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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 06 

2011.10.23  *Edit 

 昭和二十年、五月二十九日白昼、横浜が大空襲に遭った。
横浜駅の北に位置する東神奈川から、南の真金町まで、
南北に渡って広範囲に焼夷弾が落とされた。この空襲により、
樹と幸也が通っていた一中は焼けた。
「休学中で良かったよ。でなければ、僕らも危うく遭遇する
所だった」
 横浜が空襲に遭い、学校が焼けたと言うことは既に聞き
及んでいたが、聞くのと見るのとでは印象が違う。実際に見て、
身につまされたと樹は言った。
「原田先輩の家は神奈川区でね。反町一帯は被害が特に
酷かったようだけど、幸いそこから外れた場所にあったんで
無事だったよ。先輩も元気だった」
「会えたの?」
「ああ。年明けから学校が始まるだろ?僕達の無事を喜んで
くれたし、学校が再開するのが楽しみだって言ってた。ただ、
生徒の中には亡くなった者や生死不明者も少なくないらしい」
 東京大空襲から次々に大都市が集中的に空襲に遭っている為、
横浜にも来るに違いないと思っていたと、原田は語ったらしい。
 樹はその日、運良く原田の父親、原田康之と会えた。
終戦と同時にあちこちへ飛びまわっては商売に精を出していて
留守がちな中、たまたま家へ寄っていたのだった。
「ほぉ。君が華陽院のお坊ちゃんですか。息子から話しは
聞いてますよ。噂にたがわぬ、美少年ですな。それに大層、
勉強ができるとか」
 原田は値踏みでもするような目つきで樹の全身を見まわした。
「食えないおっさんだよ。原田先輩は良家の子息のような
品のある人だけど、その父親はどこの馬の骨か分からない
ような風体だった」
 いかにも成り上がりと言った風情で、おまけにいやに
羽振りが良さそうだった。多くの人間が飢えていると言うのに
バリっとした身なりで、これみよがしに葉巻を懐から出してきた。
「それで、華族の御子息が私に何のご用で?」
 華族と言う身分は既に無い。それを敢えて口にしたのは
時代の変化をはっきりと知らしめたいが為か。抜け目の
なさそうな目つきで、射抜くように樹を見つめた。
「実は、我が家には母を亡くした乳飲み子がいるんです」
 樹は、ここは素直に出ようと言葉を発した。予想外の
言葉だったのか、原田は右眉を微かに上げて不思議そうな
様子を示した。
「僕の乳母であり、幸也の母でもある女性が、子供を産んで
亡くなったんです」
「ほぉ……。それは……お悔やみを申し上げます」
 原田は軽く一礼しながらも、その視線は樹を離さなかった。
「僕達の父親は、それぞれ戦後の残務処理に追われて当分
戻っては来れません。ですから、我が家には年よりと僕達
子供しかいないのです」
「それは大変心細い事ですね」
「幸也は、赤子の乳探しに周辺を奔走していますが、思う
ようにはいってません。僕も色々考えて、こうして
こちらまでやって来たと言う訳です」
 樹の言葉に、原田は目を光らせた。
「それは、我が家を頼って来たと言う事ですかな?」
「そう取って貰って結構です」
 樹は敢えて毅然とした態度で臨んだ。
「大変失礼かとは思いますが……、物乞いをされに
来たのですかな?」
 原田の顔がうすら笑いのような嫌な表情に変わった。
「いいえ、違います。物乞いではありません」
「はて。物乞いではない?まぁ確かに我が家には赤ん坊に
やれるような物は何一つないですがな。一体、何が
狙いなのか……」
 訝しむような顔を樹へ向けた。根っからの商人なのだろう。
損得勘定が激しく、また自身の儲けにたかられては
なるものかとの気持ちが強いようだ。
「原田先輩の父上は、大層取引上手でやり手の経営者だと
常々伺っていました。ですから、こんなご時世の中でも
御商売に励まれているに違いないと僕は思ったんです」
 一体何を言い出すのかと言った顔になった。
「ですから僕は、何か良い知恵は無いものかと、こちらへ
やって参ったのです」
 樹の言葉に、原田は「はぁ?」と間の抜けた顔になった。
「葉山は幸い、細々ながらも畑と海から食物を得られています。
たかが知れていますが飢える程ではありません。ですが、
赤ん坊に与える乳が無いのです。子供の僕達では良い知恵が
浮かびません。年より達も苦労知らずばかり……。
頼りになる大人がいません。どうしたら良いのかと
考えていた時、先輩のお父上の事を思い出したのです。
お知恵を拝借できないかと、お願いに参りました」
 原田は暫く呆気に取られたように樹を見つめた。それから
思い直したように軽く頭を振ると、僅かに顔に笑みを浮かべた。
「知恵だけで、よろしいのか」
「はい」
「そうですか。ですが坊ちゃん。拝借とは、借りると言う
意味である事はご承知でしょうな。借りた物は返さなければ
ならない。その辺は、どうなんです?」
 原田はニヤリと笑った。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

戦後の動乱期に材を築いたしたたか者、多かったでしょうね。
才があるか無いかで、随分違ったと思います。
大人しい優等生タイプ、真面目ちゃんは
生き残れない時代でした。実際、配給だけを固辞して
餓死された方、いらっしゃるし。。。。

だけど秋沙さんは、いつも鋭いですね。
ドキッっとしちゃいます。

樹の人物像はなかなか分かりにくですね。
謎の多い人物で、もしかしたら、かなり先まで
分からないかも知れません。
周囲と同じように読者も振りまわされるかも……。

でもまぁ、まだ子供ですから。
これからですね^^

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

一代で商社を築き上げた、まぁ成り金社長さんですからね。
食えない男でしょう。
樹はまだ14歳の少年だし、おぼっちゃまですもんねぇ。
彼は純粋でもあり、また…………。

続きをお楽しみに^^

NoTitle 

いかにも戦後成金という感じの男ですね。
実際、戦後の混乱期にはこうやって財を築いた人がたくさんいたんでしょうね。
樹がこれからどうやって立身していくか、これが予兆なんでしょうか・・・?
あぁ、あの、頼りなげなお坊ちゃんだった樹がこんなに・・・。

limeさんの言う通り、まだ樹という人物がハッキリと見えてこないので、純粋に知恵を借りるのか、ものすごい駆け引きに出ているのか、わからないところがワクワクする!(^^)

NoTitle 

なんだかこの原田と言う男、食えない感じですね。
まあ、したたかでないと、この時代生きていくのは難しいんでしょうが。
樹、大丈夫なのかな?
危機感はもってるのか、それとも本当に純粋に知恵を借りようとしてるのか。
ちょっぴり、狐と狸のばかし合い的な匂いも感じますが、樹と言う子も、意外と純粋だったりするし・・・。
続き、たのしみです!
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