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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 12

2011.12.05  *Edit 

 だが、都合が良い。
 こんなにお誂え向きの相手はいないではないか。
 人は見かけによらない。人の良さそうな顔をしているからと言って
人が良いとは限らないし、悪人ヅラだからと言って悪人とは限らない。
ましてや相手は外国人だ。自分の直感に従ったものの、実際の所は
接してみないと分からない。
 玄関先で、女は買わないと追い返されそうになった時、
樹は瞬間的にコイツは安全だと判断して家の中へ踏み込んだ。
でもまさか、親日家だったとは。思いも寄らない収穫だ。
「女を買わないのは、男色家だからだって可能性もあるんじゃないの?」
 樹の話しに幸也が言った。その言葉に樹は笑いながら
「それもそうだね」と答えた。
「だけど彼は違ったよ。国に妻子がいて、暫くしたら呼ぶと
言っていた。妻のいない間に遊ぼうとか思わないのか訊いたら、
妻を愛しているから裏切れないって真面目な顔で言うんだ。
不思議な生き物を見た思いがしたよ」
「どうして?それが当たり前じゃないの?」
 幸也の強い口調を受けて、樹は目を丸くした後に笑った。
「確かにそうだね。じゃぁ、浮気する男どもは、それほど妻を
愛してはいないって事になるのかな」
「若はどうなの?どう思う?」
 どこか嘲るような様子の樹に、幸也は問うてみた。樹は暫く
目を閉じて考えている風だったが、やがて目を開いて
「わからない」と呟くように言った。
「わからないのも当然だよ。僕らはまだ若いんだ。結婚なんて
遠い先の話しだし、本当に愛する女性と結婚するとは
限らないわけだし」
 幸也がそう言うと、樹は驚いた顔を幸也へ向けた。
「君は……、愛してない女性と結婚するかもしれないと思ってるんだ」
「えっ?いや……」
 樹のあまりの驚きように、幸也はたじたじになった。
恋愛結婚よりも見合い結婚の多いこの時代だ。どんな相手と
結婚する事になるのかなんて分からないし、色んな可能性が
あっても当然だろう。
 妻を愛しているから浮気しない米軍将校に対して嘲笑するような
様子を示していた癖に、樹のこの反応は理解し難い。
「ユキは、愛する人と結婚するべきだよ。そして、浮気は
しちゃぁ駄目だ」
 真剣な眼差しだった。
「どうしてさ」
 思わずぶっきら棒な口調になる。
「君は純粋で真面目な人間だから……。だから、まっとうな
人生を送るべきだし、愛する人と幸せになるべきなんだ」
 樹の言葉に、言い知れぬ思いが湧いてくる。それは怒りにも
似た感情だ。
「若は、どうなの?君だって同じじゃないの?」
 責めるような口調になった。何故なら、まるで他人事のように
言うからだ。だが樹は、ふっと笑ったまま答えなかった。
「若っ!」
「……もう、『若』はやめないか?既に華族と言う階級は
消滅したんだし、ふぅもいない……。だから、これからは
家の中でも『樹』でいいよ」
「…………」
 幸也は言葉に詰まった。酷くやるせないような表情で
自分を見る樹に、胸が締め付けられた。さっきまで天使の
ような顔をしていたのに、今の樹はこの世の終わりを迎えて
絶望しているような、そんな悲しい顔をしていた。どうして、
そんな顔をするのだろう。幸也は戸惑うばかりだ。
「僕は……、生きる糧を失った。……いや、幸せになる糧かな」
 ぼそりと、こぼれるように出て来た言葉に、幸也の胸が疼いた。
 母の死を、そこまで深く悼んでいるのか。
 生きる糧……。幸せになる糧……。
 幸也にとっても文緒は最も大切な人だった。どれだけ母を
慕っていた事か。本音を吐けば、一人占めしたかった。それでも
母は母である。母の愛情に見守られて、いずれは独り立ちし、
自身の所帯を持って自身の幸せを築いていくものと、何となくだが
思っていた。母の存在を、生きる糧だとか幸せになる糧だとかと
思った事など一度も無い。
 母が亡くなって、まだ間が無い。だから未だに悲しいし、寂しい。
何故こんなに早くと、つい思ってしまう。だがその一方で、
亡くなった人が生き返るわけでもないのだから、しっかり
しなければとの思いも湧いてくる。それなのに、樹は……。
 唇を震わせて何も言えないでいる幸也を見て、樹は口の辺に
僅かに笑みを浮かべた。
「澪がいる……。ふぅが遺してくれた、僕の生きる糧さ。だけど、
幸せの糧とは言い難い。僕はきっと、この先一生、幸せには
なれない気がするんだ」
 幸也は涙が満ちて来るのを感じた。辛くてたまらない。
「そ、そんな事……、言うなよ……。今は、辛くて……、
辛すぎるから、そう思うだけだ……。もう少し時が経てば、
……きっと……」
 これ以上は言えない。これ以上は何を言っても、ただの
気休めにしかならないからだ。
 幸也は涙を拭った。
 しっかりしなければ。
 僕が支えてやらなきゃ、若は駄目になる。そんな事はさせられない。
何より母が嘆くだろう。その為にも、まずは自分が母の死を
乗り越えなければならない。いつまでもめそめそしてはいられない。
 幸也は、強くそう決意するのだった。

