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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 24

2011.04.26  *Edit 

 晴香の葬儀は滞りなく終わった。
 暮れも押し詰まっており、また皇太子ご誕生の祝賀ムードもあり、
ひっそりとしめやかに行われた。華陽院家の正室の葬儀にしては
寂しいものだったが、仕方が無い。
 寛は通夜の間は、ずっと声を押し殺しながら泣いていた。
亡くなってから片時も傍を離れず、果たして眠れているのだろうか、
真っ赤な目をし、その下には隈がくっきりと付いていた。
誰が話しかけても全く反応が無い。
 その様は、見る物の胸を強く締め付けた。寛がどれだけ晴香を
愛していたか、その強引な手段で婚姻へと持ち込んだ過程で既に
誰もが承知していた事ではあったが、寝食も忘れて深く
嘆いている様に改めてその想いを知らしめるのだった。
 最後の別れの時、棺の中で静かに眠る晴香を見て、文緒は慟哭した。
あまりにも美しい顔は、まるで眠っているようで、幸せな夢を
見ている寝姿そのままだった。ちょっと揺すれば目を覚ましそうな
様子は、とても死んでいるとは思えない。それだけに、一層、
胸の奥から様々な思いが込み上げて来くるのだった。
 それは誰もが同じだったようで、見る者見る者、みんなが判を
押したように嗚咽を洩らした。
 そして、斎場で棺を火葬炉へと入れる時、寛は棺に取りすがって
号泣した。
「いやだっ、焼かないでくれぇ」
 必死にそう叫びながら棺に張りつく寛を、父親を始めとする
何人かの男の手で引きはがす。
 あまりにも哀れな姿だった。
 火葬後に出て来た骨は、細く脆かった。栄養不足だったのが
よく分かる。そして小さな骨壷に納まった晴香は、寛の広い
胸の中にすっぽりと抱かれた。寛は深い悲しみに覆われながらも、
愛しい者をその手で抱くように、ほんの少しだけ口許に笑みを
浮かべて、優しく両手でくるむように抱きしめていた。
 落ちるのが早い冬の陽は、火葬場を後にした時には既に
海の方へと落ちかけていて、水面に淡く反射していた。
その様子が蜻蛉のような人生を終えた晴香と良く似ているような
気がして、文緒の心に深く焼きついた。
 沈んだ太陽は翌朝再び顔を出す。生の喜びに輝くように。
晴香も再び、どこかで新たな生を授かるのだろうか。輪廻を
信じるなら、次は健康で幸せな人生を送って欲しいと願わずには
いられない。
 華陽院の家へ戻り、仏壇の経机の上に骨壷、位牌、遺影を置く。
大殿が線香に火を点けて、香炉に立てると、小さく鐘を鳴らして
手を合わせた。そうして、順番に人々が同じように手を合わせた。
 最後に、文緒は樹と共に手を合わせた。そうして、文緒は樹を
促す。樹は小さく頷くと、たどたどしい足取りで寛の傍へ近寄ると、
「ちー、ちー、うー、えー」と声を掛けた。
 文緒は自分の最後の仕事と思い、寛を慰める気持ちも重なって
樹に「父上」と言えるように練習させたのだった。
 樹は文緒の教えに素直に従い、一生懸命練習した。
「上」は既に「母上」で習得している。だから「父」だけを
習得すれば良い訳だが、これが思いの外難しかった。「てぃ」
もしくは「つぃ」となりがちで、なかなか「ち」の音がはっきりと
言えない。た行の中で一番難しい音のようだ。
 そうして、やっと言えるようになった樹に対し、寛は冷たい
一瞥をくれただけで応えなかった。
 相手の反応に戸惑いを覚えたのか、樹は振り向いて文緒の方を
見た。そんな樹に文緒は優しく頷く。
 若君、大丈夫ですよ。もう一度……。
 そんな思いを込めて微笑むと、樹も微かに笑みを浮かべて頷いた。
そして、意を決したように、再び「ちーちーうーえー」と、
今度は前よりもはっきりとした声で呼びかけた。
 言葉が遅く、また足取りも悪い樹が、そうやって父に
呼びかけている様を見て、その場にいた者たちは皆驚いていた。
驚愕の表情の中に、一縷の喜色がどの顔にも浮かんでいる。
樹の成長を各々なりに心配していたのだろう。
 母を失なくした、障害を持つ哀れな子供ではあるが、こうして
成長している様に曙光が射したような場の雰囲気を、
寛が一挙に冷たくした。
 懸命に自分を呼ぶ我が子を、思いきり突き飛ばしたのだった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

そうですよね~。
ネタバレになるかもしれませんが、
寛はどこまでいっても、寛のまんまでございます。
一生、変わらないのでございます……

NoTitle 

が~~ん。

最悪~、寛。馬に蹴られてしまえ~~。><
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