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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 07

2011.10.28  *Edit 

 原田の問いに、「知恵は物ではありません」と笑顔で答えた。
そんな樹に、原田は今度は声を出して笑った。
「物怖じしない坊ちゃんですね。確かにおっしゃる通り、
知恵は物ではない。ですが、これ程、貴重な無形物は
ありませんよ。生き馬を射抜くような世間を悠々と渡って
行く為には、知恵が無ければなりません。それを簡単に
他人に掲示できますかな」
 原田は吸っていた葉巻を灰皿に押し付けた。
「そもそも、息子の学校の後輩だと言うだけの関係です。
これまでの私の商売に、お宅との縁も無い。お助けする
義理もないのです」
 原田の冷たい眼差しを受けても、樹はひるまなかった。
どうせ駄目で元々との思いで来ていた。身分の差は無くなり、
年長者と若輩者と言う立場で接しているが、膝を屈する
つもりは無い。
「おっしゃる通りだと思います。ですが、僕がお借りしたい
知恵は、お父上の御商売上、損になるような種のものでは
ないと思っています。ただ、乳の無い赤子に乳を十分に
飲ませてやりたい。それだけなのです。僕にとっては
命の恩人でもあり、自分を育ててくれた人の子供です。
みすみす餓死させる訳にはいかないんです。僕もいずれは、
御子息のように帝大を目指すつもりです。自慢する訳では
ないですが、将来、お役にたてる時もあるかと思います」
 樹は真っすぐに相手を見据えた。原田はフッと笑って
「わかりました」と言った。
「人に物を頼みながら、頭は下げないその態度。子供の癖に
傲岸不遜だ。だが私は、そこが気に入った。気位ばかり高い
華族様達とは、どうも少々違うようだ。何を言われても
平然としている。大人相手に一歩も引かないその強さ。
きっと将来大成されるに違いない。そこを見込んで、
ここは一つ、知恵をお貸ししましょうか」
 批難されるのだとばかり思っていた樹は、相手の言葉に
驚いた。子供の癖に頭を下げない。指摘された通りだ。
それで相手が快く思う訳が無い。赤子の命に関わると言うのに、
へりくだらないのだから呆れられるのも当然だ。だが、
半分は相手の軟化を見越した態度でもあった。謂わば、
一か八かの賭けだった。
「ただし、知恵を貸すとは言っても、伝授するわけではない。
君は自ら学びとるんだ」
 原田はそう言うと、樹を連れて街へ出たのだった。

「一体、何を教わったの?」
 樹の話しに幸也が言った。全く樹には驚かされるばかりだ。
「何も教わっちゃぁいないさ。自ら学び取れと言われたんだからね。
何を学び取ったかと言えば、世間の現状かな」
「世間の現状?」
「そうさ。ここにいたのでは分からない世間の現状さ。
考えてみると、ここは驚くほど恵まれてる。空襲の被害も
少なかったし、曲がりなりにも飢えを凌げてる。それに僕達は
まだ子供だ。世話をしてくれる大人達がいれば、僕らは
まだ暫くは世間を本当の意味で知る事は無かった。まぁ、
学校が始まって横浜へ出るようになれば、否が応でも
目の当たりにするようになるけどね」
 樹は原田に連れられて、闇市での取引を見た。ここへ
来るまでの間にも、あちこちに市が立ち、人が群がって
いるのを見て来たが、取引そのものを目の当たりにして
驚愕するばかりだった。
 物が正当な価格で取引されていない。物価がどんどん上昇し、
経済は恐ろしい程のインフレと化している。こんな状況で
安穏としていてはいられない焦りのようなものを樹は感じた。
そんな中で、原田は売り手側として一部の闇市を牛耳っていた。
彼ならば、きっとどんな物でも入手できるように思えた。
樹が求めている物も。
 だが彼は、それを樹の前には一切示そうとはしなかった。
自分の道を切り開くのは自分自身。商売には対価が必ずいる。
そう無言で訴えているように感じた。
「私は物乞いをする奴が大っきらいでね。『貧すれば鈍する』
と言う言葉があるが、とんでもないね。そんなのは弱い人間だ。
弱い人間と私は取引をするつもりは毛頭ない。だから私は
坊ちゃんが気に入った。是非ともお手並みを拝見させて頂きたい」
 原田は厳しい顔でそう言った。そして更に言った。
「物をどこから仕入れているのか。それを考えるがいい」
 それこそが、最大の教えだったと言ってもいい。
「実は僕はね。取引の相手を探してたんだ」
 樹の言葉に、幸也は首を傾げた。
「取引の相手?」
「そうさ。僕だって経済の仕組みくらいは理解している。
ただで物を貰おうだなんて考えてやしない。だが貴重な
物品でもある。誰それと簡単に取引はできないのさ」
 幸也には益々訳が分からなくなった。
「君は、物品を持っていながら、原田先輩のお父さんには
それを言わなかったんだ」
「ああ」
「どうして?対価を示せば望む物を用立ててくれたんじゃないの?」
「そうだろうな」
「なら、どうして……」
「僕が知りたかったのは流通の方だ。一時的に品物を
手に入れた所で先が知れてる」
 樹の言葉に幸也は唸った。



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~ Comment ~

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

コメント、ありがとうございます<(_ _)>

矢張り、一応当ブログは自作小説サイト、ですので、
小説への感想コメントが一番嬉しいnarinariでございます。
勿論、他へのコメも大変有難く思っております。

でもって、お気づかい、ありがとうございます。
感謝感謝でございます。
とても身に沁みております。

さて。樹ですが、彼っていきなり驚くような言動を見せますよね~。
文緒のもとで、弱々しくも頑張っている樹の姿しか
知らない身近な人間にとっては、驚かされるばかりです。

でも秋沙さんがおっしゃる通り、生い立ちによる境遇が、
彼の内面を育てていたとも言えるんですね。

さて、どうやって入手したのかですが。
まだ暫くはハッキリとは分かりませんが、
まぁ、大した事ないですよ?
もう少しお待ち下さいませ。

NoTitle 

うおーーーー。すごいな樹・・・。
頼りなげなお坊ちゃんの変貌ぶりに驚く反面、いつも人々の嘲笑を受けたり、逆に深い愛情も受けて、周りの大人達を観察しながら育ってきた故の知恵・・・と納得もしてしまいます。

そんでそんで・・・?どうやって品物を手に入れたの・・・?
あぁ私、幸也以上にせっかちだわ。
早く先が読みたい~~~~けど、narinariさん、ご無理はなさらないで~~~(ToT)
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