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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 18

2011.04.01  *Edit 

 樹は情緒不安定になると、文緒の乳を欲しがる。
出なくなっても、その乳にしゃぶりつき、必死に
心の平安を希求する。
 その晩も、樹は文緒の胸元をまさぐり吸いついた。
「わか、赤さんみたい……」
 隣に横たわっている幸也が冷やかし顔でそう言った。
 そんな我が子に微かに微笑みを返しながら、
可哀想に……と文緒は思った。
 歩けないのは樹のせいではない。勿論、文緒が甘やかした
せいでもない。本人は歩きたくて毎日一生懸命に練習を
しているのに、何故あんな仕打ちをするのか。
 父親としてもどかしい気持ちを抱く事は理解できるが、
それを幼子にぶつけても意味は無いではないか。本人を
傷つけるだけだ。
 目尻に小さな涙の粒が乗っていた。夢中になって乳を
吸っている。さぞや怖かったに違いない。そんな樹を
優しく抱きしめて頭を撫でる。
「若君……。お父上はきっと、逞しい男子に育って欲しい
気持ちが強くて、あんな事をなさったんでしょう。いつも
一緒にいるわけではないから、若君の普段の頑張る姿を
御存じないのです。でも、いずれわかって下さるに
違いありません。だって、我が子なのですから……」
 そう。いずれ分かってもらえるに違いない。遅くは
あっても、樹はちゃんと成長している。そして必死に
頑張っている。その懸命な姿に心動かされないわけがない。

 翌日、朝食を終え、一通りの仕事が済んだ頃、文緒は
幸也と樹を連れて散歩に出る事にした。夜の冷え込みが
増してきて、温暖な葉山でも樹々が色づき始めて来た。
そんな山を散策し、昨日の鬱憤を晴らすべく、三人で
思いきり遊ぼうと支度をしていたら、奥から女中がやってきた。
「あの……、旦那様がお呼びでございます」
「旦那様が?」
 嫌な感情が胸に湧いてきた。
 昨日の今日だ。樹の養育について、何か言われるのだろうか。
 子供達の方を振り返ると、二人と目が合った。
 つい今しがたまで、二人で楽しそうにじゃれていたのに、
今は神妙な顔をしている。どうやら、お楽しみはお預けに
なりそうだと悟っている様子だ。敏感な子供達に、文緒は
内心で自分に叱咤した。
 子供達に自分の不安を悟られてはならない。
「わかりました。今参ります。幸也、若君と一緒に少し
待っていてもらえるかしら?」
 努めて明るくそう言った。だが、女中は文緒の言葉を否定した。
「若君もご一緒に連れて来るように、との事です」
「えっ?」
「それから幸也坊ちゃんは、置いてくるようにと」
 一体、どういう事なのだろう?
 文緒に話しがあるのではないのか?本当の目的は、樹なのか……。
 そして文緒は、自分が寛に対して疑心暗鬼な思いを
抱いている事に気付き、そんな自分を不審に思った。
 寛は父親だ。父親として息子に逢いたいから、連れて来て
くれと言っている、と考えるのが普通ではないか。それなのに、
何故自然にそう思わないのか。
 昨日の事があったから、不安な気持ちが湧いてきた。
そうだとしても、いやだからこそ、息子に対する仕打ちを
後悔して、詫びようと思っているのかもしれないではないか。
 だがそう思えないのは、常日頃の寛の人となりが冷たいからだ。
そして、こうして呼びつけられた事が、これまで一度も
無かったからこそ、一層不安感を煽るのだ。
 息子にはまるで興味が無い。
 ずっと、そういう態度だった。
 それなのに、何故今更……。
「文緒さま……」
 促されてハッとした。
「わかりました」
 文緒は立ちあがって子供達の前へ行くと、樹を抱き上げた。
「幸也……、用事が済むまで一人で待っていられる?」
 母の問いかけに幸也は元気よく答えた。
「はい、大丈夫です。おかあさん、心配しなくても、
ぼく大丈夫だよ。ご本を読んで静かにしてるよ」
 二歳半の幸也は、藤村の家から送って来る多くの子供向けの
本が大好きで、文緒が樹の世話をしている時には夢中になって
一人で読んでいた。
 まだ文字の無い絵本だが、物語性のある物が好きで、自分で
台詞を付けては文緒や樹に聞かせてくれた。自由な発想の台詞が
面白く、それでありながら物語そのものはしっかり把握
している事に驚く。
 これが普通の二歳児の能力なのか、それとも幸也が賢いのかは
分からないが、どうやらしっかり者らしい我が子に頼もしさを
感じる。そして、母の大変さを感じ取って、心配かけまいと
幼いながらに気を使っているのだろうと思うと、感謝せずには
いられない。
「ありがとう。お母さん、幸也のお陰で凄く助かってるわ。
なるべく早く戻って来るから」
 文緒はそう言って幸也を抱き寄せて、頭を撫でた。だが、
その頭に樹が拳を下ろしたので二人とも仰天した。
「いけません、若君。殴っては駄目」
 文緒が怒ると樹は文緒の胸に顔を擦りつけた。
「わか、ずるいよ、もう!」
 幸也が自分の頭を撫でながらそう言ったが、顔は半分
笑っていた。樹が焼きもちを妬いたのに違いないと察したようだ。
 頭が良く、そして心優しい我が子に、頭が下がる思いの文緒だった。

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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

幸也の存在は、文緒にとっては非常に有難いですね。
これで、やんちゃで手のかかる子供だったら
大変だった事でしょう。
幼いながら、良い協力者であり、理解者です。

でもね。
将来、色々な確執が生じて来るのですよ……。

NoTitle 

幸也、なんて賢くていい子(T_T)e-267
こんな子が傍にいてくれてよかったね。

樹、がんばれ~。
文緒も、がんばって~~!
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