ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第2章ふれあい 第1回

2010.02.19  *Edit 

 「ねぇ、ねぇ、聞いた?」
 理子とゆきの元に、元クラスメートの久保早苗がやってきた。
 「沙耶華がさぁ、個人面談の時に増山先生にふられたんだって」
 沙耶華とは、クラスメイートの半田沙耶華の事である。両親共に美容師で、
有名美容室を経営しており、忙しさにかまけて放任の家庭であった。
色白で、ちょっとふっくらしたバラ色の頬に朱のふっくらと零れ落ちそうな唇、
ぱっちりとした目元、明るい色の髪と、アイドル並みの可愛い女の子だが、
生活の方は荒れていた。異性との交遊関係も盛んだとの噂だった。
 普段からとても積極的なタイプで、打っても響かない増山に、
個人面談の時間に直接攻勢に出たらしい。
 個人面談で積極的行動に出たのは、沙耶華だけではないようで、
他にも何人もいた。とは言っても、次の生徒が廊下で待っているので、
大胆な行動には出られない。
 個人面談では机を挟んで話す為、普段よりも至近距離だ。近いが為
に見とれて、何を言われても頷くしかない女生徒もいれば、その美声に
聞き惚れて返事をしない女子もいる。また、話はちゃんと聞くものの、
緊張して受け答えができない女子もいる。
 そんな中で沙耶華はかなり積極的にアプローチしたようだった。
しかし増山の態度は終始、冷たかったらしい。そして最後に、
「生徒と恋愛するつもりはない」とはっきり言ったという。
沙耶華はバン!と机に激しく手をついて、怒った顔で出て行ったらしく、
その様子を次の番の女子が見聞きしていた。本人自身も友人に話したので、
その事は周囲にすぐに伝わった。


 男子達は、「バカじゃねーの、先公にマジに熱あげてどーするよ」
と非難していた。
 積極的にアプローチした他の女子も、皆、手痛い仕打ちにあったようだ。
 この事があって、一部の女子達の間では、増山の評価が落ちたが、
しかし一方では、相手がイケイケなタイプの沙耶華だったこともあり、
教師として当然の態度だと評価する者達も多く、結局は、人気に
陰りはないのだった。
 増山の態度は当然だろう。例えその気があったとしても、個人面談の
時にアプローチされて、イエスは無理だ。沙耶華や他の者達も、
多分その辺はわかっていたのだろ。もっと愛想よく接してくれて、
楽しくお喋りができれば、まずは満足だったのだ。勿論、その先の
可能性も望んではいたようだ。
 理子は最後の最後だけに、終わった生徒達から色々と情報が入ってくる。
 既に終えている耕介は満足そうだった。
 「あいつ、いい奴だよー。これからの勉強の事とか具体的に
色々教えてくれたぜ」
 男子には概ね好評だった。さすがに東大出だけあって、明確な
目標を持っている者には志望通りに進める為の具体的なアドバイスが
なされ、迷っている者には方向性を示してくれたらしい。理子の
前日に終えた美輝も、公務員試験に合格する為に有利な事や、どういう
学習が有効なのかを踏まえた上での、今後の勉強のアドバイスを
してくれたそうだ。
 そういう数々の話を聞き、自分はどんな事を言われるのだろうと、
理子は興味を覚えるのだった。

