ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 10

2011.11.15  *Edit 

 下っ端の兵士に将校たちがよく行く店を教わった。自分も一緒に
付いて行ってやると熱心に言う相手をどうにか交わし、目当ての
店の近くで女装した。背が高いから、化粧で大人っぽくすれば
子供には見えないだろう。頬紅をつけ、口紅をさしただけで
鏡の中に女が現れた。
 鏡の中の自分は、写真で見た母にいつにも増してよく似ていた。
ただ母は蜻蛉のように儚げな雰囲気なのに、そこに映る自分は
何故か艶(あで)やかだった。
 目立たないように店の様子を伺い、中から出てくる将校を物色し、
そこそこの階級でほろ酔い加減の将校に目星をつけて後をつけた。
「運良く、いい相手に出会った」
 微笑みを浮かべてそういう樹に幸也の不安は高まる。
「いい相手って、どういう意味?」
 思わず声が低くなる。顔が強張っているのを感じた。
そんな幸也を見て、樹の瞳が赤みを帯びた。心配している幸也を
見るのがそんなに楽しいのか。不愉快な思いが湧いてきた。
だが、そんな幸也の心の変化を見透かしたように、「ごめんよ」と
樹は言った。
「君の心配は当然だよ。僕が君でも同じように心配するし、
不安になるさ」
 どうして彼は、いつもこうやって先手を取るのだろう。
そう言われたら返す言葉も見つからない。
「いい相手って言うのは、色んな意味においてなんだ。
将校だからと言って全員が戸建て住まいとは限らないし、
その後で他の店へ行くかもしれない。同僚と家で飲み直すって
事もあるだろうし。でも幸い、その将校は途中で仲間と別れて
一人で自宅に戻った。おまけに紳士的で取引相手としても
申し分なかったんだ」
「じゃぁ、その人から品物を貰って来たの?」
 幸也は敢えて気になる事を訊かずに、そう質問した。
「貰ったんじゃ無く、物々交換だよ」
 僅かに樹の表情が硬くなった気がした。
 繁華街から山の麓の方へ入った先に、米軍に提供された
住宅街があった。十二月だからだろう。街も住宅街もクリスマスの
装いで派手だった。アメリカと開戦するまでは、日本もクリスマスの
時期は賑やかで、有産階級の家庭ではパーティを催したりもしていた。
華陽院の家でも、樹を抜かした家族達は楽しんでいたようだ。
樹は文緒が用意してくれたささやかな膳で、幸也と共に三人で
楽しんだ。そんな事を思い出して、緊張が少し和らいだ気がした。
「言っとくけど、僕は体を売ってはいないからね」
 鋭い瞳と声に幸也はビクリとした。
「君が一番心配しているのは、それだろう?」
 樹の言葉に唇が震えた。言葉を継げない。
「色仕掛けで落そうって言うのとは少し違うんだ。まぁ、
とっかかりみたいなものかな。相手を油断させる為の」
「そ、そうは言っても……」
 相手は屈強なアメリカ人だ。終戦以来、葉山の方でも度々米兵を
見かける。横須賀と葉山を繋ぐトンネルがあり、ジープに乗った
米兵達がそこからよくやってきては、群がる子供らにチョコレートや
ガムをばら撒いていた。それを国民学校時代の友人達と拾って
食べた事もある。
 大きくて屈強そうな体付きを見て、それだけで圧倒された。
日本では食糧難で皆、痩せていたからだ。これじゃぁ、武器を
持たずに喧嘩しても勝ち目は無いだろうし、武器を持ったところで
武器すらも相手の方が勝っている。全く勝ち目のない戦を
強いられていた事を改めて実感したのだった。
 そんなアメリカ人を相手にして、か細い少年が力で適う筈が無い。
護身の為に身に付けた合気武術とかだって、大して年の違わない
先輩相手とは違うんだから通用しないだろう。自分だって、
とても適うとは思えない。
「大丈夫。本人が無事だったと言ってるんだから。さっき、
紳士的な相手だったって言っただろう?それとも僕の言葉が
信じられないの?」
「いや……。ごめん」
 幸也は目を逸らせた。樹の瞳があまりにも綺麗過ぎて
恥ずかしくなったからだ。
 樹は優しい声音で「ユキ……」と呼ぶと、膝の上にある幸也の
手の上にそっと手を乗せた。その手はヒンヤリとしていて
幸也はビクリとした。
「多分……、ふぅが守ってくれたんだって思うんだ」
 驚いている幸也の瞳に、優しく微笑む樹の顔が映った。
布団の中で微笑む彼は、幼い頃の記憶に残る美しい人によく
似ていた。まるで女の子みたいだ。戻って来た時の彼は、
映画で見た女優のようで美しく大人っぽかったが、今の彼の方が
遥かに美しく見える。何も知らない天使か何かのようだ。
幸也は自分の胸の鼓動が大きくなっているのを感じた。
「僕はね。今回、全て順調に思惑通り進んだのが、逆に不思議な
くらいなんだよ。本当の事を言うと、万が一、襲われて手籠めに
されても仕方は無いって覚悟はしてたんだ」
「ええっ?」
 樹の覚悟に驚愕した。だが、最初から米兵相手に取引をしようと
考えていたのなら、最悪の事態も想定できたろうし、その覚悟が
なければ実行できない事でもあっただろう。
「本当にね。選んだ相手が良かったんだ。リチャードが……、
あっ、取引相手の名前なんだけど、リチャードはいい人だった。
彼が家の中に姿を消した後、僕は暫く外から中の様子を窺って、
どうやら一人住まいらしいと分かったんで、迷った末に玄関から
ベルを鳴らして相手を呼び出したんだ」
 樹は堂々と玄関から訪問した。
 相手は特に警戒したふうも無く、気軽な調子でドアを開け、
目の前に日本の若い女が立っている事に驚いた。
「オーゥ!ホワーィ?」
 リチャードは両手を頭の上まで挙げると、困惑気に頭を振った。
「オジョウサン……、イエ、チガウヨ。ノー、ノー」
 リチャードはそう言ってドアを締めようとしたので、樹は慌てて
相手の軍服の袖を掴んだ。
いいえ、間違いじゃありません。あなたに用があって来たんです
 英語でそう訴えると、相手は瞳を大きく見開いて樹を凝視した。
その瞳は色素の薄いグレーのような色をしていた。


スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(4)

~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

樹の操?は無事だったようで、何よりですよねー。
男の子がやられちゃうってのも、なんだかな、ですよね(^_^;)

危うい中2の少年です。
複雑なお年頃。樹や幸也より、元々の性質が複雑だし。
でも、少年ながら頑張ってますよね。
けなげです。。。

さて、このあと、どうなったのでしょうか。
お楽しみに♪

NoTitle 

なんとも、怪しげで、危なげで、でも、清純な感じがいいです。樹。
ふたりの、(内容はすごいんだけど)、静かな会話にぞくぞくしますね。
無理なく、すんなり入る樹の回想が、ドラマを見てるようです。
この後の話も、たのしみ^^
そして・・・、身体を売ったんじゃなくて、ホッとしました。

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

あはは♪幸也にシンクロしちゃってますか。
まぁ、樹は本当に人を翻弄する子ですよねー。
なかなか本心が見えてこないキャラでございます。

手籠めにはされなかったようです。
手籠めにされても良かったんですけどね(笑)
でもまぁ、女装なんかするんだから覚悟はあったのでしょう。
この人、幸也が思う以上に強いんですよ。
柔、剛をを制すってタイプなのですが。だからまぁ、
襲われても大丈夫じゃな~い?なんて
作者とは思えないセリフですが(^_^;)

アメリカ人がウヨウヨいる場所、本当に恐いですよね。
私も米軍基地の近くに住んでいたので、よく遭遇しましたが、
1人くらいならいいけど、大人数だとやっぱり恐怖心を
覚えましたね。
そんな所へ、中2の子供が行くんですから、度胸あります。

さて、気になる今後の展開。
どうなっていくのでしょうか……(^m^)

NoTitle 

おあ~~~~。

もう、完全に幸也になっている自分がいます。
樹の言葉に戸惑ったり驚いたり・・・

そうなの!?そうなのね?
手篭めにされたりはしなかったのねぇ・・・
あぁごめんなさい、おばちゃん、てっきり・・・・(^^;

いやだけど、ますます「???」が増えちゃいました。
見事にnarinariさんにしてやられた~(ちょっと快感)
「体を売ったのではない」という事実を、ここまで引っ張るんだもの~~~(^^;

それにしても、ほとんど欧米人を見たことも無かったであろう樹が、よくぞそんな所へ・・・。
現代でさえ、ドブ板通りとか歩くのは、昼間でもちょっと緊張するくらいなのに。
まだしばらくは、樹の独白が続きますかね?
幸也と一緒に翻弄されながら楽しませて頂きます(^^)
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。