ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 05

2011.10.19  *Edit 

「そんな目で僕を見るな」
 布団の中で目を覚ました樹は、睨むような顔をして幸也に言った。
「そんな目って、どんな目だよ」
 幸也は睨みかえす。それを受けて樹は顔を背けた。僅かに
開いた唇には、まだ紅の跡が残っている。
「どうして何も言わずにいなくなったんだ。みんながどれだけ
心配したか……」
 樹は一端目を閉じた後、顔を正面に戻して瞳を開いた。
澄んだ琥珀色の瞳が幸也の瞳を捉えた。何を考えているのだろう。
まるで感情が読めない。
 庭に現れた時、樹は女装していた。
 淡い水色のワンピースを身に纏い、顔には化粧が施されていた。
月明かりを浴びた姿はまるで舞台女優のように美しかったが、
よくよく見るとスカートの裾はあちこちが破れ、裾から下の
両足は汚れていて裸足だった。そして背中には大きな背嚢を
背負っていた。
 樹は幸也の姿を見ると、安心したようにその場に跪いたのだった。
それを見て、幸也は慌てて駆け寄った。
「若!一体どうしたんだよ」
 訳が分からず叫ぶ幸也に、樹はニッと笑って
「澪のミルクを調達してきたよ」と言って、背中にある背嚢へ
顎を振った後、幸也の腕の中へ倒れ込んだのだった。
 幸也はそんな樹を抱き起そうとしたが、背中の荷物が重くて
上手くバランスを取れない。一体何を背負っているのかと
樹の肩から背嚢を外そうとして、想像以上に重たい事に驚いた。
こんなに重たい荷物を背負って来たのか。
 樹がやってきた方向は山上だ。何故山を下って来たのか。
下って来たと言う事は登ったと言う事だ。どこから登って
来たのかは自ずと知れる。
 背嚢を背負って樹を抱き起し、玄関まで連れて行った。
玄関に腰を下ろした樹は一つ大きく息を吐くと、
「お風呂に入りたい」と言った。幸也は家人達に気付かれぬ
ように風呂の支度をしようとしたが、すぐにミネが気付いて
やって来た。そうして樹の異様な姿に小さく悲鳴を
上げたのだった。
 樹はそんなミネの狼狽や訝しげにしている幸也の内心など
気にもならないような平然とした顔をして風呂場の方へ
足を引きずりながら向かった。急いで手を貸そうとしたミネに
「背嚢の中に粉ミルクがあるから、澪にやってくれ」と言った。
 その言葉に幸也とミネは顔を見合わせた。
「僕の事は構わなくていい」
 樹はそう言って風呂場へと続く廊下の奥へと姿を消した。
 納得のいかないまま、背嚢を開ける。中には粉ミルクの
缶が二つ入っていた。表示は英語だ。哺乳瓶も二つ入っていた。
そしてその他にも、小麦粉、バター、チーズ、ハム、
チョコレートが入っていた。これは一体、どういう事なのか。
 幸也は取り敢えず澪にミルクをやるようにミネに言ってから、
事情を問うべく風呂場の前で待ち構えていた。風呂から
出て来た樹は白い頬を僅かに蒸気させ、「少し休ませて欲しい。
事情はそれから話す」と言ったのだった。そうして今、
こうして視線を交わしている訳だった。
「自殺でもしたと、思った?」
 抑揚のない言い方に、幸也は胸を詰まらせた。
 樹は色の変わらない瞳を幸也から逸らせ、どことも知れない
虚空へ目を向けた。
「死ねるものなら……死にたいよ。ふぅがいないこの世なんて……、
生きていても何の意味もないんだ。……だけど……、駄目なんだ。
後を追ってはいけないと……、ふぅに言われたんだ」
「お母さんに……?」
 樹は静かに頷いた。
「ふぅは……ずるい。……僕達を置いて、一人で逝ってしまった」
 樹の目尻から涙がこぼれ落ちた。琥珀の奥の瞳が深い緑を
宿していた。幸也の瞳にも涙が満ちる。想いは同じだ。
大事な人をいきなり失った理不尽さに納得がいかず、
先立った人を恨むしか気持ちのやり場が無い。
 暫くの沈黙の後、樹は口を開いた。
「何も言わずに出かけた事は済まないと思ってる。だけど、
勝算は無いし、誰にも何も語りたくない心境だったんだ。
書置きくらいはして出るべきだったと今は思うけど、
その時は何も考えられなかった」
「若……」
 幸也の呼びかけに樹は顔を向けると、「僕達には澪がいる」
と言った。
「君一人にばかり押し付けて悪かった。ふぅを失って、
心ここにあらずだったけど、澪の事はずっと考えていたんだ。
そして、今度の行動に出た」
 やっと詳しい事情を話してくれるらしい。
 幸也は手で涙を拭った。
「君は、原田先輩を知っているかい?」
「原田先輩?勿論、知ってるよ」
 唐突な問いかけに幸也は戸惑った。
 原田とは一中で二級上の先輩だ。今年一高へ進学する
予定だったが、進学しても学校は一年休学になるので進んでも
仕方が無い。だからそのまま四年に残留していた。大手の
商社の社長の息子で、樹を崇拝していた。金持ちで学業も
優秀な為、校内では一目置かれた存在でもあった。
「先輩の家は横浜にあってね。家業は商社だろ?戦況が
思わしくない頃は輸入統制のせいで会社は風前のともし火
だったけど、その戦争も終わった。……一代で会社を築き
上げた親父さんだ。商魂逞しいに決まってる。だからきっと、
何か手づるがあるだろうと踏んだんだ」
 幸也は目を剥いた。
「じゃぁ、わざわざ横浜まで行ったの?」
 そんな幸也を見て、樹は愉快げに瞳を赤く染めて「ああ」
と言った。そして直後に眉間に皺を寄せた。
「横浜は焦土と化してたよ。学校も聞いていた通り焼け落ちていた」


スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(4)

~ Comment ~

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

そうです、女装してたんです。いや~、絶世の美女の晴香似ですから、
さぞや美しいんでしょうねぇ。見てみたいものです(笑)

横浜も相当酷かったようですね。
うちの母が当時は横浜に住んでたんですが、
疎開してていなかったんです。
けれど祖父の仕事の都合で甲府へ行き、そこで甲府大空襲に遭遇。
大変だったらしく、まさに九死に一生を得たそうです。
焼け跡の状況はどこも悲惨ですよね。
炭のようにまっ黒になった遺体が転がってる写真を見て
ショックでした。悲しい事です。。。

NoTitle 

なるほど~~~~「女優にように美し」かったのは、女装していたせいだったんですね~~~。
うわわわわわわ、どうやって食料を調達したのかしら・・・(いけない妄想が暴走してしまう~~~)

横浜大空襲ですね・・・。
小学生の頃に学校で空襲の映画みたいなのを見たような気もするんですが、先日、横浜の歴史について写真で記録された本を見まして、横浜の空襲の時の航空写真にあらためてショックを受けました。
私の実家のあたりや、高校生の時の通学路や遊びに行っていた場所、み~~~んな炎に包まれていて。

narinariさんの書くお話は、やっぱり地元が近いせいか、馴染みのある場所がたくさん出てくるので、それも楽しみの一つです♪

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

後を追えた方が楽だったのかもしれませんね。
けれども追うなと言われた。そして、澪の事も頼まれてしまった。。。
自分ひとりの想いだけで自分の身の処し方を自由に
決められなくなってしまっただけに、余計に辛いかもしれません。
そして今後、彼は苦悩の人生を歩む事になりますが、
彼の心の内、そしてその根底にあるものは、物語がかなり
進むまでは分かりません。。。

さて。樹はどこで何をしていたのでしょうか。
もう少しお待ち下さいね~^^

NoTitle 

樹、一体どうやって、そんな食料を・・・。
と、その説明はきっと次回ですね。

後を追ってはいけないと言う言いつけを、ちゃんと守る樹は健気ですね。
でも、やっぱり言葉が足らなさすぎる。
まあ、そんなところが、彼らしいんですが。

何はともあれ、しばらく澪の空腹は満たされるようで、良かったです。
で・・・なんで女装してたのか、早く語って~~。
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。