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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 04

2011.10.16  *Edit 

 何があっても諦めない、そのしぶとい性格は分かっていた。
『諦めたらそこで終わりだよ』と、死の床にある文緒に
そう言っていたのを思い出す。
 支えであり、道しるべでもあった文緒を亡くし、
この人生の荒波の中を樹は一人で立ち、歩いていけるのか。
「若君は足がお悪いのだから、事故に遭った可能性は
否定できない」
 政也はそう言って、引き続き周辺を探すように指示した。
 幸也は思い立って、よく三人で歩いた山道を辿った。
そして思わず涙ぐむ。母の思い出がそこかしに散らばって
いるからだ。樹にかかりきりのような母だったが、幸也が
新しい発見をして母に報告する度に、彼女は瞳を輝かせて
幸也を褒めてくれた。幸也はそれが嬉しくてたまらなかった。
 散策の帰りに藤村の家へ寄ると、文緒は幸也の成長を父や
祖父に嬉しそうな顔をして語る。それを聞いている二人の
顔も綻んでいて、自分の成長を喜んでくれる家族がいる事を
誇らしく思い、その期待に応えようと益々頑張る自分がいた。
そして、一人黙々と訓練に励んでいる樹を憐れんでいる
自分もいた。
 物ごころ付いた最初の頃、幸也は樹の事を出来の悪い、
『若』と言う名の弟だと思っていた。一緒に育ったのだから
兄弟だと思うのも自然だろう。だがすぐに、母からそうでは
ない事を教わった。
 複雑な家庭。家族なのに別々に住んでいる自分達親子。
身分や立場の違いによる礼節。頭で理解するには複雑過ぎたが、
その中で暮らし接している事で体得したとも言える。
そして、樹に対し、深い同情と共に、負けずに取り組む姿に
尊敬の念も抱くようになったのだった。
 来し方を振り返りながら、樹は祖父の言葉を確信する
ようになった。
 そうだ。おじいさまの言う通り、若がここで負ける
わけはない。
 だが、そう思うと、尚更彼がどこへ行ったのかが
分からない。何も告げず、何の書置きも無く、ただただ
思考が混乱するばかりだ。そして今は、何はともあれ、
無事に帰って来て欲しいと願うばかりだった。

 その晩、幸也は妙な胸騒ぎがして庭先へ出た。
 澄んだ冷たい空気が頬を撫でる。月明かりが美しく
周囲を照らし、その灯りに冬の星座達は息をひそめる
ように小さく瞬いていた。誰が死のうが生きようが、
そんな事とは関係無しに時間は流れ自然は息づいている。
この冬の寒空の下、何も持たずに出たと思われる樹は
どこでどうしているのだろうか。
 すっかり葉を落とした裸木がひしめく山の方に、
何かが動いたように感じた。視線の端が捉えたのだった。
動物だろうか。
 幸い風は殆ど無かったが、それでも冷たい空気が
体全体を包み込み、冷気が体内に浸透してくるのを感じる。
幸也は半纏の前で腕を組み、互い違いに袖に腕を入れて
肩を丸めて足踏みした。
 何故自分は、この寒い中、ここでこうして突っ立って
いるのだろう。何かが気になるからだ。何となく
そわそわして、部屋の中でジッとしていられないのだ。
その原因は分からない。
 静かな空気の中で、僅かに動く気配が感じられた。
先ほどの方角だ。そちらから近づいてくるものがある。
そう感じた。餌を求めて山里へ降りて来た猿か何かだろうか。
だとしたら、畑の作物が危ない。戦時中の統制で種も
入手困難だった中、何とか確保していた種を撒き、
育てて来た冬の野菜達が収穫の時期を迎えている。
 華陽院の庭は美しい庭園になっている為、食料に困って
動物がやって来る事はかつては無かった。戦況の悪化で
食糧難になり、仕方なく自給する為の畑を作ってから、
時々動物がやってくるようになったが大きな被害が出た
事はない。追い払う人が多かったし、頻繁に飛ぶ戦闘機の
爆音や空気の揺れで動物達も警戒していた。だが今は、
その戦争も終わり、ひっそりと静まり返っている。
 カサカサと枯葉を踏む音が遠くから聞えて来た。矢張り
何かがやって来るようだ。幸也は袖から手を出すと下半身に
力を入れ、臨戦態勢を取り、神経を研ぎ澄ませた。
 一体、何がやって来るのだろう。音はどこか不規則だった。
こちらを警戒しているからか。少しずつ大きくなる音は、
何かをズズッと引きずっているように聞こえる。
 ズッ……、ズズッ……。ズッ……、ズズッ……。
 パリッと小枝を踏む音や、枯葉を擦るような音が
はっきりと聞こえて来た。これは動物ではない。人間……?
 そう思った時、畑の向こうの林の奥から人が現れた。
そこはちょうど月明かりが射し込んでいる場所で、暗い
舞台の上に唯一照らされたスポットライトのようだった。
 そのスポットライトの中に登場したのは、女優と
見紛うような樹の姿だった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

幸也は真面目ですよね。
真っ当とでも言いましょうか。
それだけに、貧乏くじを引かされちゃうのかなぁ。

樹はどこで何をしてきたのでしょうか。
秋沙さんの予想は、まぁ当たってるんですが……
それにしても、何か言うなり書き置きするなり
しろっ!って感じですよね。

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

いやぁ~、秋沙さん、スルドイ(^_^;)

それにしも、唐突な行動ですよねぇ。
何を考えているのか、計りがたい人です。。
つづきをお楽しみに(^^)

NoTitle 

幸也の回想が切ないですね。
樹のほうが、どうしても目を引きますが、幸也は本当に真面目に、苦労してきたなぁ・・・と。

樹、居た!
でも・・・なんでしょう、更に美しくなって帰って来た??
何してたのよ~~。

NoTitle 

どこに行ってたのよ樹~~~?

もしや、食料でも集めに行っていましたか・・・?

それにしても、冴え冴えと凍てつく月明かりの中にあらわれる樹の姿・・・
幻想的ですね・・・。
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