の
身の上に起こるとは。
 リチャードの唇が離れるのと同時に、樹は手を引いた。
なんだか気色が悪い。樹の手を取った男の手には、ごわごわした
硬そうな縮れた毛が生えていた。
「あっはっはっはっは!」
 それを聞いて、幸也は思わず大笑いした。たじたじしてたで
あろう樹の姿を想像すると、なんだか目に浮かぶようで、
可笑しくて溜まらない。いつもスカしている樹である。その彼の
狼狽した姿など、滅多に見れないだろうから、こっそり覗いて
みたかったと思うばかりだ。
「何を笑う」
 樹は不服そうに幸也を睨んだ。
「だって……、これが……笑わずに、いられるかよ」
 幸也は腹を抱えた。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

レス遅くなってスミマセンv-356

樹もまだまだウブなんでしょうね^^
肝が据わってそうですが、幼少の頃を思い返してみると、
繊細で傷つきやすかったような気が……。

可愛い樹の冒険談も、もうすぐ終わりを迎えます。
まぁ、どうってことはないんですけどね(^_^;)

NoTitle 

うー、かわいい~。
一見肝の据わってそうな樹が、こんな行為に驚くとは。
(もっと驚かせてみたい^^)

ここで樹が言っていた「母」というのは文緒ですよね。
なんだか、そんなところも切ないですね。
でも、確実に文緒の教育が樹の中で生きているのが、樹の自慢なんでしょうね。

過去の出来事と、現在の語り愛が混在してるのに、違和感無く入って来るのが凄いです。

このあとも、樹の語る冒険談を、楽しみにしています^^

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

ウフフ……そうでしょう、樹ったら、可愛いわよねぇ(^m^)
幸成が爆笑するのも当然よね。

そうそう。手籠めにされる覚悟をしながら、これしきの事で
びびってるんですよ。まぁ、男にこんな事されて
気色悪く思うのも分かりますけどね。
もともと欧米人だったら、このくらいは平気なんだろうけど、
なんせ一応日本男児で、こういう習慣が無いですからねぇ。
意表を突かれてしまったんでしょうね。安全な男と思っていた訳だしww

まぁ、武器にできるものは何でもしないとね。
少しでも立場的に有利になっておくのが
取引を思うように進めるネックでしょうし。

或る意味、この時代はまだまだ二人には良い時代だったのかも
しれません。背景的には厳しいですけどね。

NoTitle 

オーーーウ!!樹、カワイイでーーーす!!

あははは。
手篭めにされることも覚悟していたのに、そんなふうにお姫様扱いされちゃったら、かえってドギマギしちゃいますね(^^)

しかし、なるほど。「華族」であることすら、武器にしてしまうとは・・・。すごい(@_@;)

とにかく、ドキドキが止まらないです。
なんだかずっと、こうやって樹の打ち明け話(?)を聞いていたいくらい(^^)
・・・で、ふと、この先の事を思い出してせつなくなってみたりする(^^;
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