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小説・散 華
2.あまりてなどか 壱 1~


散 華  2.あまりてなどか 01

2011.10.07  *Edit 

 文緒が亡くなって二週間が経とうとしていた。
 広い華陽院の屋敷の東側の一室で、幸也はぼんやりと山を
見ていた。広縁に胡坐をかき、だらしなく背中を丸めて、
知らない人間がその後ろ姿を見たら、疲れ切った老兵のように
見えただろう。
 実際、幸也は疲れていた。
 怒涛のような日々だったからだ。
 戦中戦後の食糧事情で痩せ細り、出産で窶(やつ)れて
いた筈の母の貌は、死んでいるとは思えないほど美しかった。
白い頬には仄かに赤みが差し、濃い睫毛が優しく翳って、
今にも眼をさましそうな夢見る寝顔のようだった。そして
その表情は幸福に満ちていた。
 どうしてなのだろう?とあれから幸也はずっと考えている。
 戦争は終わり、兄や夫も戦死せずにすみ、新しい命が
生まれた。それらは喜ばしい事に違いない。けれども、
兄たちとも夫とも再会を果たしてはいないし、産まれた
ばかりの赤子の事を思えば、幸福と言うよりは心残りの方が
強いのではないのか。
 それなのに、何故ああも幸福そうな顔をしていたのだろう。
死ぬにはまだ早い年齢でもあったのに。
 そう言えば、樹の母親、華陽院晴香が亡くなったのも、
確か十二月だった。その時幸也は二歳八カ月の頃だったが、
記憶の底に彼女の事が僅かながらに残っていた。
 抜けるような色白で、儚げな姿同様にその笑みも儚げだった。
そして、とても自分を可愛がってくれていた記憶がある。
幸也の好物だった蜂蜜飴のような色をした瞳がとても印象的で、
幼心に、舐めたらきっと甘いに違いないと思っていたのだった。
 その人が亡くなった時も、夢見るような寝顔だった事を
ふいに思い出した。人の死と言うものがまだよく
分からなかった年齢だっただけに、周囲の嘆き悲しむ
様子を不思議に思い、また、寝ている人間を焼くのかと
恐ろしくもなったのだった。
 あの時、樹の父である寛は「焼かないでくれ」と棺に
取りすがって泣き喚いていた。その時の彼の気持ちが、
今は痛いほどよく分かる。
 とても死んでいるとは思えない程の美しい姿。
 死んだなんて何かの間違いだ。そう思わずには
いられなかった。
 こんなにも美しくて、今にも目を覚ましそうなのに。
 とめどもなく涙が零れた。
 誰もが泣いていた。
 ただ一人を除いて。

 樹だ。
 晴香に取りすがって泣き暴れていた父親とは対照的に、
樹は涙も流さずに静かに佇んでいた。誰よりも嘆き
悲しむであろうと思っていただけに、その姿を意外に
思った。涙を流すどころか、その瞳は平常心を現す
琥珀色だった。
 感情によって色が変わる瞳。こんな時にあって、
何故、琥珀色なのだろう。文緒が急に産気づいてからと
言うもの、樹の瞳の色はめまぐるしく変化していたように
思う。最期の別れの時には、何千年もの時間をかけて
苔むしたような、暗く深い緑がかった濃い色を浮かべていた。
あんな色を見たのは初めてだった。きっと多くの様々な
感情が複雑に絡み合っていたのだろう。
 母に「二人きりにさせて欲しい」と言われて、樹以外の
人間は全員、別室へ移った。あの後、二人は一体何を
話したのだろう。暫くの後、襖がスーッと音も無く開き、
樹が出て来た。樹は皆へは視線もくれずに、そのまま
静かに去って行った。それを不思議に思いながらも、
皆は文緒の元へ慌てて駆け寄ったが、文緒は息を
引き取っていたのだった。
 あの時、二人の間に何かあったのか?だから樹は
涙も流さずに平然としているのだろうか。
 だが、平然としていると言うには、矢張り語弊がある。
樹はまるで感情の無い、人形かロボットのようだった。
一言も話さない。だが人の話しを聞いていないわけではなく、
ちゃんと指示通りに動いていた。
 ひとつだけ、印象的な事があった。
 出棺の前の最後の別れの時、樹は手を伸ばし、そっと
文緒の頬へ当てたのだった。そして蝋燭のような白い顔を
せつなげに歪めた。その刹那、幸也の胸はキュゥっと
締め付けられた。
 ほんの数秒、そうした後、樹は何事も無かったかのような
顔をして棺から離れた。あの瞬間に、樹の気持ちの全てが
凝縮されていたのかもしれない。
「おかあさん……。どうして逝ってしまったの?」
 幸也は思わず小さく呟いた。
 奥の方から、赤ん坊の泣き声が聞こえて来た。
 澪だ。
 澪が泣いている。
 産まれて来た時は、確かに皆の希望の光だったのに、
今は重たい存在になっていた。幸也は思わず両手で耳を塞いだ。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

ありがとうございます。とても励みになりますわ~(^^)

自分の中では断片的なイメージの集合体な感じなのです。
それらをどうつなぎ合わせ、どう表現するか、
非常に苦しんでおります。
なんていうか、私の場合は、いつも大体が
頭の中で映像化されてるんですよね。
それを文章化しなきゃならないわけで。
悪戦苦闘中でございます。

なんとか楽しんでもらえるよう、頑張りますね。

NoTitle 

ぃよっ!待ってました!!

嬉しいです・・・本当に楽しみにしてました(^^)

文緒の存在は、あまりにも大きすぎましたね・・・。
これから樹がどうなっていくのか、気になって気になって・・・。
そして、澪がどうやって育てられていくのか・・・。
でもなにげに、私はけっこう「単細胞の」(笑)幸也のファンだったりする(*^_^*)

narinariさんの中では、きっと壮大なドラマが渦巻いているんですね。
文章にしていくのは、なかなか大変な作業だと思います。
物語の時代が時代ですしね・・・。

ご無理のない程度にがんばってくださいね!
でも、すごく楽しみに待ってます(^^)

Re: 始まりましたね!>lime様 

limeさん♪

やっと始まりました。。。。
毎日眠くてボーッとしている中、
書かねば!と自分を奮い立たせております。

文緒の死をきっかけに、二人の関係は少しずつ
変化していきます。
とは言っても、幸也は割と単細胞なので、
色々な事を思いつつも、元からの純粋な思いで
接して行くのですが……。
一番大きく変わるのは、矢張り樹でしょうね。
まぁ、元々の性質が顕著になっていくだけなのですが。

どう描くか……悩みながらのスタートでございます。。。

始まりましたね! 

重苦しくて、割り切れない幸也の気持ちが伝わってきますね。
樹の存在は、最初の頃とずいぶん変わってきたみたい。
嫉妬なのでしょうか。
それとも、すこしばかり怖い存在?
これからどう変化していくのでしょうか。
澪の存在も、気になりますね。

第二章も、楽しみにしています^^
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