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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第9章 染まる染まらない~第15章 許されざる者許す者


クロスステッチ 第1部第14章 雨 第1回

2010.03.29  *Edit 

 中間テストが終わった翌日、生徒達に、受験補習クラスの案内
プリントが配布された。目安としては、偏差値60以上の大学を
志望している生徒が対象で、希望者は志望大学、学部、得意・不得意
科目、受験勉強における悩み等を記入して、担任に提出する事に
なっていた。翌週の火曜日から開始されるので、提出期限は週末だった。
 「理子はどうするの?」
 岩崎に訊かれた。
 「私は参加するけど、岩崎君は?」
 「うーん、どうしようか悩むところなんだよね」
 まだ同じクラスになって日が浅い事もあり、岩崎が現在どのく
らいのポジションにいるのか、理子には全くわからなかった。小テス
トの成績は良いみたいだ。だが参加を悩むくらいだから、上位の大学
を目指す程、成績は良い方なのだろう。
 「志望校、まだ決まって無いの?」
 「うん。幾つか候補はあるんだけど、どこにするかはまだね」
 岩崎は、経済学部を志望していると言う。


 「理子はやっぱり、文学部?」
 「うん。それしか無いでしょう」
 そんな二人の会話に、渕田は珍しく口を挟んではこなかった。
渕田は私立の中堅どころを志望しているらしく、今回の補習クラス
は対象外と言って良い。
 「だけど、ハードルが高いよね。偏差値60以上だなんて。う
ちの学校じゃ、少ないんじゃないのかな」
 岩崎の言葉も尤もだ。のんびりした校風で、生徒達も受験希望者
は圧倒的に多いが、どこかへ入れればそれで良い的な意識の者が
多かった。学校自体、偏差値55の高校なので、浪人する事も最初
から視野に入っている生徒が多く、何としても現役で、という
意識は低かった。
 だが、今年の3年生は少し違った。増山が去年赴任してきたのが
きっかけで、受験に対する意識が高まったのだ。特に、昨年度、
増山が担任したクラスの生徒達の多くが進学に熱心になった。
今年の増山のクラスの生徒達も同じだ。周囲はそれに刺激されだした。
これまでだったら、偏差値60以上の大学を狙う生徒なんて、ほんの
一握りで、こんな補習クラスを作ったところで、参加者がいるか
どうか怪しいくらいだったのだ。
 「多くはないと思うけど、それなりにいるんじゃない?
こんなチャンスないし」
 「でも、うちの先生達だよ。期待できる?」
 「東大の増山先生がいるじゃない。増山先生が中心らしいから、
私は結構、期待できると思うけど?」
 増山の事を話すのに、ちょっとドキドキした。こんな風に、
増山の事を話題にするのは、付き合い始めてからは、初めての事だ。
理子の言葉に岩崎は考え込んでいた。
 翌火曜日、約100人の生徒が集まった。二クラス強の人数だから、
二割ちょっとが希望してきた事になる。これまでと比べたら、
かなりの数と言えた。
 理子はこの数に驚いた。この人数の生徒を、増山が指導しなければ
ならないからだ。かなりの負担ではないか?参加者の中には枝本も
茂木も耕介もいた。偏差値60以上と言うことなので、私立組が多い。
 圧倒的に男子が多く、女子は少なかった。元々朝霧は女子が全体の
3分の1しかいないから仕方が無い。増山が責任者だから、それを
目当てにもう少し女子が多いと思ったが、さすがにハードルが
高いのかもしれない。
 クラスはまず、国立と私立に分けられた。3割が国立で、7割が
私立だった。国立は増山が担当し、私立は熊田が担当する事になっていた。
 国立組には、枝本達歴研のメンバーは小泉しかいなかった。他には
あまり見知った顔は無かったが、岩崎がいた事には驚いた。偏差値
60以上の国立となると、関東圏内では数が限られてくるから、
志望校の予測が大体ついてしまう。理子はお茶大辺りを狙っている
のだろうと思われるかもしれないが、具体的な事は言わない事にした。
お茶大には比較歴史学という学科があって、ここの内容も理子には
惹かれるものがある。
 補習クラスでは、最初に個々のアドバイスと課題表が配布され、
