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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 02

2011.10.10  *Edit 

 戦争が終結したとは言え、国民の暮らしがすぐに以前の姿に
戻るわけではない。徴兵された男達が戻って来るにはまだ時間が
かかるだろう。実際、内地勤務である父の裕也は戦後処理に
追われ、未だ戻ってきてはいない。最愛の妻の最期を看取る事が
できず、一体父はどんな想いでいるのだろう。きっと俄かには
信じられないでいるに違いない。
 村人達も疎開先からポツリポツリと戻りつつあるが、
まだまだ人口は少ない。食料は配給制になっていて、
信じられない程不足している。そんな食料不足の中で、
母親が死んだ。赤子に乳をやる人間がいなくなった。
 遺された者たちは、途端に途方に暮れたのだった。
 葬儀の準備に追われながらの澪の世話は大変だった。
若いミネが中心になって世話をしたが、何より乳が
無いのである。お腹を空かせた赤子は、ひっきりなしに
泣き騒ぐ。
 以前なら、山羊がいた。だが、戦争中の食料不足により、
とっくに食べられてしまっていた。
 幸也は乳の出る女性を探しまわったが近場にはおらず、
範囲を広げたところ、やっと一人見つかった。拝み倒して
授乳してもらったものの、食料不足である。余る程、
出が良いわけではない。我が子の分が無くなっては困ると、
僅かしか与えて貰えない。
 だから澪は常にひもじくて泣いている。
 お腹が一杯になれば、すやすやと眠るのだろうが、
澪はお腹一杯にお乳を飲ませてもらっていないせいか、
泣いてばかりである。そして泣き疲れて眠るのだった。
 その生活は朝も晩も見境が無い。
 ミネだけが休みなしに世話をできるわけもなく、幸也も
共に世話を手伝う。その一方で乳探しに奔走し、すっかり
疲れて切っていたのだった。
 季節が冬でまだ救われた。授乳者は近くに住んでいない為、
毎日、搾乳してもらい、それを冷蔵庫に保管して少しずつ
与えていた。勿論、それだけで足りるわけもなく、幸也は
搾乳して貰った乳を冷蔵庫へ入れた後、他にもいないか、
更に範囲を広げて探して回り、もう一人見つかった。
 だが、二人は間逆の方向に住んでいる為、毎日、
その二人の所から乳を回収するだけでも、かなりの労力だった。
 そもそも、成長盛り食べざかりの年ごろであるのに、
幸也自身も食料不足でひもじい思いをしている。満足に食べて
いないのだから、若いとは言え、その疲弊も激しい。
 毎日毎日、十分に休む事もままならず、今では澪の
泣き声を聞く度に神経がささくれ立ち、こんな状況を
呪うようになっていた。
 お母さんは、何故僕達を置いて逝ってしまったんだろう。
 日々、そんな思いが強くなってくる。
 澪が産まれてきたばかりの時は、可愛い妹ができてとても
嬉しかった。母が亡くなった直後も、母の顔も知らない
幼い妹が哀れで、率先してあやしていたと言うのに、
今ではすっかり煩わしいだけの存在に成り下がっていた。
 あやす事も、オシメを変える事も、触れあう行為は全て
ミネに任せ、自分はただ乳の回収だけを、半ば義務的に
行っていた。
(もう嫌だ!全部投げ出したい……)
 澪の泣き声が近づいて来て、幸也は耳を塞いだまま、
頭を振った。
(来るな!こっちに来るな!)
 半ば祈るような思いでそう念じたが、そんな願いも虚しく、
澪の泣き声がいきなり大きな音をたてて幸也の頭の中に
雪崩れ込んで来た。
「幸也ぼっちゃま、大変です!若君が、若君が、
いらっしゃらないのです」
 突然、澪の泣き声と共に、ミネの切実そうな声が
頭の中にこだました。

「若がいない?」
 幸也は呆然とした。
 樹は文緒が亡くなってから、一歩も自室から出て来なかった。
最初のうち、幸也はそんな樹をそっとしておいた。気持ちが
分かったからだ。だが、いつまで経っても出て来ない事に、
段々と業を煮やすようになってきた。悲しいのは自分だって
同じだ。自分だって、自室に閉じこもっていたい。誰にも
会いたくなんかない。況してや澪の世話なんて真っ平だ。
 そう思っても、そうできないのが現実だ。それなのに、
何故樹だけがいつまでも閉じこもっているのか。屋敷中に
響き渡る澪の泣き声は聞こえている筈なのに。
「朝食の食器を片づけに訪れた所、全くの手つかずでしたので、
心配になって中の様子を窺ったのです」
 樹は部屋の中へ人が入るのを拒んでいた為、食事は声を
掛けてから襖の前の廊下に置いていた。その食事は、
僅かながらだが毎回食べていたようだった。
「お手洗いに出てるんじゃないの?」
 樹が用を足す為に部屋を出ている姿さえ、この二週間あまり
誰も見てはいなかった。だが、食べてもいるわけだし、
生理的欲求だけに、行っていない訳はない。
「いえ、そちらも窺ったのですが……」
 既に、他の女中と屋敷内を一通り探したが、当人の姿は
どこにも無いと言う。幸也はミネの話しを聞きながらも、
ひっきりなしに泣いている澪の声が煩くて癇に障るのだった。
「わかった。僕も探してみる」
 幸也は澪の泣き声から逃げるようにして部屋を出た。
そして、もしや逃げたのでは?と思うのだった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

幸也はすっかり育児ノイローゼ状態ですね。
まだ14歳ですし、男子でもありますから、本来ならちょっと
手助けをする程度の関わりで済む筈のところなのに、
可哀想ですね。
投げ出したいけど、投げだせない。一生懸命な幸也。応援したくなります。

樹の方はと言えば。。。
こちらはトラブルメーカーでしょうか。
一体、どうしてしまったのか。
彼の内心は謎に満ちてます。
いつも?な行動を起こし、周囲、特に幸也が振りまわされて
迷惑してるんですねぇ。
でもこれもまた、幸也は樹を見放す事ができなくて……。
幸也君、、、そんな性質のようですね(^^)

NoTitle 

幸也の澪に対する気持ち、すごくわかりますね。
生きていくだけで大変な時代、大切な母の残してくれた命とはいえ、やっぱり・・・。
でも、頑張ってて、えらい!
大丈夫、きっと報われるよ、って、言ってあげたいです。

それにしても、樹、どうしちゃったんでしょう。
彼は、幸也にとって、共に歩むパートナーではなさそうですが。
でも、読者には気になる存在です。
知りたいですねぇ、いったい何を日々、思ってるのか。

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

戦後は大変だったようですね~。
ウチの親なんかも、得体の知れない肉を
食卓に出されたって言ってました。
祖母は一体どこから何を調達してきたのか???
こんな状況の中で子育て、大変そうですね。
澪ちゃん、可哀想に……(;_;)

樹は何をやってるんでしょうねぇ。
彼も得体が知れません。
幸也は悲しみの中でも頑張っていると言うのに。。。
弱っちいヤツですね。

NoTitle 

戦後の食糧難は本当に深刻だったようですね。
私の父も、戦中はまだ赤ん坊だったから記憶が無くて当然ですが、戦後何年か経ってから、空腹の記憶があると言っています。

そんな中でまだ完全に乳飲み子の澪を育てるなんて、普通に母親が育てるとしても大変だったろうに、こんな状況では生きられるかどうかさえわからないですよね・・・
(いや、ちゃんと生きて成長したって知ってるから安心して読めますが)

それにしても樹~~~!何やっとんね~~~~ん!!(^^;)
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