ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第1部 <完>
第1章 花が咲く~第8章 刻印


クロスステッチ 第1部第1章花が咲く 第5回

2010.02.18  *Edit 


 新学期が始まって間もなく、合唱部の部活がスタートした。
 理子は中学の時から合唱をやっている。小さい時から音楽が
大好きで、勉強が出来なかった小学生の時でも音楽だけは得意だった。
 合唱部員は人数が少なく、全校生徒約1200人の中で僅かに
20余人しかい。そのなせいなのか、合唱部の練習場所は音楽準備室だ。
隣の音楽室は吹奏楽部が使っている。音楽室は防音にはなってはいるが、
吹奏楽のボリュームには矢張り勝てず、どうしても音が聞こえてくる。
合唱部はそれを背景に練習しているのだった。
 ただ、合唱部は基本的に毎日練習だが、吹奏楽部は月水金だ。
火曜と木曜はいない。今日は水曜日だったので、吹奏楽と重なっていた。
 練習終了後、一人で残って少しピアノを弾きながら歌を歌っていたら、
隣の音楽室から人が入ってきた。見たらそれは増山だった。
 理子は驚いた。増山も驚いている。
 「あれ?先生なんで?」
 増山は手に譜面台を持っていた。片づけに来たらしい。


 「なんでって、片付けに来たんだけど・・・」
 「えっ?だから、どうして?」
 理子には状況がいま一つ飲み込めない。何故増山が譜面台を
片づけに来ているのか?
 「どうしてって、使ったら片付ける。当然だろうが」
 理子は「ふぅーっ」と大きく息をついた。そんなの、わかってる。
 「お前こそ、何でここにいる?何してるんだ?」
 逆に問われてしまった。
 「先生、先に質問したのは、私ですよー」
 と理子が不服そうに言うと、
 「教師の方に質問する権利がある」
 と、増山が偉そうに言った。姿かたちは美しいが、態度には
問題がありそうだ。
 そんな増山に何となく理子は反発を覚えて、質問には答えずに
増山を軽く睨んだ。やっぱりイケメンって性格悪いのかも。
 「なんで、質問に答えないんだ?お前、態度悪いぞ」
 増山も怖い顔をしてきた。
 「さっきから、お前、お前って、いくら先生でも酷くないですか?」
 「悪かったな。これが俺なんで。確かお前は、吉住理子、
だったな。じゃぁ、理子。改めて聞く。ここで何をしていたんだ?」
 なんで「お前」からいきなり「理子」になるんだぁ?
 なんだか理子は釈然としない。だが、ここでいつまでも、不毛な
やり取りをしていても仕方がない。
 「理子わぁ~、合唱部員なんですぅ~。歌が大好きなのでぇ~、
練習終わった後ぉ~、ちょこっと弾き語りしてたんですぅー」
 あまりに癪に障ったため、素直に答えるのが嫌で、わざと可愛い子
ブリっこ風に大袈裟に言ってやったら、これが思いのほか、ウケた。
 「バカか、お前っ!」
 と言って、増山は大爆笑した。
 今度はバカ呼ばわりだ。素敵な先生と思っていたが、むかついた。
だが、いつも澄ましている増山の爆笑した顔は新鮮ではあった。
 「それで先生はどうして譜面台を片づけてるんですか?
使ったのはわかりましたけど、どうしてなんです?」
 いつまでも馬鹿笑いしている増山に、今度は理子が問いかけた。
 「はははっ・・・、お前の言い方、超面白い。理子って見かけに
よらず面白いヤツなんだな」
 「あのぉー、答えになってないんですけど」
 「ああ、そうだったな。吹奏楽部の顧問になったんでな。
練習が終わったから片づけに来た」
 まだ笑いながら、増山は答えた。その笑顔が妙に可愛らしく見えた。
 「先生が吹奏楽部?」
 増山だったら軽音楽部の方が合ってそうに思える。
 「これでも一応、フルートをやるんだぜ」
 増山がニヤっと笑った。
 「へぇー、意外・・・」
 思わず口について出た。
 「何が意外だ」
 増山はちょっと憮然とした。
 「いえ、先生の雰囲気からいくと、ギターとか似あいそうなんで」
 「まぁ、よく言われる。ギターは好きだから、家ではよく弾いてる」
 「やっぱり、ギター弾くんだ」
 矢張り人は見かけによるものか。
 「あっ、これ内緒ね」
 と増山が言った。
 「どうしてですか?」
 「あんまり、プライベートな事は知られたくない」
 「なら最初から言わなきゃいいのに」
 「そりゃ、そうだ。つい喋ってしまった。理子があんまり可笑しかったから」
 と、増山は笑った。
 こんな笑顔、みんなが見たら悩殺ものだろう。ちょっとドキドキした。
 「ところで弾き語りをしていたって言ってたな」
 急な増山の問いかけに、理子はうろたえた。
 「はい、まぁ・・・」
 「何を弾き語ってたんだ?」
 「えっ?それは・・・秘密です」
 「なんだよ、ケチだなぁ」
 「ケチって、自分だって、秘密主義じゃないですかぁ」
 「俺のどこが」
 どこが、って、さっき内緒って言ってたではないか。
 「聞いてますよ。女子に色々聞かれても、全く答えないって」
 「それは、くだらないことばかり聞いてくるからだ」
 「くだらない事ですか」
 「くだらないだろう?身長とか誕生日とか。そんなの知ってどうすんだ。
意味がない」
 「先生には意味がなくても、みんなにはあるのかも」
 「どんな意味だ?」
 問いかけてきた増山の目に、理子はドキッとした。妙に色気を感じる。
 「さぁ・・・、私には・・・」
 「お前にもわからないんだろう?」
 「まぁ、先生は人気者だから。女の子は好きな人の、そういう
パーソナルデータを知りたいものなんですよ」
 「俺は女の子じゃないから、そういうのはわからないな」
 増山は真面目な顔で言った。
 「まぁ、いいじゃないですか。そのくらい教えてあげても。
くだらない事なら、教えたってどうって事ないじゃないですか」
 理子の言葉に、「いやだね」と増山はにべもなく答えた。
 「先生って、結構、意地悪なんですね」
 「そうだな。俺は女には冷たい方だな」
 まさか、肯定されるとは。
 「まさか、ゲイですか?」
 女には冷たいと言われたら、こう考えてもおかしくはないだろう。
 「馬鹿言え。俺は正常だ」
 睨まれてしまった。
 不思議な人。
 増山と話して感じた印象だった。
 「そうですか。すいません、変な事を言って。じゃぁ、私、帰ります」
 「なんだ、弾き語っていかないのか」
 残念そうに言われて、不思議だった。
 「もう、充分です。失礼しまーす」
 理子はそう言うと、そそくさと音楽準備室を後にした。思えば長く
話してしまったものだった。今更ながらに、二人きりで話していたことに
ドキドキしてくる理子だった。