これからの勉強のスケジュールもたてられていた。これだけの事を、
週末に増山はこなしたのである。大変だったろう。
 連休は、ほのぼのとした暖かいムードのままで終わった。増山は
約束通りに理子を抱かなかった。楽しい時間がゆったりと流れ、
理子の気持ちは落ち着いた。おかげで翌日の中間テストは集中して
取り組めた。時々、二人で過ごした時間を思い出すのだが、その度に
心が暖かくなった。
 学校に来て、増山の顔を見ると別人のようだ。いつも、その
ギャップに戸惑いを覚える。この人は、どうして学校ではこうも
クールなんだろう。凄く大人っぽくて、遠い人のように思えてならない。
学校へ来る度に、自分達の関係が夢の中の出来ごとのように思えて
しまうのだった。
 だが、二人してポーカーフェイスでいながら、時々僅か一瞬だが
視線が絡み合う。互いに気にしていないようで気にしているからだ。
その一瞬の視線の中に、理子は増山の深い愛を感じるのだった。
ずっとクールを保っていながら、その一瞬だけ瞳が優しくなる。
そして理子は、その瞬間に、二人の関係は夢ではないのだと実感した。
 渡されたプリントには、氏名は記載されているが、志望校に
ついては書かれていない。情報が外部に漏れない為だろう。理子は
自分のプリントの内容を確認した。かなり、事細かく書かれている。
特に注目したのが、課題表だ。今週の課題、となっていた。どうやら
一週間単位で課題が出されるらしい。その課題表の中で特に濃い内容
だったのが数学だった。連休中はリフレッシュと言われたが、明けて
みると、新しい課題の内容はハードだった。
 増山は、これからの勉強方法について一通り説明を終えると、
理子にだけ、これから石坂先生の所へ行くようにと言った。その
言葉に驚きながらも、理子は席を立ち、職員室へと向かった。
 久しぶりに会う石坂先生は、爽やかな顔をしていた。
 「やぁ、来たね。連休中はリフレッシュできたかい?」
 「はい、お陰さまで」
 「どこかへ、出かけたのかい?」
 その質問にドキっとした。
 「出かけたり、家で過ごしたり、色々ですが、のんびり
できたと思います」
 「そうかい。それでも、テストはしっかりできていたから、
感心したよ」
 「えっ?本当ですか?」
 数学の中間テストはまだ手元に戻ってきていない。
 「本当だよ。もう、学校での学習に関しては、あまり問題は
無さそうだね」
 石坂は、そう言って笑った。
 「ところで、増山先生から課題表は貰ってるね?」
 「はい。中を見て驚きました」
 「ははは、そうかい。まぁ、それについて、色々説明したくてね。
それで、こっちへ来てくれるよう、増山先生に頼んでおいたんだ」
 「そうだったんですか。私だけ呼ばれたので、不思議に思ったんです」
 「それは、悪かったね。まぁこれからは、僕も補習クラスで数学
の指導をするから、君にだけ掛りきりにはなれないんだが、君の
場合は特別だからね。東大は他の大学とは出題の仕方が違うから、
その対策が必要だ」
 東大の場合、二次試験はどの科目も応用的な内容で設問数が
少なく、解答も論理的に書く必要があり、論理的思考を要求される。
数学の場合も、論理的思考から導き出された解答を正確に記して
いかなければならないのだが、設問数が少なくてもレベルが高いので、
最初から最後までの正しい道乗りを導き出すのに時間がかかるのだった。
だから、最後まで解答を書けずに時間切れとなってしまう場合も少なくない。
 だが、考えながらより多くの量を書くよりは、正しく導いた通りに
書いている途中で書ききれなくなってしまった方が、得点が取れる
確率が高いという面もあるのが、ここの特徴でもあるのだ。だから、
まずは正しい解答を導き出す事に重点を置く。それと、発想の転換だ。
その為に必要と思われる基本的な事を、石坂は今回の課題に
盛り込んだのだった。
 「今週の課題となってるけど、ここは非常に大事な所なので、
今月一杯はここに時間をかける事になると思うから、まぁ、焦らず
にね。わからない所は、これまでのように聞きにきて下さい」
 3年になってクラスは文系と理系に別れた。文系クラスは
数3を履修しなくても良いのだが、理子は増山の勧めで数3を
履修した。国立受験でも、基本的には数2までをしっかり把握して
いれば問題は無いのだが、東大の数学の場合、論理的思考が更に
