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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 16

2011.03.25  *Edit 

 うららかな日差しの中、文緒は縁側で樹(たてる)の両手を持って、
あんよの練習をしていた。
 樹は覚束ない足取りで、だが文緒の顔を見ながら楽しそうに
歩を進めている。ふっくらとした白い可愛いほっぺたが淡く
蒸気していて、薄い瞳は金色に輝いている。
 一歳を過ぎる頃にやっと這い這いを始め、一歳半で掴まり立ちを
するようになった。文緒は這い這いを始めたころ、頻繁に樹に
這い這いをするように促した。腹這いは腕と足と腹筋を鍛えるので、
この時期に十分這い這いをさせる事は、その後の歩行に役立つと
兄から教わったからだ。
 そうしてやっと掴まり立ちをするようになり、最近は時々手を
離して一人で歩こうとするようになってきた。
 そろそろ満二歳になる。
 樹は幸也が元気に歩いたり走り回ったりしているのを見て、
自分も一緒に動き回りたいと思うのだろう。動作は遅いが
一生懸命さが伝わって来る。
 そんな樹を、最初は可笑しそうに見ていた幸也だったが、
次第に手を貸して一緒に歩く練習に付き合うようになった。
今も横で、「がんばれぇ」と声を掛けている。
 二人の月齢差は六カ月だ。幼児期では大きな差だが、最早、
樹の遅れは明らかだった。それでも確実に成長している。
ただ言葉も遅れていた。
 だが文緒は、言葉の遅れはあるものの、知能そのものの遅れは
少ないのではないかと感じている。呂律(ろれつ)が
回らなくて活舌は悪いが、こちらの言う事には大概理解を示す。
 兄の綱紀が言うには、知能の遅れが顕著な場合、なかなか
指示が通らないらしい。首の座りが遅かった為、言語中枢の
発達に少なからず影響を及ぼしているのではないか、との事だった。
 根気強く指導していけば、時間はかかるものの、通常の
会話ができるようになる可能性が高いと言われ、文緒は
焦らずに毎日丁寧に教えている。
 樹は「ふぅ……ふぅ……」と文緒を呼びながら、一生懸命
歩いている。どうにも足腰の弱さが目立ち、重心がしっかり
していない為にふらふらしている。時々くにゃつく下半身に、
文緒は握る手に力を込めるのだった。
「わか、がんばれ!」
 幸也が樹の横に立って、同じペースで歩きながら応援している。
文緒は息子に、樹の手伝いや応援を示唆した事は無い。
だが、一緒に育ったからなのだろう。何も言わなくても、
幸也は自然と樹の世話をするようになった。
 だが、過剰な世話は本人の為にならないので、そういう時には
文緒は息子に注意する。幸也は賢いようで、母の意図を
なんとなく悟って、過剰な世話は焼かずに、様子を見ながら
必要な手助けをしている。
 そんな我が子を誇らしく思う一方で、樹を不憫に感じる。
そして、自ら頑張るようになった樹の中に、強い意志を
感じるのだった。
 発語が遅く、また全体的に大人しかったから、精神面の
発達にも不安を抱いていたが、瞳や行動で意思表示を
以前よりもするようになってきた事に、文緒は大きく安堵した。
 そして、その事でコミュニケーションも増え、手応えも
感じるようになり日々の成長に幸せを感じる。
 目の前の幼子が、全権を文緒に委ね、そして文緒を
求めてくる姿に、深い愛情を感じずにはいられない。
愛しさが募って来る。
 三人が其々に懸命に頑張っているその時、突然、
部屋の襖が音を立てて開いた。
 ただならぬ空気が急激に辺りを冷たくした。陽射しは
暖かいと言うのに。
 文緒が襖の方へ顔を向けると、そこには寛が立っていた。
怒りを含んだ顔をしている。
 なぜ、そんな顔をしているのだろう。
 おまけに、体から冷気を発しているように感じられる程、
冷たいものが流れてくるのだった。
「どうしてこの子は、こんなに発達が遅いんだ!」
 寛が部屋の半ばまで歩いて来て、いきなり怒鳴るように言った。
 ねめつけるように睨まれて、文緒は竦んだ。

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~ Comment ~

Re: NoTitle>千菊丸様 

千菊丸さん♪

なんだか、いきなり不穏な空気が漂ってきましたね。
でもまぁ、こういう父親、現代でも少なくないんです。
自分ちの子供に障害がある為、そういう家庭との交流も
多いわけなのですが、子供の障害を母親のせいにする
父親や、その親、案外多くて、ただでさえ子供の事で
参ってる母親を追いこむケースが多いんです。
離婚家庭も多いです。
今回のお話は戦前ですし、家族のお家柄と言う事もあるし、
寛みたいな人、珍しくないのかも。。。
体面とかも、日本人は凄く気にしますしねぇ。
それにしても、人間的にどうなの?と疑っちゃいますよね。

NoTitle 

樹(たてる)に我が子・幸也とともに愛情を注ぐ文緒の姿と、幼いながらも樹を励ます幸也の姿に心が温かくなったんですが・・寛の所為で台無しです。

なんつーか、寛は父親の自覚がないみたいな感じがいたします。
息子の発達が遅いことで文緒を怒鳴るより、貴方は一度息子と一緒に過ごした時間があるんですか?といいたい。

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

これから物語が大きく動きます。
この先の展開にも大きな影響を与えていきます。

これ以上はお教えできないのが残念ですが、
まぁ、おいおい分かる事ではあるので……。
おたのしみに(^^)

NoTitle 

な、なんだなんだ、寛~~!

頑張れ、がんばれ、っていう、温かい空気をぶち壊す、招かれざる客。
この男だけ、何を考えてるかわかりませんね。
怖い・・・。
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