 増山とは、その後も時々部活の時に顔を合わせた。
 増山が顧問になった吹奏楽部は活気づいていた。入部希望者も増えて
大所帯である。合唱部の方は相変わらず少なめだ。盛んな学校も
あるのになぁ~と、他校が羨ましくなる。
 ゴールデンウィークが終わると、朝霧高校は中間テストに入る。だから
ゴールデンウィークをあまりのんびりとは過ごせない。去年はそれで失敗した。
得意な文系はまだ良かったが、理数系は最悪だった。今回は気を
つけなければと思い、頑張って勉強した。
 中間テストは二日間、午前と午後に渡って行われるので、結構ハードだ。
一日で4科目やる。だから一夜漬けは厳しい。
 そして中間テストが終わると、個人面談がある。朝霧高校は2年時は
1学期の中間テストの後に個人面談があって、そこでこれからの学習の
方向性を担任と話し合う事になっている。次の面談は12月の期末の後で、
保護者も含めた三者面談だ。この時には次年度に向けての方向性や
対策を話し合うのだった。
 個人面談は毎日8、9人で5日間に渡って行われる。下校時間は
13時45分で、14時から17時頃までである。基本的には
出席番号順だが、帰宅部は優先的に早い時間に行われる。
 理子は最終日の一番最後の時間だった。火曜日なので、茶道部の
練習日と重なった。
 テストの方は翌日から、徐々に返され始めた。 一番早かったのは、
現国だった。
 現国は前川と言う、50前後の眼鏡をかけた男性教諭で、
言葉づかいがとても丁寧だった。
 「今回のテストは、平均点は70点。あまり良くありませんねぇ。
90点以上が5人。そのうちの一人が満点です」
 おおぉ~!と、前川の言葉にどよめきが湧いた。
 「では、上位五名から返します。後の人はランダムだから安心して
下さい。まずはえーと、トップの満点から。・・・吉住さん」
 ええぇ~?と理子自身も驚いた。
 自信はあったが、満点を取れるとは思っていなかった。
 「すげぇ~」と耕介が振り向いた。
 「二位は、茂木君。97点。惜しかったですねぇ」
 へぇー、茂木君凄い、と理子は思った。現国の上位5人で、男子は
茂木だけだった。国語は女子の方が得意者が多い科目だけに、茂木の
97点は凄いと思った。
 この後、テストは次々と返されてゆく。
 理子は、他にリーダーと日本史で、矢張り満点を取った。後は、グラマー、
古文、漢文、が90点前後、数2と物理が70点前後、化学に至っては、
60点だった。文系に比べて、なんと理数系の酷いことか。
 中学の時には、数学も理科も良い方だったのになぁ~、と不思議に思う。
どうしてこんなに、わからなくなってしまったのだろう?
 「理子は、文系、凄いよなぁ」
 と耕介が言った。
 耕介だって、文系は結構、上位に入っていた。しかも、理系も
まずまずだ。羨ましい。
 「そんなことないよ。まぁ、好きだからかなぁ。でも理数系があまりに
酷いから、国立を受験するのは厳しいかも。そういう点では、耕介の
方が明るいじゃん?」
 「な、何言ってるんだよ。まだまだこれからじゃんか。俺だって、
理数系は苦手だしな」
 隣の席のゆきが言った。
 「理子ちゃんは、やっぱり国立狙ってるの?」
 「うーん、まぁ、入れれば、って感じかなぁ。今のところ、
どの科目へ進学するかも決まってないし」
 理子の返事に耕介が驚いた。
 「おいおい、歴史じゃねーのかよー」
