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小説・散 華
    〃     参 61~66


散 華  1.夢の通い路 63

2011.08.23  *Edit 

 その晩、周囲の村人たちがポツリポツリと集まりだして、
心ばかりの祝いの品を置いていった。そんな人々に大殿は蔵から
酒を出して振る舞った。どの家も貧しい。だから祝いの品と
言っても、本当にささやかな物だった。けれども、その気持ちが
幸也には嬉しかった。そして、祝酒を振る舞う大殿にも感謝する。
 赤子は母の乳を吸った後、すやすやと眠っていた。
可愛い寝顔だった。その寝顔を幸也と樹はじっと見ていた。
いつまで見ていても飽き無い。
 食糧事情の貧しい中、早産だったと言うのに女児は小さい
ながらも健康だった。
「名前はなんて付けるのかな」
 幸也は穏やかな表情をして赤子を見つめる樹に言った。
「ふぅは、幾つか考えてるみたいだった……」
「えっ?そうなの?」
 初耳だった。
 驚く幸也に、樹は怪訝そうな表情を向けた。
「聞いて無いの?」
「聞いて無い。若は聞いたの?」
「考えてるって事は聞いたけど、具体的な名前までは聞いて無い。
教えてくれなかった」
「どうして、若はそんな事を知ってるの?」
 息子の自分は知らないのに。そんな思いが湧く。
「訊いたからに決まってるじゃないか。訊かない君が悪い」
 そう言われれば確かにそうだろう。だが、『悪い』とまで
言われるのは心外だ。そう思いつつも、自分の口調が幾分責め
口調だったから、そんな風に言われるのかもしれないと思い改めた。
「ユキは……、妹が欲しいって言ってたけど、僕も女の子で
良かったなって思ってるんだ」
 幸也は笑顔になる。
「やっぱり、そう思う?」
「ああ。男ばかりでもつまらないし。それに、この子はきっと、
ふぅに似て可愛い子に育つに決まってるし」
 樹の言葉に黙って頷く。産まれたばかりで猿みたいだが、
面差しの中に文緒を感じさせるものが多い。
「それにしても、赤さんと言われるだけあって、本当に赤いよな」
 樹の言葉に幸也は声を出して笑った。それにつられて樹も笑う。
当たり前の事なのに、改めて言われると何だかとても可笑しく
感じられるのだった。
 ひとつの小さな命の誕生が希望をもたらしてくれる。
こんな風に声を出して笑ったのは何年振りの事だろう。もう戦争も
終わった。生活はまだまだ厳しいが、少しずつでも良くなるに
違いない。だからこの子はきっと幸せになれる。みんなに希望を
もたらす存在が、幸せにならない筈が無い。
 急に辺りが慌ただしくなった。バタバタと廊下を人が行き交う
音がする。一体、どうしたと言うのだろう。赤子が寝ていると
言うのに、目を覚ましてしまうではないか。
 樹が眉間に縦皺を寄せた。同じように怪訝に思ったのだろう。
幸也は樹と顔を見合わせてから立ち上がり、襖を開けて廊下に出た。
誰もいないが、奥の間が騒がしい。母の部屋の方だ。
何かあったのだろうか。
 様子を見に行こうかどうしようか迷っていたら、その方角から
女中のミネが小走りにやってきた。
「ミネ……」
「坊ちゃま!大変です!文緒様がっ……文緒さまの容体が急変されて」
「急変?急変って、どういうこと」
 ミネの言葉に思わず問い返した幸也だったが、ミネは真っ青な
顔をして唇を震わせていた。
「ユキ、行こう」
 樹がやってきて、幸也の肩を軽く押した。厳しい表情をしている。
 そうだ。ここで詮索するよりも行って確かめた方が早い。
幸也は樹と共に母の部屋へ急いだ。
 文緒の部屋の前では人が出たり入ったりしていた。出て行く
人間の手には血に染まった布が乗っていた。衣服も血にまみれている。
それを見て、幸也は急に体が震えて来るのを感じた。
 部屋の中からは、怒号に近い声とザワザワと落ち着かない
様子が伝わって来る。幸也はいきなり自分の肩を掴まれて、
ビクリとした。見るとそれは樹だった。血の気が引いた顔が
強張り、震えていた。
「若……」
 幸也の声に、眼だけがギョロリと動いて幸也を捉えた。
恐ろしい物を見て体が竦んで動けない、そんな状態に見える。
 樹は暫し幸也の目をジッと見た後、「行こう」と言って
一歩を踏み出した。幸也は頷いて樹に従った。
 なんだか見るのが怖い。だが、確かめたい。一体、母は
どうしたのか。どんな状況なのか。
 また一人、女が出て来た。家の者では無かった。今日の
出産を聞きつけて手伝いや祝いに来てくれた村の人間である。
その女は蒼ざめて震えている二人と視線が合うと、すぐに
目を逸らせて軽く頭を下げ、逃げるように走って行った。
その手の中には血濡れた布がある。
 その姿を見送った後、襖越しに部屋の中を見た。
 部屋の中央に布団が敷かれており、布団も周囲も、
血で汚れていた。少し黒味がかった血が酷く生々しく、
鉄を含んだような独特な臭いが鼻をつき、眩暈がしそうだ。
 隣でドサリと音がした。
 樹が血の気の無い顔で、床にへたりこんだのだった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

あははは……、笑ってる場合じゃないですが、
ついつい……(^_^;)

繊細なおぼっちゃまは、血を見てフラフラァ~と
きてしまったようで。。。

澪ちゃんが生まれて、なんだか心温まってくるような、
そんな空気が生まれていた所へきての、急転直下。

続きをお楽しみに(^m^)

NoTitle 

いや~、こんなところで止めちゃあ~i-201
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