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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 20

2011.04.08  *Edit 

「運動失調……?何です、それは」
 寛は聞き覚えの無い言葉に戸惑いを示した。
「四肢、体幹の動作の調節障害の事です。例えば簡単に言いますと、
手を伸ばす際、目的の場所へ真っすぐ伸ばす調節をしている
運動があるんです。随意運動とか協調運動とか言うのですが。
若君の場合、その機能に障害があるようです。ですから、
真っすぐ立ったり歩いたり、目的の場所へ手や指を動かせなくて、
上手に積み木が積めなかったりするのです」
「それは、治るんですか?」
 寛の声は震えていた。
「言い難い事ですが、持って生まれた機能障害なので治ると
言う事はありません。……それに若君は知能の発達にも
遅れが見られるようです」
「なんだってぇ?それは一体、どういう事なんだっ。
あんたは医者だろう。治せないのかっ!」
「い、医者と言っても万能ではありません。病気ですら
不治の病があるんですよ。ましてや生まれ持った障害です。
治せるわけがないじゃないですか」
「生まれ持った障害とはなんだっ!華陽院の跡取りを障害者扱い
するとは無礼にも程がある。我が家の歴史を見ても、障害の
ある者が生まれた記録は無い。それなのにっ……」
「旦那様、先生にそんな事をおっしゃっても……」
 晴香が寛の袖にそっと手を当てて、興奮している夫をたしなめる
ように静かに声をかけた。一見冷静そうだが、その瞳は深い
悲しみに覆われていた。
 樹が普通よりも遅れている事は晴香も分かっていた事だろう。
何と言ってもそばに幸也がいる。六カ月の差とは思えない程、
顕著な差だ。だから、指摘された事に反発を覚えるどころか、
矢張りといった気持ちが強かっただろう。だがそれでも、
はっきりと障害と言われると悲しみが湧いてくるに違いない。
早くに兄から指摘されていた文緒ですら、悲しいのだ。
「医者のくせに、無責任な事を言うからだ。結果には原因が
あるものだ。運動失調だと言うのなら、その原因を究明して
有効な治療法を見つけて施すのが医者の仕事だろう。それを
障害だから治らないなんて平然と抜かすとは」
 馬鹿にしたような態度で投げつけられた言葉に腹を立てたのか、
村田医師は憎々しげな顔になって反発した。
「障害は病気じゃない。医者が治すのは病気であって障害じゃ
ないんだ。これまで華陽院家に障害児が生まれなかったのは、
五代目が近親婚を禁じたからだ。だがあんたは、それを破った。
この子が障害を持っているのは、近親婚をしたあんた達、
親の責任なんだよっ」
「なんだとぉ?」
 寛は顔を真っ赤にさせて、怒りに全身を震わせていた。
そのそばで、晴香は真っ青な顔をしていた。
「貴様は、言うに事欠いて、何て事を抜かすんだっ!」
 立ち上がった寛は、村田医師に拳を突きだした。
「キャーッ!」
 女中が悲鳴を上げ、文緒はすかさず樹を抱き上げて
部屋の隅へ移動した。
「旦那様、やめて下さい、やめてっ……」
 晴香が涙を流しながら、寛に取りすがった。
「何をやっているんだっ!」
 騒ぎを聞きつけて、奥から父親がやってきて、寛を止めた。
「こ、こいつが……悪いんだ……、こいつがっ……」
 寛は肩で息をしながら、まだ殴り足りないと言わんばかりに
拳を強く握りしめていた。村田医師は口と鼻から血を流し、
顔は歪んでいた。
「い、い、いくら……若殿とは……言え……、こんな事……を……、
ひどいじゃ、ないか……」
「お前が、酷い事を言うからだろう!」
 再び掴みかかろうとする息子を押さえて、大殿である
父親が村田に問うた。
「先生、どういう事なんでしょう。どうして、こんな事に
なったんです」
 村田は頬を押さえながら座り直した。
「わ、若君の発達から、生まれながらの障害である事を
お伝えしました。原因を聞かれたので、近親婚の影響かも
知れないと申し上げたら、この通りで……」
「お姉さま!」
 文緒の叫びに、一同が一斉に振り返った。
 そこには、血の気の失せた晴香が倒れていた。
身に纏っている青い着物よりも、更に蒼ざめた様は
まるで死人のようだった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

まぁ寛も寛なりの思いがあったのかもしれませんね。
愛情とは別物って感じがしますが。

晴香はずっと、狭い世界しか知らなかったのです。
そして、そんな孤独を優しく埋めてくれていたのが
寛だったわけで。だから晴香にとっては、寛が
世界そのものなんですよね。
寛も、晴香にだけは優しい男なのです。愛ゆえですが。

女は子育てをしていく中で母として成長していくものですが、
病弱な彼女はそれを文緒に任せているので、母としての
成長もいまいちなのです。か弱い女性のままなのです。

物語は急転直下で大きく動きます。

Re: NoTitle>千菊丸様 

千菊丸さん♪

とうとう知ってしまいましたね。
まぁ時間の問題だったかもしれませんが。
近親婚にはリスクが付き物ですが、いとこ程度では
大丈夫との判断から婚姻できることになってますよね。
だから実際のところは、これが近親婚故なのかは
謎ということで。

千菊丸さんとは好みが似てるみたいですね。
新撰組と言い、ハプスブルクと言い。
私もハプスブルクには関心が高く、結構、関係本を読みました。
ヨーロッパは結婚で結ばれているので、王室は
みんな親戚で、血が濃い為に精神に問題のある人が
結構生まれてますよね。

NoTitle 

なんとも、寛はまるで人間ができてないですね。
晴香はこんなやつのどこが良かったのか・・・。

樹のこれからが思いやられますね。
なによりも愛情を必要とする子ですから・・・。
晴香~、倒れてる場合じゃないよ~~。
母には強くあってほしい!

でも、文緒がいるからちょっと心強いかも。

それにしても、寛、腹が立ちます~!

NoTitle 

ああ、ついに寛が息子の障碍を知ってしまったのですね。
ハプスブルク家に昔ハマっていたことがありまして、近親婚の末に精神障害を起こしたりする者もいたという記述がハプスブルク家関連の文献の中にありまして、やはり血が濃すぎるとそういうひずみが生まれるのかと・・。
樹は彼なりに懸命に生きているし、晴香も文緒も彼のことを支えているのですが、寛がどうも・・。
医師の言葉もどうかと思いますが、それに怒って殴る彼の幼さが露見したような気がいたします。
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