ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・散 華
    〃     弐 31~60


散 華  1.夢の通い路 51

2011.07.21  *Edit 

 この年の六月、マリアナ沖海戦にて日本海軍は大打撃を受け、
サイパン島守備隊が全滅、その後も次々と南太平洋の諸島が玉砕し、
いよいよそこを拠点にして、本土への空襲が盛んになる事が予想され、
政府は学童疎開を本格的に実施。基本的には縁故疎開だが、
縁故の無いものは学校疎開が始まった。
 東京に住んでいる樹の弟妹達は、母親久恵の実家である
鎌倉へ疎開した。葉山へ戻って来なかったのは、横須賀海軍が
近い為である。すぐそばに海軍があるとなれば、空襲は必須と
寛は判断した。
 そう判断しながら、樹の事は放ったままだった。文緒や
大殿の許に樹への配慮を依頼してきた事は一度も無かった。
実際には、葉山は空襲があったものの、比較的少なく、
被害も小さかったが、無関心にも程がある。
 文緒は、いよいよ始まった空襲に震撼とした。恐れていた事が
現実になり、毎日の子供達の通学が不安でたまらない。
 毎朝、涼やかな笑顔を残して出かけていく樹を見て、
胸が潰れる思いだった。幸也の方が神妙な顔つきをしている。
何故こうも樹は平然としていられるのか。
 繊細で、何かあればすぐに文緒に寄り添っていた樹が、
今では何事にも動じないが如く、堂々としている。
逆に文緒を励まして来るくらいだ。そんな樹を頼もしく
思いながらも、列車に乗車中、空襲があったら、
と思わずにはいられない。
 わざわざ横浜の学校まで出かけて行っても、週に半分は
軍需工場での勤労だ。それなのに、何故、毎日危険を
冒してまで通わなければならないのか。だが、そんな事は
言えない。お国の施政に文句などもっての外だ。
 そして、八月、女子挺身勤労令が公布され、十四歳から
四十歳までの女性が工場などに勤労動員される事となった。
 子供たちを学校へ送り出した後、自分も工場へ行く事になった。
男達が戦場で命を晒している中、銃後の努めとして、
当然と思うものの、国家総動員法で女も学生も工場に駆りだされ、
農村では人手不足が加速し、国民の食料危機は益々深まり、
一体、将来どうなるのか?と思わずにはいられない。
 子供達も文緒も、若い女中たちも、皆が勤労奉仕に出て、
家に残っているのは高齢者のみである。大殿と佳香は
相変わらずで、舅の政也一人が畑仕事を頑張っても、
たかが知れていた。
 食糧事情の悪さに、頭を痛めるばかりだった。
 それでも、空腹と疲労を抱えながら、月日は過ぎていった。

 翌昭和二十年。
 いよいよ、都市部の空襲が激しくなってきた。
 樹も幸也も、事態の深刻化に危機感を募らせるようになった。
列車の本数も減り、乗車中に空襲警報が鳴って列車が止まり、
慌てて外へ飛び出して批難する事も増えて来た。
 足の悪い樹は敏捷に動けない。襲撃された事はまだ無いが、
幸也は手を引き、時にはおぶって飛び降りる事もあった。
しかし、列車乗車中に空襲警報に遭遇した事は、文緒には
内緒だった。実際、警報だけで襲撃を受けた事はまだ無いし、
話しても余計な心配をかけるだけだ。
 それでも、朝列車に乗っていると、前日とは違う光景に
出くわす事があった。空襲を受けて被害に遭っている場所を
目の当たりにし、幸也は身がすくむ思いがする。
「酷いな……」
 樹が一言、そう呟いた。幸也は黙って頷く。
 一体この国はどうなるのだろう。
 国民の口を賄う基本中の基本であり、生き死に最も関わる
農業従事者すら最早おらず、残された女子供は皆軍需工場で
勤労している姿は、誰が見たって可笑しい筈だ。
 大本営の発表が嘘ばかりなのは、誰もが分かっていた。
実際に自分達の生活を見れば、戦局が危うい事は
考えなくたって分かる。
 食糧難、燃料難。物資の豊かな米国の方が有利なのは当然だ。
このままでは、いずれ破滅する。それは一体、いつなのか……。
 この春で幸也は十四歳になる。学徒動員令が施行されて、
徴兵年齢が十六歳に引き下げられた。あと二年したら、
自分も兵隊として戦地へ赴くことになるのか。神風特攻隊として、
敵機へ突っ込むのか。考えただけで恐ろしかった。
 そして、隣の樹を見る。
 頑強な自分は甲種判定だろう。だが足の悪い樹は、きっと丁種だ。
兵役を免除されるに決まっている。幸也は、自分の中に
何とも言い難い複雑な感情が湧き、渦巻くのを感じた。
 母の文緒は、足の悪い樹の事ばかりを心配しているが、
息子である自分がいずれ徴兵されて死ぬかもしれないと言う事は、
考えていないのだろうか。これまでずっと、優位な立場に
あった自分が、いきなり暗闇の中へ突き落されたような気がし、
そして隣にいる不遇の貴公子に、初めて妬心を抱いたのだった。


スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(4)

~ Comment ~

Re: NoTitle 

御指摘、ありがとうございます♪

なんか、西暦とゴッチャになっちゃってる……(^_^;)

同じ過ちを、この後の回でもやってまして、
そちらは気付いて直したんですが、
この回の分は気付いて無かった。。。。
平成になってから、年号より西暦の方が染みついちゃったみたいで、
今年も平成22年なのか23年なのかピンと来ないくらいで。

お恥ずかしいです。

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

幸也は純粋で真っ直ぐだけに、自分の中に湧いてくる
複雑な思いに悩むんでしょうね。
正義感が強いだけに、自身の中の感情を許せなく思ったり……。
幸也自身、元気でいい子に育ってるだけに、
文緒は安心してしまっているのかもしれません。
自分の子供だから、大切に思っているには違いないんでしょうけれど。

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

NoTitle 

なんだか、幸也の気持ちが、違った方向に歪んでしまいそうで、怖いですね。
でも、気持ちはわかるかも・・・。
文緒、もう少し、幸也に表立った愛情表現をしてほしいような。。。
13~4って、不安定な年頃ですもんね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。