 面談当日の火曜日。理子の順番は最後だから16:40分からだ。
茶道部の練習日でもあるので、16:30位まで部活に出て、
それから教室へ行こうと決めた。
 何故か部活の間中、気持ちが落ち着かない。あの先生と、
二人きりで面談するのである。あのイケメンと・・・。音楽準備室で
話している時は、別にどうと言うことも無かったのに、部屋を出てから
急にドキドキしてきたのを思い出した。
 理子が水屋で茶巾を洗っていると、中学の時からの友達の鈴木綾子が
話しかけてきた。
 「最近、彼氏とどうしてるー?」
 「えっ?」
 いきなりの質問にうろたえた。
 「あー、最近会ってないかなー」
 「ええー?確か3年生だったよね。大丈夫なのぉ?」
 どこか言い方に毒が含まれているように感じた。
 「大丈夫って何が?」
 「忘れられちゃってるんじゃないの?」
 と笑いながら言う。
 綾子とは昔からそういう女だ。どこか厭味で、底意地の悪さがある。
親切な部分もあるのだが、理子に敵意を持っているのではないかと感じる
時もある。幼稚園の時から付き合いが続いているのが不思議だった。
腐れ縁なのかも知れない。進学先は同じであって欲しくない相手だった。
 「いいじゃん、そんな人の事なんてどうでも」
 と理子は素っ気なく答えた。理子が彼氏とどうしようと、綾子には関係のない事だ。
 彼氏、須田智之は同じ高校の3年生で、生徒会長だ。去年、理子は
図書委員をやっていて、その委員会で知り合ったのだった。去年の図書委員の
メンバーはチームワークが良く、夏休みなどもよく図書室に集まっては、
図書の仕事に励む傍(かたわ)ら、合い間にトランプやウノをして遊んだり、
みんなでハイキングへ出かけたりしていた。そんな中で親しくなり、
交際を申し込まれたのだった。
 須田は銀縁の眼鏡をかけていて、優しげな面持ちである。理子のタ
イプだった。理子自身は、いいなぁ~と思う程度だったのだが、
断る理由も無かったので付き合い始めた。付き合い始めたと言っても、
恋人同士と言った甘い雰囲気はあまり感じられない。
須田はとても親切で優しく、押しつけがましさが一切ないので、
楽な相手だった。時々映画を見に行ったり、一緒に帰ったりする程度の
付き合いで、その付き合いも新年度に入ってからは途絶えている。
時々メールが来るくらいだ。本人からは、春休みの段階で、これから
受験体制に入るからあまり一緒の時間を持てないかも、と言われていた。
 綾子に言われて考えてみると、最後に会った春休みからずっと会っていない。
学校が始まっても、一緒に帰えっていないのに、平気でいた自分。普通なら、
こんなに会えないでいる事に不満を持つものだろう。昔好きだった人との事を
思い出してみても、やっぱり変だ。
 私達って・・・?
 このまま自然解消になっても、理子は痛みを覚えないような気がした。

