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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 22 

2011.04.18  *Edit 

 昭和八年十二月二十三日、午前六時三十九分。
 皇居内の産殿にて、待望の男児が誕生した。
 第五子にして、初の皇子誕生に国民は湧いた。
 称号は「継宮(つぐのみや)」、名前は「明仁親王」。
後の平成の帝の誕生である。
 大正十三年に婚姻を結び、翌年に皇女が誕生。以来、次々と
生まれてくるのは皇女ばかり。女腹ではないのかと批難され、
側室制度の復活が本格的に検討された。だがそれを御上は拒否した。
そうして、やっと、皇子が誕生したのである。
 日本国民は一斉に沸いた。だが、当のご本人方こそ、
何よりお喜びになられたであろう。特に皇后のお喜びは
ひとしおだったに違いない。
 そんな祝福ムードに日本中が包まれたその日の晩、
二日前からひいていた風邪が悪化して肺炎を起こし、
華陽院晴香が死んだ。享年二十二歳。
 我が子から「母上」と呼ばれ、気力を振り絞って体力回復に
努めていた晴香だったが、抵抗力も免疫力も衰えていたのだろう。
呆気なく逝ってしまったのだった。
「晴香っ、晴香ぁ」
 寛は晴香の体に取りすがり、何度もその名を呼びながら
号泣した。彼は一晩中、晴香の傍で泣いていた。
 幼い時から、ずっと世話をし続けて、愛し続けた女が
こんなにも早く逝ってしまった。近親故に引き裂かれながらも、
変わらぬ愛で結ばれた二人。来し方が走馬灯のように
その脳裏によぎる。
 息のある時には、蒼ざめて眼下には隈ができていたのに、
今は健康を取り戻したように澄んだ美しい白い顔だった。
今にも目を覚ましそうな様を見ると、俄かには死んだとは
信じられない。
 美しい亡き骸と、その前で慟哭している夫。その姿は
周囲の悲しみを一層煽った。
 だが、悲しみに十分に浸る間もなく、葬儀の準備を
進めないとならない。 葬儀委員長は澪の夫の藤村裕也が
やることになった。喪主は寛だが、晴香の傍から離れず、
一言も発さない寛に変わって大殿が取り仕切った。
「若……」
 晴香の母親であり、樹にとっては祖母である佳香(よしか)が、
孫である樹を抱きしめた。最愛の娘を亡くし、残された
二歳の孫が哀れでならない。
 樹は抱かれるがままになっていた。
 母の死がまだよく分からない年齢だ。だが、周囲の様子や
空気から、大きな悲しみが伝わってくるのだろう。いつになく
大人しく神妙だった。
 祖母には抱かれるままになっていた樹だが、文緒が泣き
震えていると、まるで慰めるように抱きしめてくるのだった。
 文緒の涙を見て「ふぅ……ふぅ……」と呼びかける。
そんな時、樹の瞳には悲しみの色が浮かぶ。
 泣かないで、文緒……。
 瞳がそう訴えていた。
 若君の為にも、しっかりしなければ。
 文緒はそう思うものの、悲しみは拭えない。
 自分を取り巻く人々の動きが、まるで早回しされた映像の
ように動いているように感じられた。周囲の動きについていけない。
 お姉さま、どうして逝ってしまったの?
 それは彼女のせいではない。
 彼女だって、生きたかった筈だ。
 寛との愛だけに生きて来た晴香。弱々しくて守ってもらうだけの
存在だった彼女が、やっと我が子の苦難と相対し、文緒と共に
乗り越える決意をしたと言うのに。
 十二月の冷たい風が頬を打った。
 文緒は、はっとした。
「ふぅちゃん……、たぁちゃんをお願い……」
 瀕死の床で、晴香はすがるように文緒に言った。
「文緒」
 樹と幸也を別室で遊ばせるように女中に指示した佳香が、
その後で静かに文緒に話しかけた。
「文緒……、これからの事なんだけど、樹を我が家で
育てようと思うの。晴香の変わりに……」
「えっ?」
 思いもよらない言葉に、文緒は驚いた。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

晴香さん、亡くなってしまいましたね。
まだ若い過ぎる年齢ですし、残念です。

佳香の家で育つ事になるのか?
文緒と樹は別れるのか?
その結果は、すぐに分かる事になりますので、
それまでお待ちくださいね。

NoTitle 

晴香、すっごく心残りだったでしょうね。
やっと樹に呼んでもらえたのに。

佳香の家で育てられるということは、文緒はもう乳母ではなくなるということ?
そうだったら、悲しいですね・・・。
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