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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 27

2011.05.08  *Edit 

「二月に身内だけで祝言を挙げるそうだけど、その前のお正月に
お披露目を兼ねて挨拶に見えるらしいわ。一体どんな女なのか……。
樹の継母にもなるわけだから、心配だわ。文緒も自分の進退を
心配した方が良いかもしれなくてよ」
 意地悪なのか親切なのか、よく分からない表情でそう言った。
 この一年、この樹の祖母の存在は、文緒にとっては重荷で、
この人がやって来る度に、神経がすり減るのだった。以前よりも
親しくなったとは言え、時々チクリチクリと嫌味や皮肉を言い、
樹の訓練にも何かと口を出して来る。
 こういう女性の許で、晴香のような純粋な女性が育った事を、
今更ながら不思議に思うのだった。
 ただ、佳香の話しは寝耳に水で、寛がこんなにも早く再婚
する事に、晴香への憐憫を感じるものの、それより何より、
新しく妻になる女性が、一体どんな女性なのか。樹の事を
どう受け止め、どう接して来るのか、それが一番気になり、
そして心配になるのだった。
 それから間もなく一周忌の法要になった。寛は始終伏せ目のまま、
その頬に涙を伝わらせていた。樹には全く目もやらず、まるで
最初から最後までいない存在のような態度に、文緒の胸は悲しみで
一杯になった。
 この一年、寛とは全く顔を合わせていなかった。用事が無い限り、
文緒は東の対屋以外へは行かない。晴香がいなくなったのだから、
寛もこちらへはやって来ない。
 同じ屋敷に住みながら、一年も顔を合わせる事がないのは、
屋敷が広いからでもあるが、全く無視されて、ひっそりと
暮らしている様は、まるで日陰の存在のように思えてくるのだった。
 そんな寛の態度が周囲にも伝わっているからか、誰もが樹と
文緒にはどこか余所余所しく、文緒の隣に立つ裕也と幸也の存在は、
まるで樹も含めた別の家族のように見えるのだった。
 線香の匂いと読経の声が響き渡る中で、人々の静かな啜り泣きが
一年前へと時間を戻したように感じられる。だが、写真と位牌を
前にして焼香をあげると、花で飾られた棺が無い事に時間の経過を
実感するのだった。
 精進落としの食事の時も、場は暗く、誰もが口をつぐみ、
重たい空気がその場を支配していた。寛は相変わらず目を
伏せたままで、隣に座る大殿は苦い顔をしていた。
 これ程までに打ち沈んだ様子を見ると、年が明けたら新しい
妻を迎えると言う事がまだ信じられない文緒だった。実際、
二月に祝言を挙げるという事を、まだ正式には聞かされていなかった。
 正月に挨拶に来ると言う。
 本当に来るのだろうか。
 一周忌の法要後、新年の挨拶をちゃんと出来るように、
文緒は樹と練習した。満三歳になり、ようやく、舌足らずな
感じではあるが、意味のある単語を言うようになってきた。
礼儀作法も厳しく教えている。足取りはまだ覚束ないものの、
なんとか一人で立って歩けるようになってきた。
 去年よりも確実に進歩している事に喜びを覚えながらも、
元旦の寛との対面がどうなるのか、不安でもあった。
無視されるのか、葬儀の時のような仕打ちを受けるのか。
 元旦の朝、朝食を摂っている時に女中から新年の宴について
聞かされた。正午に親戚筋が集まって、そこで客人の紹介が
あると言う。文緒と樹も当然の事だが出席するようにと、
大殿からの伝言だった。
 当主である寛からで無い事が、胸中に影を落とす。樹は
華陽院家の長子であるのだから、出席するのは当然の事だ。
だが、樹への寛の感情を慮ると、寛自身は樹の出席を
望んではいないのではないか。
 不安になる一方で、昨年よりも成長している樹の姿を見て、
少しは心持に変化をもたらすのではないか、との思いもあった。
それに、樹は益々晴香に似てきている。その美しい
顔(かんばせ)は、故人を彷彿とさせる。だからこそ、
佳香は樹に執着しているのだ。
 正午の宴の支度をしている時、夫である裕也がやってきた。
「明けましておめでとう」
 部屋へ足を運び入れながら、爽やかな笑顔で挨拶する夫に、
文緒は慌てて居住まいを正し、手をついて挨拶した。
 父親を見て、喜び勇んで飛びつこうとした幸也に、まずは
挨拶を済ませるよう、厳しく諭す。
「ちちうえ……。あけまして、おめでとう、ございます」
 紋付袴姿でちょこんと正座して、可愛らしい声で挨拶を
する幸也を見て、裕也の顔は喜びで綻んだ。そして文緒は、
そんな夫を見て幸福感に満たされる。
 裕也は息子に「おめでとう」と挨拶を返すと、幸也を自分の
隣に座らせて、文緒の隣に座る樹に向かって新年の挨拶をした。
「若君。明けまして、おめでとうございます」
 丁寧に、そして深々と頭を下げる父を見て、幸也は不思議そうな
顔をしたが、すぐに父に倣って同じように畳に手をついて
挨拶したのだった。
 樹は目の前の二人を見て、幸也よりも不思議そうな顔をした。
幼い自分が、大の大人からこんなに丁寧な挨拶をされるのが
理解できない、と思っているのであろうか。
 文緒はそんな樹に、挨拶を返すよう促した。樹は文緒の言葉には
素直に応じる。二人に向かって、「おめれとう……」と挨拶を返した。
「おおっ!随分と、成長遊ばされましたな」
 裕也の明るく大らかな笑みに遭遇し、樹は恥ずかしげに
小さく笑った。お世辞ではなく、本心からの言葉と察したのだろう。
褒められて嬉しそうにしているのが伝わってきて、文緒も嬉しく
なった。樹が文緒以外の人間に、こんな表情を見せるのは初めて
だったから、尚更だ。
 そして、心優しい夫に感謝する。
 四人は共に東の対屋から南の対屋の座敷へ向かった。だが、
席は一緒ではない。裕也と幸也は外戚の筆頭の席へ、樹は本家
嫡子で有る為、上座に近い席が用意されており、乳母の文緒は
樹の隣に坐した。
 全員が揃って間もなく、寛が入って来た。その後ろに若い女性が
付き従ってきた。艶やかな古典柄の振り袖を身にまとい、
まばゆいばかりの金糸織の帯を締めていた。
 いくら元日とは言え、まだ喪が明けたばかりである。
晴れやかな顔をしている者は一人もいなかった。だからなのか、
彼女の濁りのない晴れがましい姿とその表情に、この場に
そぐわない違和感を覚えるのだった。
 寛の隣に座り、皆に正面の姿を見せたその女性を、文緒は
改めて観察した。器量良しとの話しだったが、確かに器量は
良い方だろう。だが、晴香とは全く似ても似つかない、
見るからに健康そうな娘だった。


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