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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 26

2011.05.04  *Edit 

 文緒は裕也の協力の元、樹の養育に今まで以上に力を入れた。
生活そのものは、これまでと変わりなく差配されていたが、
どことなく腫れものに触るような、そんな余所余所しさを
感じるのだった。
 晴香が亡くなってから、母親である佳香の出入りが多くなった。
晴香が嫁いで来てからも、病弱な娘を心配して度々訪れてはいたが、
当主の寛が頻繁に来るのを嫌がっていた為、自由に出入りしていた
訳では無かった。
 寛にとっては可愛がってくれた伯母ではあるが、晴香との仲を
邪魔された事で少なからず伯母に対してわだかまりを持ち続けていた。
 佳香は何より晴香の体を心配し、夫婦の間柄にも何かと
口を出して、それが何より鬱陶しく、寛にとっては邪魔な
存在となったのだった。だから晴香が生存中には、喜ばれない
客であった佳香だったが、晴香亡き後、腑抜けのようになって
周囲に関心を示さなくなった寛は、伯母がやってきても
何の反応も示さない。
 晴香は女主人とは言っても、殆どが寝たり起きたりの
生活だったから、女主人らしい役目は殆ど果たしていなかったから、
亡くなったからと言って家が何か困ると言うわけではない。
 それでも、当主は腑抜けだし、大殿も力を落としているから、
自分がしっかりしなくては、と佳香は頻繁に華陽院家に
出入りして、家の差配をするようになったのだった。
 そして、手がすくと、東の対屋へやってきては、樹の様子を
覗いていく。そして、樹の訓練の様子を見るにつけ、厳しい
表情をして文緒を責めるのだった。
「あなたは、どうしてそんなに樹に厳しいの。樹には難しい事を
無理強いして、可哀想じゃないの」
 そう言って、樹を抱き上げる。だが樹は、抱かれるのを
嫌がって全身で拒絶する。そんな樹に手を焼いて、更に
文緒に辛くあたるのだった。
「自分の子供じゃないから、そうやって無慈悲な扱いが
できるのよ。出来の良い幸也と比べて、樹を虫けらのように
思っているんでしょう」
 佳香の言葉に、文緒は唇を噛みしめた。
 あまりの言い様だ。
 晴香が生存中は、華陽院家へやってきても、樹の顔を
チラリと見るだけで、抱こうともしなかった。この人にとっても、
娘の晴香が全てであり、樹は付属品に過ぎなかったのだ。
 ただ、寛と違う点は、晴香亡き後、樹を形代のように
思い執着しだした事だった。
 血の繋がった孫なのだから、心に掛けてくれるのは嬉しい
事だと思う。歯牙にもかけない父親よりは人間らしい。だが、
そう思う一方で、その愛情は純粋に孫を思うものではなくて、
自身のエゴを満たす為のもののように感じてならないのだった。
 こんな愛ならいらない。
 寛のように無関心な方が、まだましだと、文緒は思うようになった。
 佳香は何かにつけて大殿に、自分がこの家で樹を育てると
申し入れているようだが、樹の様子を見るにつけ文緒の存在の
大きさを感じている大殿は、首を縦には振らなかった。
 一方、樹は樹で、文緒の苦悩を感じたのだろう。最初のうちは
抱かれて暴れていたものの、そのうちに抵抗しなくなった。
ただ、黙ってじっと抱かれている。それで佳香の気持ちも
少しは和らいだようだった。
 そうして、晴香が亡くなってから間もなく一年を迎えようと
していた。一周忌の法要を前にして、文緒は佳香の口から
驚くべき話しを聞かされた。
「もうすぐ晴香の喪が明けます。そして、それを待って
いたかのように、来年の二月に寛が再婚する事になったわ」
 佳香はそう言って、悔しそうに膝の上で拳を握りしめた。
 最初のうちは文緒に辛く当たっていた佳香だったが、
元を正せば、佳香と文緒の母は従姉妹同士である。東の対屋へ
通ううちに、垣根が低くなってゆくのを文緒も感じていて、
この頃では親しげに世間話などもするようになり、たまには
寛や弟である大殿への愚痴などもこぼすのだった。
「晴香が亡くなった時、あんなにも嘆き悲しんでいたのに、
もう再婚だなんて、その心を疑うわ。しかも、再婚の話しを
持ちだしたのは寛自身で、梅雨の頃だったって言うのよ」
 梅雨の頃と言ったら、まだ半年しか経っていない。
あれ程深く悲しんでいただけに、信じられない話しだった。
 相手は寛が五歳の時に亡くなった母の、末の妹の義妹だと言う。
寛にとっては叔母に当たるその女性は、鎌倉の呉服店に
嫁ぎ裕福な暮らしをしていた。その嫁ぎ先の夫に歳の離れた
妹がおり、現在十九歳。久恵と言い、器量良しとの評判らしい。
 寛は華陽院家の当主である。いつまでも独りでいるわけにも
いかないだろう。
 同じように早くに妻を亡くした大殿は、周囲の勧めには
応じずに再婚はしなかった。だが、子供が一人では心許なく
思って、余所に二人程子供を作ったが、どちらも女子で
早世してしまった。
 幸い、寛は健康に育ったので良かったが、現状を考えると
寛には再婚してもらって、健康な子供を何人も残して
貰わなくては家の前途が危ぶまれる。
 だから、喪が明けたら、佳香は自分の伝手で再婚相手を
探そうと思っていた。晴香の後に妻に入る人間は、自分の
眼鏡に適った女でなければ。
晴香の為にも、そうしたいと願っていただけに、死後半年で
再婚相手を探すように父親に要望した寛と、姉である自分に
隠したまま、その相手を探していた弟に対し、
腸が煮えくり返る程の怒りを感じているのだった。


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