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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 21

2011.04.13  *Edit 

「ふぅちゃん……。たぁちゃんは、罪の子なの?だから……、
あんな体に生まれてきてしまったの?」
 あの日から晴香はずっと床に伏せっていた。
 樹の成長を、晴香なりにずっと心配していたのだろう。
それでも遅いながらも成長し、樹自身が懸命に頑張っている姿を
見続けてきて、きっと希望を抱いていたに違いない。
 遅くても、懸命に努力を続けていけばいつか追いつくだろう。
そう思っていたのだろうに、医者に「障害だから治らない」と
はっきりと言われ、その上、原因が自分達にあるとまで言われて、
耐えられなくなった。
 元々細かった食が更に細くなり、日々弱々しくなっていった。
「お姉さま、そんな風に思わないで?医者をしている兄は、
障害児は一定の確率で生まれてくるんだって。近親婚の弊害は
あるけれど、華陽院家はもうずっと近親婚はしてきていません。
だから、従兄妹と言っても血はそんなに濃くないって言ってます。
だから、だから、そんな風に思っては駄目」
 文緒は晴香の枕元で必死に訴えた。だが晴香は嘆くばかりだった。
「小さい時から……、ずっとあの方は私を愛してくれて……、
私もあの方をずっと慕って来ました。それが……許されない事
だったなんて……。あの子に申し訳無くて……」
 自分達の愛を神から否定された結果のように思えると訴える
晴香に、何を言っても通じないのだった。
 寛も毎日晴香の元に通って慰めるが、晴香は泣くばかりだった。
 自分を責めて衰弱していく晴香に、文緒は意を決した。
このままでは、死んでしまいかねない。そんな事は絶対に
させられない。
「若君……、母上様の為にも頑張って練習しましょうね」
 発語が遅く、まだ意味のある単語すら言うのが難しい樹に、
文緒は「母上」と言えるよう、必死に樹に指導した。
「ふぅ」と文緒の事は呼ぶのに、「は」の音を出すのは
難しいようで、「あー、あー」と、なかなか言えない。
それでも根気強く教え、樹も嫌がる事なく懸命に練習した。
 それからひと月が経った十二月の半ば。
「お姉さま、若君ですよ」
 晴香は頬がこけてやつれていた。文緒の言葉に力なく瞼を開いた。
そこだけは変わらず澄んだ美しい瞳だ。樹と同じ、薄い琥珀色の瞳。
「たぁちゃん……」
 か細い声で呟くように言うと、骨ばった手を蒲団から出した。
白魚のような美しい手だったのにと、文緒は胸が痛くなった。
「さぁ、若君……」
 文緒は樹に催促した。
 樹が文緒の方へ顔を向けた。文緒は黙って頷いた。
 樹は再び母の方へ顔を向けると、「はー、はー、うー、えー」
と言ったのだった。その瞬間、晴香の目が大きく見開かれた。
信じられないと言った顔をしている。唇が小さく震え、
文緒の顔を凝視した。
 文緒はそんな晴香に優しく微笑んで頷くと、
「若君、もう一度……、ね?」と、樹を促した。
 樹が再び「はー、はー、うー、えー」と言うと、
晴香はそんな力がまだ残っていたのかと思う程、がばりと
飛び起きて樹を抱きしめたのだった。
「たぁちゃん!」
 樹を抱きしめた体が小さく震えている。
「お姉さま……、障害とは言っても、若君はゆっくりでも、
こうして確実に成長しているんです。兄は、日々の訓練次第で
普通と変わらないくらい回復する可能性が高いって申してました。
私もそれを信じて、若君の為に頑張ってきたのです」
「ふぅちゃん……」
 涙に濡れた晴香の目に、僅かながらに希望の光が宿して
いるのを文緒は感じた。
「若君も一生懸命頑張っています。その事は、お姉さまも
お分かりでしょう?それなのに、母上であられるお姉さまが
嘆いてばかりで床に伏せっていては、若君が可哀想じゃ
ないですか。若君は母上様の為に、こうして『母上』と
言えるように毎日一生懸命頑張ったんですよ?だから、
これからも一緒に頑張って参りましょう。若君の為に。
そして愛する旦那様の為にも」
「ふぅちゃん……、ありがとう……。ごめんなさいね……。
あまりにも悲しくて、……生きる甲斐を、すべて失って
しまったように……思えて……。でも、間違ってたわね……。
ごめんなさいね、たぁちゃん……」
 晴香は樹を抱きしめたまま号泣した。
 普段なら、嫌がって文緒を求める樹が、困った顔をして
文緒の方を見た。どうやら戸惑っているらしい。こんな時に、
晴香を拒絶しない樹に文緒はホッとし、小さく笑って頷いた。
その微笑みに安堵したように、樹も小さく笑うと、小さい手を
そっと母に添えたのだった。
 矢張り樹は確実に成長している。他者の言葉や感情や
その場の空気が分かるようになってきている。
 この子の知能はちゃんと発達している。
 晴香も現状を認識した分、これまで以上に樹の力になるに
違いない。これで山は越えた。
 文緒は心の重荷が軽くなったのを感じたのだった。


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