 「うーん・・・」
 悩むところだった。確かに歴史は大好きなのだが・・・。
 「そう言う耕介は、歴史なの?」
 「決まってるだろ。他にねーよ、俺は」
 はっきりそう言えるのが羨ましい。
 「ゆきちゃんは?」
 「あたしは、短大かなぁ」
 「短大なの?」
 できれば、大学も同じ所へ行きたいと思っていたのに。
 「あたしは幼稚園の先生になりたいから。短大でも免許を
取れるじゃない?」
 そう言えば、去年のうちから、幼稚園の先生に憧れていると
話していたのを思い出した。
 やっぱり、目標が明確になっている人は羨ましい。迷わずに
それを目指している。
 「美輝ちゃんは?」
 と、美輝に声をかけたら、美輝は地方公務員の試験を受ける
との答えが返ってきた。進学、しないんだ。でも、目標は矢張り明確だ。
 茂木や小泉も、それぞれに明確な進路を決めていた。
 意外だったのが、小泉だった。
 「お前、理数系かよ」
 と耕介が驚いて言った。
 確かに小泉は理数系が得意だった。このメンバーの中では一番である。
 「まぁ、歴史は大好きだけど、先の事を考えるとね。得意な理数を
生かして、将来の就職へ繋ぐつもりなんだ」
 と、普段わりと口数の少ない小泉が言った。えらく現実的だ。
 「就職かぁ~」
 いつになく、耕介がしんみりした感じで言った。
 そう。就職だ。就職の事を考えると、歴史へ進んだ先の事を
考えてしまう。国語にしても同じだ。一時期理子は英文科へ進もうかと
思っていた時期もあった。洋楽好きな為だ。それに、英語ができれば、
あらゆる分野での道が開けそうに思えた。だがその思いも、1年の
終わり頃には終息していった。英語の学習に限界を感じるようになった為だ。
その限界を打ち破る程の情熱も湧いてこなかった。
 多くの高校生が、大学進学後の道なんて決まっていないだろう。
取りあえず大学へ行って、先の事はそれから考えようと言うのが一般的だと
思う。道は沢山あるようだが、実はそんなに無いようにも思える。
進む道が明確になれば、もっと勉強へも打ち込める気がする。
 まだ2年が始まって間もないが、こんなことで良いのだろうか?
漠然とした不安を覚えるのだった。

スポンサーサイト


*Edit TB(0) | CO(2)

~ Comment ~

Re: NoTitle 

コメント、ありがとうございます。いつも柳一さんの作品も楽しませて頂いてます。
日本史のゼミに所属されてるなんて、羨ましい!
私は大学は教育学部だったので、歴史好きでありながら
深く追求できずにおりました・・・。

明智光秀と高杉晋作、いいですね。昔は明智には興味無かったんですが、
近年、非常に興味が湧く存在です。
あと、私は幕末は尊皇派は好きじゃないんですが、その中で唯一
好きなのが高杉晋作なのです。
才能高い人ほど、早死にしちゃって残念って思う代表ですね。

NoTitle 

 こんにちは、再びお邪魔します。
 学園物は私も書いたことがあるんですが、私のは普通に男子生徒と女子生徒の恋愛だったので、教師と生徒というのは読んでいていろいろ面白みが伝わってきます。
 ちなみに私も日本史好きです♪ 大学でも日本史のゼミに所属しています。
 好きな人物は明智光秀と高杉晋作ですねえ。

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。