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小説・散 華
    〃     弐 31~60


散 華  1.夢の通い路 33

2011.06.01  *Edit 

 就学前の検査で気を良くして、心穏やかだった文緒と樹だったが、
再び鉛のような重たい気持ちにさせる事が起きた。
 小学校の入学式だった。
 文緒は幸也と樹の二人と共に入学式に出席した。寛が
出席しないであろう事は最初から分かっていた。だからせめて、
祖父である大殿か、祖母の佳香に出席して欲しく、文緒の方から
願い出たものの、二人ともよく分からない理由を楯に
出席できないと言ってきた。
 普段から建前上は良い事ばかり口にする二人だが、同じ穴の
ムジナの姉弟だと実感する。いざと言う時には、まるで頼りに
ならない。大殿などは、次男の茂がいたくお気に入りだ。
 やんちゃな男の子らしい様は、確かに傍目にも可愛く思える。
だが文緒から見ると、しつけがなっていない。いまだに平気で
東の対屋へどかどかとやってきては、おやつを食べようと
している樹を突き飛ばして横取りしようとする。
 大抵は、幸也が素早く取られないようにするのだが、
それでも時には取られてしまう。そんな時の茂は、まるで
鬼の首でも取ったように誇らしげな顔をするのだった。
 文緒が叱ると、何故叱られるのか分からないといった顔をする。
そして、戻って母親に言いつけるのだった。夕方になってから、
南の対屋の使用人がやってきて、
「子供のやる事だから大目に見て欲しい」と伝言される。
 茂はおやつの時間を狙ったようにやって来るので、
文緒は仕方なくおやつの時間を少しずらした。いつも通りに
やってきた茂はおやつで無い事にガッカリして帰っていった。
 だが、文緒がいない場所で樹と幸也に遭遇すると、
足の悪い樹をしきりにからかうのだと、幸也から聞かされた。
樹自身はそれを訴えはしないが、時々文緒の胸に顔を擦りつける
事があるので、きっとそれなんだろうと文緒は察した。
 誰もが茂に甘い。初孫である樹を気にかけていた大殿だったが、
茂が生まれてからは、すっかり樹の事など眼中にない様子だ。
だから入学式と言っても、気持ちが乗らないのかもしれない。
 そしてその入学式の日。
 初めて大勢の同年代の子供達を目の前にし、樹は委縮していた。
幸也の方はと言えば、物珍しそうな顔をして周囲の子供たちを
見まわしている。樹は普段から繊細だ。だから当然の反応だろう。
 文緒は最初はそう思っていた。だが、周囲の様子が少し
普通でない事にやがて気付いた。
 誰もが樹に注目している。
 柔らかそうな栗色の髪に、色素の薄い琥珀色の瞳。抜けるように
色が白く、ひと目を引く程の美しい容貌。少女と見紛う程である。
 注目されるのも当然と言えば当然だ。そして、注目を浴びれば
浴びる程、樹の一挙手一投足が目に付き、自然とそのおかしな
足取りに気付くのである。
 人々は風の便りで華陽院本家の長子の事を聞いている。
「あの子が例の……」との囁きが、シミが広がってゆくように
人々の中へ浸透していたった。
 美しい物を見る憧憬の瞳が、好奇心と軽侮の色に変わった。
 子供達は大人よりも、異質な者に対する反応が早かった。
最初から、美しい者としてではなく、異質な者として樹の
足取りに気付き嘲笑の表情を浮かべる。
 学校への道乗りを歩き出し、最初の親子の集団と遭遇した時、
樹が小さく震えたのは、その時に自分を見る子供らの視線の
意味をすぐに悟ったからだったのだろう。
 式の間、整列している子供達の中で、樹は小さく縮こまっていた。
樹の周囲だけ、列が乱れている。皆が樹から距離を取って
いるからだった。ただ幸也だけが、その傍にそっと寄り添っている。
 文緒は後の父兄席でその様子を見ていて、胸が潰れそうなほど
辛かった。そして、これが現実なんだ、と改めて身に沁みた。
兄の綱紀の言葉が思い出される。
 世間はまだまだ厳しい。
 これまで、華陽院の中だけで受けて来た偏見の眼差しは、
そのまま社会の縮図でもあったのだ。どこへ行っても、
これを避けて通るわけにはいかない。
 だが、樹は避ける方を選んだのだった。
 翌日から頑として学校へは行こうとしなかった。
 入学式の晩、樹は文緒の胸をまさぐり、その谷間に顔を埋めた。
震えながらしがみついていた。精神的にかなり参っている。
大人でも、あれだけの周囲の好奇と軽侮や憐憫の混ざった視線を
浴びれば居たたまれないだろう。
 だから行きたくない気持ちも当然だ。それでも、何度か
働きかけた。最初が肝心だ。このままでは、この先もずっと
行かずに終わってしまうのではないか、そんな思いが胸をよぎる。
「僕も一緒だよ?ずっと傍にいるから。若を守ってあげるよ」
 幸也が懸命に説得するが、それでも樹は冷たい顔のままじっと
していた。薄い瞳の色が濃くなっており、紺に近いような色に
なっている。不機嫌な証拠だった。
 無理強いをしてもしょうがない。
 樹の意思が固いと悟った文緒は、家で自らが家庭教師の役
割を果たす事に決めたのだった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

