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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 29

2011.05.16  *Edit 

 昭和十年二月。
 寛と久恵は祝言を挙げた。
 そのめでたい式に、樹と文緒は呼ばれなかった。
 晴れの日に樹のような者が表に顔を出すのは、華陽院家に
とっては恥だと、寛が言った事を佳香から聞かされた。
 新しい妻を迎え、これで樹は完全に日陰の存在にされてしまった。
「いくら樹に障害があるからと言って、自分の子供である事には
変わらないのに」
 悔しそうに言ってから、佳香は憐みの目を樹に向けた。
そんな佳香に文緒は共感できない。
 確かに不憫な子だと思う。ただそれは、障害があるからではない。
実の親から愛情をかけては貰えず、まるでいないような扱いを
受けている事に対してであって、通常発達では無いからと言って
憐むのは、本人に対する無礼だと文緒は思っている。
 祝言の晩、文緒と樹の許に大殿がやってきた。
「すまない……」
 大殿は一言そう言うと、頭(こうべ)を垂れた。
 大殿にとって、樹は大事な孫である。待望の男児でもあり、
その成長を期待していた。だが思いもよらなかった樹の様子に、
失望は否めない。それでも肉親の情はある。ただ、寛の気持ちも
分からないではないのだった。
「あいつは、晴香を愛するあまり、晴香によく似た樹を見るのが
辛いんだよ」
 元々、子供には興味が無かった。それでも樹が通常の発達を
していたなら、適度な距離を持って父親らしい関わりが
できただろう。だが意に反して、樹は一向に成長していかない。
 体面を気にする性格もあって、樹を見る度に苛々する。
それでも晴香の手前、自身の感情を抑えて来た。だがそれも、
晴香が亡くなると抑えきれなくなり、更に晴香によく似た
その顔を見ると、晴香を思い出して辛くなる。
 寛が早くに再婚を望んだのは、晴香への想いを封印
したいが為だった。
 あまりにも辛くて、この先、生きていけそうにはない。
だが自分には華陽院家当主としての役目がある。
生きていく為には忘れるしかない。
だから、それを呼び起こす樹を見たくないのである。
 晴香とは対照的な久恵を選んだのも、同じ理由だ。
晴香を思い出す事の無い、見た目も中身も全く違う女だったから、
相手に選んだ。この健康そうな女なら、きっと子供も
沢山産むに違いない。
 晴香が亡くなった時、晴香を愛した自分も死んだ。
これからは全く違う人生を歩もう。寛はそう思ったと言う事を、
大殿は文緒に語った。
 そうせずには生きていけない程の深い悲しみだったのだろう。
だが文緒は、それを聞いてやるせない思いになった。
そして、ただただ哀しい。
 寛の様を見て、晴香はあの世で何を思っているのだろう。
彼女の魂が報われないような気がした。
いつまでも自分を想って、立ち直れないでいるのは辛いだろう。
だが、だからと言って、その存在を切り捨てたようなこの様も、
悲しいに違いない。
 そして、樹……。
 我が子へのこの仕打ちは、矢張り許せない。自分が辛いからと
言って、我が子を遠ざけるなんて。
 放っておいても育つ子供では無いだけに、尚更だ。
「若君は……、どうなるのでしょう?」
 文緒は肩を落として、呟くように訊ねた。
 樹はそばで、幸也と共に小さい寝息をたてていた。
透けるような白い肌の、頬がほんのり桃色に染まっている
その顔は、悲しい生い立ちを全く感じさせないのだった。
 その寝顔を見て、文緒は胸が潰れる思いがした。
 この先、この子はどうなってゆくのだろう。
「樹の事も、君の事も、悪いようにはしない。これから先も、
樹を頼む。樹の事に関しては、寛も久恵も関知しないと
言っている。だから、困った事があれば、わしに言ってくれ。
出来る限りの事はするつもりだ」
 大殿は、文緒の手を取ると、ぎゅっと握りしめて
「よろしく頼む」と言った。その目尻に小さく光る粒を見て、
文緒の目から涙が溢れてきたのだった。

 その年の十二月半ば。
 久恵は丸々太った男児を出産した。
 樹の四歳違いの異母弟、茂の誕生である。

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