 自分のお茶を点てる番も終わり、主客役も終え、時間が来たので
作法室を出て教室へと向かった。既に終えている美輝とゆきが、
「頑張ってねー」と送り出してくれた。腕時計を見たら4時半ピッタリだ。
2年6組の教室に着くと、ちょうど前の番だった男子が教室から
出てきたところだった。
 「よお!」と手を挙げたので挙げ返す。弓道部に入っている男子だった。
そのやり取りに気づいたのか増山が廊下まで出てきた。
 「ちょうど良かったな。始めるから入れ」
 と理子に声をかけて中へ入っていった。緊張する。
 教室へ入ると、増山がその長い手足を持て余すように、座っていた。
 前の席へ座るよう促された。
 「えーっと、理子、だったな」
 それが第一声か。何故、苗字を呼ばないんだ、苗字を。
と、その一声で理子は少々憮然とした。
 増山は手元にある資料を見ている。伏せ目がちな表情がなかなかイケている。
 その、顔を少し伏せた状態で上目づかいに理子を見た。その表情にドキっとした。
 「お前、文系は凄くいいのに、理数系は凄く悪いのな」
 痛いところを突かれた。
 「そうなんです」
 事実なのでしょうがない。
 「そうなんです、って、国立志望だろう。そんなんでいいのかよ」
 「良くないですね」
 「わかってるなら、どうにかしろ」
 態度悪~~、と思いながら理子は答えた。
 「どうにかできるなら、とっくにしています」
 増山は呆れ顔になった。
 「開き直ってどうするよ。このままじゃ、私立だな」
 どこか投げやりな言い方だった。何か、みんなの評判と違わなくないか?
 「そうですか。わかりました。ではそういう事で」
 理子はそう言うと席を立った。どうにも、この美しい男を目の前に
していると、まともに話ができない気がした。いや、まともに話ができないのは、
増山が美しい男だからなのか、それともキャラが気に入らないからなのか。
 「おい、ちょっと待て!どこへ行く」
 増山が慌てて止めた。
 「話が終わったようなので、帰ろうかと」
 理子は平然と言い放った。
 「お前なー、何言ってんだよ。誰が終わりだって言った?」
 「終わりじゃないんですか?」
 「まだ終わってない。座ってくれないかな」
 増山は渋い顔をしていた。
 怒らせてしまったか?でも最初から態度悪いし。
 「理子って、せっかちなんだな。そんなに早く結論出していい問題じゃないだろう」
 「別に結論は出してません。先生の意向として受け止めただけです」
 「意味がわからないぞ」
 「先生が私立とおっしゃっても、実際に私立へ行くかどうかを決めるのは私ですし」
 「お前って、ひねくれてる?それとも俺と話すのが嫌なのか?」
 あー、前者だ、と理子は思った。結局のところ、最初の増山の態度が
気に入らないのだ。だから素直に対応できないで、こんな態度を取っているのだ。
この、天の邪鬼的な部分で時々損をする。気をつけないといけない。
 「すみません。多分、ひねくれてるんだと思います」
 増山は拍子抜けしたような顔をした。
 「なんか、その、何て言っていいかわからなくなった。お前、扱い難いな」
 「先生が悪いんですよ」
 思い切って言ってみる。
 「俺が悪い?なんで」
 不思議そうな顔をした。
 「だって、最初から態度悪いし、私の事は『理子』って呼び捨てだし」
 「た、態度悪いって、俺は担任だぞ。生徒が担任に態度悪いって、
なんだ、そりゃぁ」
 増山は面食らった様子だった。
 「すいません。思った事を正直に言っただけです。私が、
そう思っただけですから」
 増山は大きくため息をついた。
 「俺、別に態度悪いつもりはないんだがな。アプローチには冷たいが、
不必要に冷たくしているつもりもないし・・・」 
 「そうですか。じゃあ、私が悪いんです。先生がどんな態度を取ろうとも、
先生なんですから敬意を示さないといけないんですよね」
 「それは止めてくれ。そういう言い方されると、気分が良くない。
先生だからどうとか、そういうのは嫌いなんだ」
 増山は真面目な顔をして言った。
 「でも先生、お言葉を返すようですが、さっきは『生徒が担任に
態度悪いってなんだ』っておっしゃいましたよね?」
 「いちいち、揚げ足取るなよー。本題に入ろう」
 妙にタジタジになっている増山を見て、理子は内心、ほくそ笑んだ。
こういうの、悪くない。
 「えーっと、理子は、大学はどの学部へ進むつもりなんだ?」
 「文学部になると思います」
 「専攻は?」
 「まだ決まってません」
 理子のその言葉に、増山は顔を上げた。その目が、とても綺麗だったので