求められる。数2まででも不足はないが、更に展開した数3を勉強
しておくと、高度な論理展開をする為に楽になるのである。
文系だから、数学が苦手な受験生の方が圧倒的に多い。その中で、
確実に数学で点を稼ぐ事は、合格への近道でもある。
 いよいよ、本格的になってきた感じだ。こうして学校全体が
受験ムードになってくると、気持ちも引きしまってくる。より覚悟が
必要だと感じるのだった。

 休み時間に岩崎と話していて、理子は岩崎の頬にエクボが
出来たのを見た。そうだ。岩崎もエクボのある男だった。岩崎も
色の白い男だ。その白さは、白粉(おしろい)をつけたように白い。
こういう男も珍しい。肌は少々乾燥している感じがするので、
尚更、粉を付けているのではないかと思えてしまう。
 増山は学校では滅多に笑わないので、彼の頬にエクボができる
のは誰も知らないだろう。だから理子も学校では、あのチャーミング
なエクボを見る事ができない。その変わりと言ってはなんだが、
岩崎のエクボを見るのは楽しかった。その理子の視線を感じたのか、
岩崎は自分の頬に手をやった。
 「なんか、付いてる?」
 「えっ?あっ、ううん。エクボができるんだなぁと思って」
 理子の言葉に、岩崎は照れ笑いをした。
 「僕さ、何が嫌って、エクボなんだよな~。今時さ、女の子だって、
そういないじゃない?」
 「やっぱり、気になるものなの?」
 「そりゃぁ、気になるよ。なんか、恥ずかしいしさ」
 そう言って笑った顔に、再びエクボが浮かんだ。やっぱり、エクボが
出来ると可愛い印象を与える。さすがに、岩崎に突かせてくれとは言えない。
 その日の昼休み、理子はゆきを誘って、中庭に出た。最近、忙しくて
部活にも出ていない理子だった。
 「ゆきちゃん、連休中はどうしてた?」
 理子の問いに、ゆきは少し微笑んだが寂しげな表情は拭(ぬぐ)えない。
 「家でのんびり過ごしてた。中間テストの勉強をしながら・・・」
 「小泉君は?」
 「テストと受験の勉強があるから会えないって言われて」
 「連休明けてから、会った?」
 「うん。テストが終わった日に一緒に帰ったけど、その後は・・・」
 「そっか。何か言ってた?」
 「あんまり会えなくてごめんね、って。多分これからは、
もっと会えないって」
 ゆきはとても悲しそうだった。
 「それで、ゆきちゃんは?」
 「あたしは・・・、ちょっと寂しいけどしょうがないねって。
それしか言えないもん」
 確かにそうだろう。それ以外に言いようもない。
 「私さ。連休中に、枝本君に会ったの」
 理子は、ゆきにそう言った。
 「えっ?どうして枝本君と?」
 「ゆきちゃんと小泉君の事でね。枝本君、小泉君の家へ行ったから、
色々話しを聞いてきたんだって」
 「ええ?そうなの?あたしは何も聞いてないよ」
 ゆきが不信そうな顔をした。相談した本人だから、そう思うのも
仕方が無い。
 「なんかね。どう伝えたらいいのかわからなくて、まずは私に、って
思ったみたいよ」
 「それで、何て言ってたの?」
 「うん。ゆきちゃんの事は変わらずに好きなんだけど、とにかく
今は受験の事が気になって、ゆきちゃんの事まで思いやる余裕が
無いらしいって枝本君は言ってた」 
 「なら、それをどうして、枝本君はあたしに言ってくれないの?」
 「変な言い方をして、逆に傷つけてしまったら困るから、どう
思うか私に意見を求めて来たの」
 「そんなの・・・」
 と、ゆきは、まだ納得できないような顔をした。
 「枝本君の言う事、私は理解できたよ。だって、男の子と
女の子って感じ方が違うもの。同じ事でも、言い方によって受け
止め方も変わってくるでしょ?特に今のゆきちゃんは、凄く
デリケートだからさ。些細な事で傷つけてしまっても悪いからって、
随分気を使ってたよ」
 「そうなんだ。・・・それで、小泉君の気持ちって、結局どう
なのかな?私、嫌われ始めてるんじゃないのかな?」
 ゆきの物凄い不安感が理子に伝わって来た。その思いに、
胸が痛くなる。
 「嫌いなわけ無いじゃない。好きな気持ちは今でも変わらない
みたいよ。ただ、受験が迫ってきたじゃない?受験以外の事を
考えてる余裕が無くなってきちゃったんだよ。だって、会ったり
すれば、やっぱり相手の事を第一に考えてあげなきゃ悪いじゃない。
でも、その余裕が無いとなると、やっぱり会うのも辛いでしょ?
