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小説・散 華
    〃     弐 31~60


散 華  1.夢の通い路 35

2011.06.06  *Edit 

 樹が毎日、文緒から勉学の指導を受けている一方で、
幸也は地元の小学校へ毎日通っていた。そして、帰宅後、
その日に勉強した事を母に報告する。
 これまで、樹と共に母の元で色んな事を学んできた幸也だったが、
ここへ来て初めて二人と違う道を歩むようになり、一抹の寂しさを
感じるようになった。
 登校初日。
 教室へ入った幸也に、一斉に好奇の目が向けられた。
何故そんな目を向けられるのか分からないまま、自席へ着くと、
数人の男児が寄ってきて、
「ヨロヨロはどうした?」
 と声を掛けて来た。
「ヨロヨロ?」
「お前と一緒にいた、あのヨロヨロ歩く白い奴だよ」
「若の事?」
 その言葉に、ぶーっ、と相手は吹き出した。
「若、だってよー。何、若って?あいつ、若って名前なのかぁ?」
 その日、幸也は彼らと取っ組み合いの喧嘩をして帰宅した。
 だが、その事を母は知らない。
 絶対に心配する事は分かっていた。それに叱られるに違いない。
そう思った幸也は真っすぐに帰宅せず、藤村の家へ寄り、
祖父に事情を話して喧嘩の形跡を落としてから帰宅したのだった。
 祖父は黙って幸也の話しを聞き、優しく頷いてくれた。
幸也には、それが何より有難かった。そして祖父は最後に言った。
「お前の気持ちはよく分かる。お前は優しい子だ。だが、
喧嘩はいけない。相手の口車に乗って喧嘩をするのは愚か者の
する事だ。自分を貶める行為だ。賢者は愚者を相手にしては
ならない。お前は強く賢い子だ。だから、儂の言う事は分かる筈だ」
 祖父の優しい瞳の中に、強い光を感じた。
 幸也は頷いた。そして、もう喧嘩はするまいと決めた。
翌日からも樹の事だけでなく、親から聞いたのだろう、
乳兄弟である幸也の立場をも、「腰巾着」だの「家来」だのと
言ってからかってきたが、相手にしなかった。
 やがて、乗って来ないのでつまらなくなったのか、
何も言わなくなった。そして、明るく元気で頭の良い幸也は、
多くの友達ができ、学校の帰りも彼らと遊んで帰るように
なったのだった。
 夜、夕飯と風呂が終わると、母が勉強をみてくれる。
学校では教わらない事まで教えられる。
 最近の学校の勉強は、皇国史観だとか、戦争の事などが
中心になってきていて、家でやっている勉強よりも程度が
低いと幸也は感じていた。その事を母に話すと、
「どんな時代であっても、必要な勉強をおろそかにしてはなりません」
 と言って、難しい勉強を幸也に課す。
 自分の隣では、樹が書き方の練習をしている。ペースは
とてもゆっくりだが、それでも以前よりも速くなってきたと感じた。
 そして、自分と樹の差を考える。
 生まれた時から傍にいて、自分が何の苦もなく出来る事が
樹には出来ない。母が懸命に教えるにもかかわらず、
なかなか出来ない彼を見て、物心付いてから、どうして
出来ないんだろう?と疑問に思っていた。
 苦労している母を見て、そんな母を助けたくて、自分も樹に
働きかけて来た。出来ない樹に苛々する事も少なくなかった。
それでも、懸命に頑張っている樹の姿に、自分は恵まれて
いるんだと段々と自覚するようになった。
 今自分は、樹よりも遥かに難しい事を勉強している。
毎日元気に学校へ通い、友達もでき、野山を駆け回り楽しい
日々を送っている。それら全ては、樹にはできない事なのだ。
 昼間、母を樹に一人占めされても、羨んだりしてはいけないんだ。
 そう自分に言い聞かす。
 若はあの足では兵隊さんにもなれない。
 兵隊さんになって、お国の為に尽くすのが立派な人間なんだ。
 学校で先生がそう言っていた。
 だから僕は、若を羨ましくなんか無いんだ。
 そう思いながら、母と樹の様子を見るにつけ胸が小さく
痛む幸也だった。


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