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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

樹にとっての文緒の存在は、他人が思うよりも大きいようです。
血の繋がりの無い他人であったからこそ、血の繋がった親子である
幸也とはまた別の絆があるんですよね。。。
まぁ、哀れな子です。

幸也は優しいですよね~。その優しさが、その後の苦しみを
深くするのですが……。
おおっといけない。ネタばれだ(^_^;)

NoTitle 

一見怖いもの知らず・・・という樹のイメージですが。
やはりふうの死は、大きなダメージだったんですね。
幸也の悲しみとは別の、絶望なのかも。

でも、この回で、ふたたび幸也に「樹を守りたい」という願望が芽生えてきたことが、嬉しいですね。
良い悪いは別として、やはりこの二人には、近い存在でいてほしい気がします。

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

全然、トンチンカンじゃないですよ~。
秋沙さん、いつも鋭いです。
そう。樹自身の事ではなく、幸也の結婚に対してなんですよね。
本人自身は、誰も愛せないと思っているわけだから、
将来結婚するのかどうかは、この時点では考えていないかもしれません。
もしかしたら、一生しないと思っているかも……。まだ未知数ですね。
あらまし的な結果は冒頭で書かれてるので我々は知っているわけですが。

幸也は一本気でおっしゃる通り子供っぽい。
この基本的性質は、多分一生変わらないかと。。。
だからこそ、複雑な樹に痛めつけられながらも
自分を立て直して長い事付き合っていくわけなのですが…………。
そして樹もねぇ。秋沙さんがおっしゃる通りですね。
大人っぽいようで、危うさをはらんでいます。
樹も可哀想な子です。
我々はどこまで樹を赦せるのか?
澪、幸也、そして読者。

これから待ち受ける事を楽しみにお待ちください(^^)

NoTitle 

う~~~ん。

二人のその後を少しだけ知っているだけに、せつない会話です~。

樹のほうが、「愛する人と結婚するべき」と考えていることに、ちょっとオドロキというか、意外と言うか・・・。そんな気持ちを持ってしまいました。
あ、でも、樹は、自分がそうするべきと思っているのではなくて、「幸也は」愛する人と平凡で幸せな結婚をするべきだ、と考えているのかな?

この会話だけだと、幸也のほうが純粋でまっすぐな、「若者」らしい(ぶっちゃけ子どもっぽい)物の見方をしていて、樹はすでに生きていくためにいろいろ達観してしまっている、という感じに一見すると見えるんですが、何故か、樹に危なっかしい物を感じてしまうのはなんでなんだろう・・・。
やっぱり、文緒に対する愛情が、どこか異常なほどにまで強い、という一面があるからなんでしょうか。。。

なんか、トンチンカンな事書いてるかも・・・(^^;ごめんなさい
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