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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 08

2011.11.01  *Edit 

 仕入れ場所は一か所では無いだろう。だから原田はあちこちを
飛び回っている。だが最高の得意先は進駐軍だと樹は確信した。
そして考えた末、横須賀基地へ出向く事に決めたのだった。
 国内の、海千山千の大人たちを相手にするには流石に
気後れがした。自分の年齢からしても対等な取引が出来るとは
思えない。また、闇市での取引でも自分の望む成果は得られないと
考えていた。最終的には、ここを頼るしかないのだろうが、
足許を見られるのがオチだ。
 それに、学校の先輩後輩の間柄だ。将来の事を考えても、
なるべく借りは少なくしておきたかった。
 樹はその晩、原田家に泊まらせて貰った。その間に、
市場調査をすべく街へ繰り出し、どんな物が出回っているのかを
見て回った。耕す畑の無い都市部では、矢張り食料が大部分を
占めていた。そして石鹸や紙などの生活雑貨がそれに続く。
葉山で一番不足しているのは生活雑貨だろう。食料は満足とは
言えないが、何とかなっている。今後の事も考えて丹念に
見て回った所、場所によって扱っている物品や価値が違う事に
気付いた。需要が地域によって異なる為だろう。となると、
必要な物は安く出ている場所まで足を運ばなければ損をする。
 きっと横須賀近辺でも市は立っているだろう。基地から
直接卸して来る業者が高値で売っているに違いない。それを
買うのは馬鹿らしい。それよりも直接買う方が一番得だ。
「横須賀基地の事は、実は最初から念頭にはあったんだ」
「ええ?」
 驚いている幸也を見て樹は笑った。
「乳の出る人間がいないんだ。動物もね。そうしたらあとは
粉ミルクしかない。そんな物、今の日本で入手できるとは
思えないだろう?」
 それは確かにその通りだ。だからと言って、そこから
横須賀基地で入手すると言う考えにまで及ぶ事に幸也は
驚愕する。幸也自身は、考えもしなかったからだ。
「そ、それで、どうしてすぐに横須賀へ向かわなかったの?」
「さすがに、無謀だと思ってね。だからまずは小手調べも
兼ねて原田先輩の家へ行ったんだ。市場調査も必要だし」
「小手調べ?」
「そう。大人相手に取引をしなきゃならない。何も知らないで
立ち向かうのは、どう考えても無謀だろう?」
「それはそうだけど……」
 樹は視線を遠くへ移した。
「僕は本当は、勝算の無い事はしたくないんだ。こんな体に
産まれて来たからかな。失敗したら蔑まれるような気がしてさ。
……嫌なんだ……」
「若……」
 普段から自分の事はあまり語らない樹だけに、何を
考えているのか分からない事が多かった。ただ誇り高い事だけは
知っていた。だからこそ、悔しさを撥条に頑張っていたのだ。
だが、失敗したら蔑まれる、それが嫌だとの言葉に、胸が痛んだ。
「……だから、何も言わずに出たの?」
 樹は少し間をおいてから頷いた。
「どうしてだよ。ここで一体、誰が君の事を蔑むって言うんだよ。
少なくとも僕は、そんな事はしない」
 樹は幸也の方を見ないまま「済まない」と言った。
「大層な事を言って出かけて行って、何の成果も得られないまま
惨めな姿で帰って来る事にでもなったらって……、そんな思いに
駆られてた。実際、妙な格好で帰って来ただろう?小ざっぱり
してから持ち帰った物を出したかった……」
 樹は瞳を閉じた。その顔には自身を嘲笑うような笑みが
浮かんでいる。あの姿を見られたく無かったと言うことか。
「その件については……、分かったよ。それで、その後の事を
聞かせてくれないかな」
 樹は溜息のような物をこぼしてから、「やっぱり言わないと
ならないのかな」と言った。
「どうしても言いたくないなら、無理には聞かない。でも、
できれば聞かせて欲しい」
 一体、どうして女装していたのか?そして、誰とどんな
取引をしたのか。どうにも危険な臭いがしてしょうがないのだった。
「わかった……。じゃぁ、話すよ……。僕は澪の為に、
どうしてもミルクを手に入れ無ければならなかった。
だけど僕はまだ子供だ。幸い背は随分と高くなったけど、
それでもこんな子供と対等な取引が出来る訳はないだろうし、
まず最初から相手にされない恐れもある。だから、自分の
武器を使う事を考えてた」
「自分の武器?」
 なんだ。自分の武器と言うのは。頭が良いと言う事だろうか?
それとも周囲の思惑を敏感に感じ取って懐柔するのが得意と
言うことか……。
 眉間に力を入れて考えている幸也を見て、樹は可笑しそうに
笑った。
「ユキは……、相変わらず鈍いよな」
 その言葉にムッとした。
「なんだよ、それは」
「僕が戻って来た時の姿を見てるじゃないか」
「えっ?」
 はっとした。
「母上に良く似た、女顔……。男は女に弱いだろ?」
 幸也はその言葉に眩暈を覚えた。一体彼は何を言いたいのか。
「街には多くの女達が立ってたよ。だけどその相手は物も
金も無い日本男児じゃない。生きる為には仕方が無いとは言え、
女には売れるものがあるんだな。でも男だって、
できない事はない」
「ま、まさか、若は……」
 顔が強張るのを感じた。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

原田と取引するのかと思ったら、そうではなかったですね。
ネタバレと言う程ではないですが、この原田さんとは
将来も関わりが多少出て来る予定でございます。

樹は本当に強いですよね。
一番弱い存在の筈だったのに。。。
障害のせいで、逆に精神的に強くなったんでしょう。
何だかんだ言いながらも、一番生きる力が強いかも。
それ比べて、幸也の方が傷つきやすいようで。
でも脳天気なので復活も早いです。
振りまわされながらも善良なので持ち直します。
そうして、そういう事を何度となく繰り返し……。

お楽しみに^^

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

澪の為とは言え、樹も必死だったんですねぇ。

繊細と言えば、鈍感な幸也の方が案外繊細かもしれません。
と言うか、彼の方こそ世間知らずのおぼっちゃまった
感じでしょうか。
この先、二人の関係はどうなっていくのか?
生まれた時から一緒にいる二人の行く末が一番気になりますよね。

NoTitle 

やっぱり、いろんな計算の上で原田に会いにいってたんですねえ。
話の中で、樹のプライドの高さがすごく感じられました。
樹には、妙な弱々しさが無いのがいいですね。
なんか、底知れない強さとバネがあるような。

このあと樹がどんな話をするのかも興味ありますが、
悲壮な予感がしないのは、樹の気高さのせいでしょうね。
逆に、なんか、幸也が心配・・・(笑

NoTitle 

あぁぁぁぁ、やっぱりそうなんですか?樹・・・(ToT)

だけど・・・身体を汚して取引をしたというのに(もう、そうと決めつけちゃってますけどいいんですかね)、なんとまぁ樹の気高く、誇り高いことか。
やはり、自分が生きるためなのではなく、赤ん坊を活かすためという理由があるからでしょうか。

話を聞く幸也のショックを思うと、ちょっと気の毒ですね。
樹がどうやって立身していくのか、澪との関係がどういうものなのか、気になる所はたくさんあるのですが、私は樹と幸也の間の溝が深まっていってしまう過程がとっても気になります・・・。
いや、もう、それは致し方無いだろうという予想はある程度できるのですが、なんだかせつなくって・・・。
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