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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 09

2011.11.09  *Edit 

「服も化粧品も、母上の遺品から拝借した。スカートの丈が
ちょっと短くて困ったよ」
 自嘲気味な笑顔を浮かべて発した言葉に幸也は驚いた。
いつの間にそんな物を持ちだしたのだろう。
「家を出る時に持って出たと言う事は、最初からそうする
つもりだったって事?」
 探るようにその薄い瞳を見つめる。
「しないで済むなら、したくはないさ。まぁ、最終手段として
用意していったってわけ」
 確かにそれはそうだろう。だが、晴香が亡くなってから十年
以上経つと言うのに、そんな品がまだ置いてあったとは驚きだ。
服はともかく、化粧品まで残っていたとは。
「だけど……」
 幸也はふと疑問に思った。
「君の母上はずっと家に居て、殆ど外出なんてした事が無いのに、
化粧品を持っていたなんてね。それに、僕の記憶の中では
洋服姿なんて無いんだけど……」
 儚げな笑みを浮かべていた美しい人は、いつも淡い色彩の
着物姿だった。
「そうなんだ。僕もまさか、そういった物があるとは思って
無かった。最初、服は久恵さんのを拝借しようかと思ったんだけど、
彼女の服は派手なのが多くて僕の好みじゃなかった。
それにサイズがね……」
 馬鹿にしたような笑みに、幸也は顔をしかめた。幸也から
見ても、後妻の久恵の体型と言い服の趣味と言い、曲がり
なりにも褒められるものではなかった。
「だけど、ふぅの物は拝借したくなかった……」
 急に寂しげな表情になり、幸也は黙って頷く。
「澪の為とは言っても……ね」
 その思いは幸也にも痛い程わかった。母の物は、何一つとして
手を付けずに取っておきたかった。
「だから、意外にも母上の所にあって良かったよ。
もし無かったら、否が応でも久恵さんのを借りなきゃ
ならなかったからさ」
 その久恵は、子供達と共に、まだ疎開先の鎌倉にいる。
「で、久恵さんの所からは、反物を二つほど頂いた」
「ええっ?」
 思わぬ言葉に目を見張った。樹は楽しそうな顔をしている。
「戻ってきたら分かっちゃうかなぁ……。それを知った父上から
大目玉を喰らうかもしれない。場合によっては勘当か……」
 大変な事を何でも無い事のような調子で言っている。
「貴重な物品って、それの事なの?」
「そういう事。さすがに実家が呉服屋だけあって、高価な
反物がごろごろ置いてあったよ。空襲で燃えるかもしれないって
言うのに、幾つも残して疎開してるんだから、抜けてるよな」
 久恵達が実家へ疎開する時、いやに荷物が多かった事を
思い出した。幸也は平素からこの女性は典型的な俗物だと
思っていたが、その姿を見て自分の思いが強まったのだった。
それらの多くの荷物の中に、高価な反物は含まれて無かったと
言う事か。いや、きっと持ちきれなくて残して行ったに違いない。
 樹はそれらを背嚢の中に入れて家を出た。そして原田家へ行き、
市場調査をし、いざ横須賀基地へ赴く事にしたものの、
どうやって接触したら良いのか悩んだ。
 横須賀へ着いてみると、想像以上に街は賑やかだった。
そこら中に米兵が闊歩し、米兵向けの店が並んでいる。
まるで外国へ来たみたいだ。
「ヘイ!ボーイ!ドントビーヒヤァアットナーイトゥ」
 いきなり声を掛けられて心臓が飛び跳ねる程、驚いた。
「ソーリィ……」
「The child go home and sleep」
 日本の子供相手に、平気で英語で指示をする相手の顔を
まじまじと見つめると、相手はハッとしたように
「ゴメンナサイ……」と可笑しな抑揚で謝って来た
「コドモ……、ダメネ……、ノーノー。カエル……ゴーホーム!」
 樹は相手の態度に思わず笑った。
「Sorry, I understand your language……」
「Oh!!」
 流暢な発音での返答に、相手は両手を上に挙げて驚いていた。
アメリカ人は身ぶり手ぶりが大袈裟だと実感した。
 どうやら目の前の子供は英語が話せるらしいと分かった
アメリカ人は好奇心を剥き出しにして、樹にあれこれと
質問してきた。この辺に住んでいるのかとか、どうして夜だと
言うのにここに居るのかとか、樹は適当に答えながら相手への
質問もそれとなくした。
 どうやら相手は下っ端の兵隊のようだ。年齢は二十三歳だと
言う。日本兵と戦った事は無いらしい。今から街のバーへ
飲みに行く途中だったようだ。横須賀の繁華街は進駐軍の
兵士たちの歓楽街になっていた。そこかしこには、パンパンと
呼ばれる米兵相手の娼婦と見受けられる日本人女性が立っていて、
兵隊に声を掛けていた。
 何気にそちらへ視線を向けると「あそこにママがいるのかい?
とアメリカ人が英語で訊いてきた。樹は首を振りながら
「ノーノー」と答えた。
ママは米兵さんの家にお手伝いに行ってるんです。ちょっと
用があって訊ねてきたんだけど、夜だから迷っちゃって……

 目を軽く伏せ、とても困ってる表情を作った。
 進駐軍に勤めている日本人がいる事を、樹は原田から聞いていた。
と言っても、はっきり教えてくれたわけではなく、取引をしている
中で交わしていた会話から察したのだ。
 なんでも、駐在中の米兵達の雑用的な仕事をしているらしい。
家政婦だったり食事係だったり、残飯をあさりにくる日本人を
追い払う仕事だったり、残飯を再加工して闇市へ卸したりと、
日本は負けたんだと言う事を実感させられる惨めな仕事ばかりだ。
 海軍がある横須賀は多くの米兵が住んでいる。目の前に
いるような下っ端は寮のような集合住宅住まいだが、将校も
上の方の階級だと独立した家を与えられて使用人を雇っていた。
 樹は、そういう将校の家へ潜り込もうと計画していたのだった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

幸也に洩らしたように、勝算のない勝負に挑みたく
ない樹なので、それなりに考え、計画し、用意していったみたいですね。

それでも、やってみなければ分からない部分もあるので
覚悟もしていたようです。

そうなんですよね。ちゃんと無事に帰宅してきてるんだけど、
やっぱり、その過程は非常に気になりますよね。

NoTitle 

樹の用意周到さに感心したり呆れたり・・・。

でも、文緒の服は使いたくなかった、というところにぐっと来てしまいました。

ちゃんと粉ミルクを入手して帰ってきた、とわかっているのに、ものすごくドキドキしちゃいます。

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

最初から覚悟の準備ではあったようですね、女装の……。
まぁ、母親似の綺麗な子だしね。
子供じゃぁ相手にされないけど、女なら違うかもって
思ったのかもしれません。

何と言うか、樹は肝が据わっていると言うか、
冷静ですね。計画は立てていたようですが、
その通りにいかなくても、それはそれで良し、って
多分思っていたのではないかと。。。。
続きをお楽しみに^^

NoTitle 

最初から、お母さんの服を持参して行ってたとは。
さすが・・・・。
で、でも、何に使う気だったの??

たった一人で米兵に近づくところは、こっちがドキドキしました。
でも、やっぱり樹は冷静ですね。
このあとの計画を全部たてていそうな樹が、怖い^^;
実は・・・ちょっぴり魔性??(いえ、問題ないです!魔性でも)
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