お久しぶりです。お元気になられたようでなによりです。
また来てくださって、嬉しいです(*^^*)

散華第一章、終わってしまいました……
長かったですが。

まだ第二章が始まるまでに、もう少し時間が
かかるので、慌てずご自分のペースでお読みくださいね。

NoTitle 

とってもご無沙汰してしまった上に、こんなに前の記事にコメントしてごめんなさい。

やっとなんだか、平常に暮らせる(とか言ってこんな時間ですが)感じになってきました。
散華、先が気になって気になって・・・。

だいぶ遅れをとってしまいましたが、ゆっくりと、楽しみにこれから読ませて頂きますね。

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

ハンデを負った分、試練も多いですね。
だけど、異質な者に対する態度、子供も大人も嫌ですね。
思うに、矢張り一番悪いのは大人でしょうか。
大人の見識とか良識次第で子供も変わるものですよ。
大人がこれじゃぁ、子供も同じようになるのは
自然の道理です。
今でも障害児・者に対する偏見は結構あります。
子供は大人の対応に、そのまま比例してる感じです。
子は親の鏡、親は子の鏡なんですよね。

さて、この後、樹はどう育っていくのでしょう。
後半は少し駆け足な感じで進みます。
お楽しみに♪

NoTitle 

樹には、まだまだ試練がいっぱいありそうですね。
子供が異質なものに好奇の目を向けるのは、ある程度我慢はできても、大人のそれは許せませんね。
大人のそういう残酷さは、とても醜い!

樹が健気なぶん、愛おしさが増します。
どうか、くじけないで、まっすぐ育ってほしいなああ。

茂という存在が、なんだかとても腹立たしいです。

Re: 世間の偏見。>千菊丸様 

千菊丸さん♪

そうそう。子供って残酷ですよね。正直なだけに。
違うものをすぐに排除したがるのは、人の習性なのか……。
今よりも理解が無い時代だけに、余計に厳しいでしょうね。

茂の甘やかしは、何より母親のせいでしょうね。
母親自身が、大店の末娘だけに我がままに育ってるのかと。
寛は取りたてて甘やかしている訳ではないのですが、
厳しく接しているわけでもないので、子供の助長は当然なのかな。

今後、この兄弟は、何かと確執が生じる予定です。
まぁ、この感じからしたら予想通りかもしれませんが(^_^;)

世間の偏見。 

樹に対する子どもたちの偏見と侮蔑に満ちた視線・・子どもって正直で残酷ですからね。
茂は親のしつけがなっていないし、樹に対してどこか立場が上だと思っているようで・・まぁ寛が父親ですから、無理もありませんが。

文緒の深い愛情で樹がどのように成長するのか、気になります。
茂は親の脛をかじって体たらくな生活を送りそうな予感がいたします。
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