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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 17

2011.03.29  *Edit 

「生まれた時は小さかったし、その後も授乳の問題で成長が
遅いのは仕方が無い。だが、そのうちに追いついてくるだろうと
思っていたんだ。それなのに何だ、この有り様は!もう二歳に
なると言うのに、未だに立って歩けないのかっ!」
 寛の剣幕に驚いたのだろう。樹がその場で尻もちをついた。
幸也は半べそをかいている。
「若君……」
 文緒は慌てて樹を抱き起した。そこへ寛がつかつかと
近づいて来て、文緒の手から樹を奪った。
「旦那様!」
「お前が甘やかすからいけないんだっ」
 寛は冷たい目で文緒にそう言うと、樹をその場に立たせた。
「さぁ、歩くんだ!ちゃんと歩いて見せろ!」
 無茶な事を言う。
 尋常でない父親の様子に抜き差しならない物を感じたのか、
樹は意を決したように足を一歩前へ出した。だが二歩目を
出した時に、バランスを崩して転んだ。
「何やってるんだ!何故すぐ転ぶ。さぁ、また歩いてみろっ」
 寛は転んだ息子を無理やり再び立たせて、歩く事を強要した。
 瞳を金色に輝かせて、楽しそうに歩行練習をしていたのに、
すっかり瞳は怯えた色に変わり、足を震わせて立っている。
今にもすぐに転びそうな様子に、文緒が思わず手を伸ばすと、
その手を寛が叩いたのだった。
「痛いっ」
「ふぅ……!」
 樹が驚いて文緒の方へ足を踏み出した途端、転んだ。
「何かと言うと、すぐに手を出すから、こいつはいつまで経っても
一人で歩けないんだっ。女の子じゃないんだぞ。男子なんだ。
もっと厳しくしろっ!」
「でも旦那様……」
「うるさいっ!」
 険悪な空気に、幸也が声を上げて泣き出し、それに促された
ように樹も泣き出した。
「ふぅ……、ふぅ……」
 と、腹ばいのまま手を文緒の方へ伸ばしている。助けを
求めているのだろう。
「若様……」
 文緒はすぐにも助け起こしてやりたかったが、それを阻止する
ように寛が目の前に仁王立ちになり、「一人で立つんだっ!」と、
息子を叱咤した。
 だが樹は、泣きながら文緒に助けを求めるばかりで、立とうとは
しない。その様を見て寛は業を煮やしたのか、息子の元へ行くと
憤怒の形相で樹を睨みつけたのだった。
 その瞬間、樹は火がついたように泣きだした。
 樹がこんなに激しく泣くのは初めてだった。それ程の恐怖を、
父から感じ取ったのかもしれない。
「旦那様!」
 騒ぎが奥まで伝わったのだろう。
 晴香が目を剥いて入って来た。
「旦那様、何をなさってるのです。たぁちゃんに一体何を……」
 晴香は樹に駆け寄ると、泣いている樹を抱きしめた。だが樹は、
晴香の腕の中でしきりに暴れた。
「たぁちゃん、大丈夫よ、大丈夫」と晴香は抱く手に力を入れた。
「旦那様……、どうしてこんな事を……」
 晴香の瞳も涙で濡れていた。
「お、俺は、何もしていない。男の癖に一人で立って歩こうと
しない樹に、少し厳しく言っただけだ」
 寛は晴香の視線をまともに受けれずに横を向いた。
「たぁちゃんは……、毎日頑張っています。毎日、一生懸命……
歩く練習をしてるのに……」
「君は、それをおかしいと思わないのか?もう2歳にも
なると言うのに、どうしていつまでも歩けないんだ。
可愛い可愛いと、文緒が手をかけ過ぎてるからじゃないのか?」
「それは違います。文緒はどれだけたぁちゃんの為に頑張って
くれてる事か。それなのに、そんな事をおっしゃるなんて……」
 晴香の言葉に寛は苦虫を潰したような顔をした後、
「悪かった」と言って部屋を出て行った。
「ふぅちゃん、ごめんなさいね」
 済まなそうに涙を流す晴香に、文緒は首を振った。
「おかぁさん……」
 幸也が涙顔のまま、文緒に抱きついてきた。文緒は息子を
膝の上に抱いて、優しくその頭を撫でた。事の成り行きに驚き、
そして理解できずに、ただ怖い思いをしたに違いない。
文緒にも理解できなかった。
 何故、いきなり踏み込んできて怒鳴り散らし、あんな事を
したのだろう?
「ふぅ!ふぅ!」
 樹が文緒の方を見て、激しく求めていた。
 晴香はそんな息子を寂しそうな瞳で見つめた後、
立ちあがって樹を文緒の元へと連れて来た。
 樹は幸也を押しやるように文緒の胸へと飛び込んだ。
それまでの激しい泣き声から、安堵の泣き声に変わった。
 文緒は両手で二人の子供を抱きしめながら、自分の頬にも
涙が伝わっているのに初めて気付いたのだった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

酷い寛でございます……。
男親の場合、自分で産んで育てているわけではないので、
母親よりは情が薄くなるのだろうとは思いますが、
それでも寛は酷いですよね~。
ぎゃふんと言わせてやりたいものですが、どうしましょう。。。
どうしたら、ぎゃふんと言わせてやれるのか、
目下考え中…………(-"-;)

切ないと言えば、切ないです、これからも……。
お許し下さいねぇ、樹クンは、そういう星のもとに
生まれてきちゃったんですよねぇ。。。
そのせいで、澪ちゃんも……、おっと、これ以上は書けねぇや(^^)

NoTitle 

む~~~!
寛、酷過ぎる~~~。
ぎゃふんと言わせてあげたくなりますね。

でも、実際こんな考え方の父親って、いるのかもしれませんね。
子供は授かり物たって気付いてほしい。

なかなか切ない展開ですが、続きを楽しみにしています♪

Re: 嫌な父親。>千菊丸様 

千菊丸さん♪

寛は人として問題あり、なんでしょうね。
親子としての情があるのか疑わしいですし、
でも体面とか、そういうのは気にするのでしょう。
父親が息子には逞しく育って欲しいと普通に思うのとは
どう見ても違うって感じますものね。

実母とのスキンシップも増えてなついてきたとは言え、
矢張り樹にとっては、文緒が一番なのでしょう。
当然とは言え、せつないですね……。

嫌な父親。 

寛が最低すぎます。
文緒さんや晴香さんの苦労も知りもしないで・・。
母親や乳母だけに責任を押し付けるのはどうかと思うのですが。
それに息子に歩くことを無理強いさせるなんて、酷過ぎる。
戦前で華族の跡継ぎとして生まれたのだから、早く歩けないといけないと、寛は彼なりに思っているのかもしれませんが、いくらなんでもやりすぎでは?

それよりも、実の息子が実母よりも乳母になついていることを悲しそうに見つめる晴香さん、文緒さんとの関係に亀裂が入らなければいいのですが・・
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