理子は胸が急に高鳴った。さっきまでの会話を交わしていた人物と同じ人物
とは思えないような、澄んだ不思議な目をしていた。
 「なんで?」
 「迷ってて・・・」
 「何を迷ってる?」
 その声が、とても優しかった。少し鼻にかかった低めの美声。
授業で聞いている時も、耳に心地良い。
 「国文にしようか、日本史にしようか、って」
 戸惑いがちに答えた。
 「お前は、どっちが好きなんだ?」
 再び優しく訊かれた。そんな風に優しく言われると、何だか甘えたくなってくる。
 「どちらも好きですけど、日本史、かな」
 理子の答えに増山は頷いた。
 「なら、好きな方を選べ」
 「でも先生。日本史選んだとして、卒業後の就職とかどうなんでしょう?」
 増山が初めて笑った。とても爽やかな笑顔で、理子の胸はときめいた。
 「お前は、そんな事まで考えて迷ってたのか」
 「だって、重要なことですよ?」
 「それは確かにそうだが、それなら国文科へ行ったって、そう変わらないし、
それは他の学部だって同じだ。それよりも、好きな科目があるなら、
それが一番だと思うけどな」
 増山の態度は優しかった。最初は確かに態度が悪かったのに。
 「お前の過去のデータを色々見せてもらったんだが、中学の時は理数系も
成績良かったのに、高校へ入ってからガクっと落ちてるな」
 「はい。なんか急に難しくなって」
 理子は神妙に答えた。
 「俺が思うに、まだ努力が足りない気がする」
 「努力してますけど」
 「してるつもりでいるだけだ。結局、好きな科目ではないから興味が
湧かない。だから適当な所で妥協してる。そうじゃないか?」
 なかなか鋭い。
 「俺は、理子の歴史の知識の豊富さや、歴史観、考え方は凄いと思ってる。
好きだと言う気持ちも伝わってくる。だから、できれば歴史方面へ進んで
もっと深く勉強して欲しいと思う。そして、歴史を勉強するんだったら、
東大を目指せ、と言いたいんだがな」
 「ええっー?」
 増山の言葉に理子はとても驚いた。国立も危ういような状況で東大?
 「先生。冗談は止めて下さいよ。さっき、このままじゃ国立は
無理だって言ってたじゃないですか」
 思わず口調が強くなる。
 「このままじゃ、だ。だが頑張れば見込がないわけではない」
 「『ないわけではない』なんて、無責任な」
 「無責任じゃないぞ。担任なんだからな。お前の弱点は理数系だ。
それを克服すれば問題ないわけだ」
 増山の目は真剣だった。
 「どうやって克服するんですか?」
 「簡単だ。わからなかったら、わかるまで、とことん先生に聞く。
それしかない」
 理子は目を丸くした。何と答えたらいいかわからない。
 「とことんって・・・」
 「とことんは、とことんだ。絶対に諦めるな。生徒がわからなくて
きにきてるのに、邪険にする教師はまずいない。生徒にわからせるのが
教師の役目だからな」
 「でも・・・」
 理子は何となく釈然としない思いだった。小学生の時、理子は算数が
苦手だった。担任が熱心だったので、出来ない子供を放課後残して教えて
くれたが、それでもわからなかったのだ。
 そんな理子の心を見透かしたように、
 「わかるように教えられないのは、教師の方に問題がある。お前が
いくら教えてもらってもわからないようだったら、俺の所へ来い。
俺が教えてやる」
 増山は力強く言った。
 「でも先生は日本史なのに」
 「俺を誰だと思ってる。東大の日本史の先輩になるんだぞ。俺が
通ってきた道だから、よくわかってる。俺の言う通りにやれば間違いない。
要は、それをやり通せるかどうかだ」
 なんだか不思議な気がしてきた。先生にそう言われると、
出来るような気がしてくる。
 「東大を受験するかどうかは、これから決めてもいい。だが、どこを
受けるにしても、やっておいて損はないんだから、頑張ってみないか」
 「そうですね」
 確かに先生の言う通りだ。東大受験はともかくも、国立を目指すなら
理数系は克服しておかなければならない。それが出来るか出来ないかで、
結果も大きく変わってくるだろう。やるしかない。
 「ところで、理子はどうして歴史が好きなんだ?」
 増山は唐突に聞いてきた。

スポンサーサイト


*Edit TB(0) | CO(2)

~ Comment ~

Re: 面白かったですー 

ありがとうございmす<m(__)m>

自分ではなかなか分からないので、感想はとても有難いです。
これからも宜しくお願いします。

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。