ついつい、気もそぞろになっちゃうだろうしさ。だから、受験が
終わるまで、少し距離を置きたいって言うのは、枝本君にもよく
わかるんだって。でも、女の子はどうなんだろう?って心配もしてた」
 ゆきは、少し涙ぐんでいた。その様子に、理子も困惑した。
 「ゆきちゃんはさ。どうしたいの?小泉君が大変な状況にいるのに、
それでも今まで通りに付き合って欲しいって思ってるの?」
 ゆきは、理子の言葉には答えずに、涙をポロポロと流し始めた。
理子は仕方なく、そっとゆきの肩を抱いた。こんな調子では、
小泉君が重たいと感じると言うのも無理はないかもしれない。
 「理子ちゃんは、どうなの?理子ちゃんは彼とどうしてるの?」
 ゆきは泣きながら質問してきた。
 「私も葛藤してる。でも、私も小泉君と同じ立場にいるから、
小泉君の言う事は理解できるの。理解はできるけど、気持ちが
追いついてはいかないから、そこに葛藤が生まれるんだけどね」
 「彼の方は?理解があるの?」
 「彼も、頭では理解してる。物凄くね。でも、感情の方がね。
ただ、最近は何か吹っ切れたような感じがするかなぁ。妙に落ち
着いちゃってるように見えるんだ」
 そうだ。先生は吹っ切れてしまっているみたいだ。
 「私も、理子ちゃんの彼のように、吹っ切れたらな・・・」
 「ゆきちゃんさぁ。ゆきちゃん自身も受験生じゃない。二人して
二人の世界に浸ってたら、その結果がどうなるのかは、わかるでしょ?
本当に好きなら、我慢しなきゃならない時には我慢しないと。
それを乗り越えるのも、また愛だと思うけど」
 「理子ちゃんは、強いんだね」
 「強くなんかないよ。私だって、どんなに流されたいと思ったか。
だって、その方がずっと楽だもん。私の場合なんか、相手は大人
なんだから、無理して受験しなくてもお嫁さんにして貰うって手も
あるわけだし。でも、そんな私を好きになってくれたんじゃないのが、
わかってるから。小泉君なんか、男なんだよ?これからの人生が、
この受験にかかってるのに、それを邪魔するの?それが、
ゆきちゃんの愛なの?」
 理子は、いつの間にか小泉の味方になってしまっている事に気付いた。
非常に不本意だった。小泉がゆきへの愛を大事にしている上での
事だったら、全面的に小泉を応援するが、枝本の話しを聞く
限りそうとは思えない。
 「理子ちゃん、ごめんね。なんか、あたし、酷い事言っちゃったの
かな。折角理子ちゃんが、あたしの為を思って言ってくれてるのに」
 ゆきは涙を拭いながら、そう言った。
 「ううん。ゆきちゃんの気持ちは、とってもよくわかるから。
今は時期が悪いだけなんだよ。そういう時って、これからも
いっぱいあると思うよ。でも、それを乗り越えながら少しずつ強く
なってくんじゃないのかな。だから、今は辛くとも頑張るしかない
じゃない。ね?・・・でも、今は泣きたいだけ、泣いてもいいよ」
 「ありがとう、理子ちゃん」
 ゆきはそう言うと、理子の腕の中で思いきり泣いた。

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