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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 15

2011.03.20  *Edit 

 あの晩から、寛は頻繁に晴香の許に通うようになった。
 夫婦なのだから、就寝時間から一緒にいても良さそうな
ものなのに、何故か深夜に忍んでくる。そして、明け方、
矢張りひと目を盗むようにして戻って行くのだった。
 二人が結婚する前の経緯を、文緒は夫から聞いている。
 その時の習慣が抜けないのだろうか。
 寛が晴香の元へ通い出すようになった最初のうちは、
文緒は忍び来る気配に敏感に反応し、睡眠の妨げになって
困っていたが、そのうちに馴れて来て目を覚まさなくなった。
 だが、子供達の朝食を終えて、挨拶しに晴香の元へ行くと、
寛が来た名残をはっきりと感じるのだった。
 寛はいつも明け方に自室へ帰って行く。夫婦であり、
同じ家に住んでいながら、まるで平安時代の恋人たちのように
別れを忍んだ様がありありと窺われた。
 寝不足そうな腫れぼったい眼をし、寝衣の胸元が僅かに乱れ、
薄い瞳は夢見るようで僅かに頬を染めていた。そんな姿を
見るにつけ、文緒は恥ずかしい思いが湧いてくる。
 寛が通って来るようになってから、寝不足なのだろう、
晴香は昼間伏せっている事が増え、樹との時間が減った。
それでも文緒はできるだけ母子のスキンシップを図るべく、
まめに樹と共に晴香の部屋へ行き、樹の昼寝の時には、
晴香の布団で寝かすようにした。
 だが樹は、文緒の腕の中で寝付いた後、晴香の布団の中へ
入れると途端に目を覚まして文緒を求めてぐずる。
 結局、文緒はその場で添い寝し、樹は文緒と晴香に
挟まれて眠るのだった。
「たぁちゃんの文緒びいきは相変わらずね」
 微笑む晴香に文緒は恐縮する。
「すみません……」
「いいのよ。だって、ちっとも母親らしい事、してあげて
ないんだから、仕方無いでしょう?でも、大分私にも懐く
ようになってきて、それだけでも私、嬉しいの。これから
だんだん、分かって来るだろうし」
 優しげな瞳で、樹を見つめている。その頬は僅かに
蒸気していた。だが、以前より痩せて来たように感じる。
元々痩せてはいたが、この一年の間に、肉付きも少し良くなり
健康な兆しを見せていた。それなのに、再び痩せ始めた事に
文緒は危惧の念を抱いた。
「お姉さま……、ちゃんと食べてるの?」
「食べてるわ。でも、そうね……、少しだけ量が減ったかしら」
「駄目よ、しっかり食べないと。お姉さまの食が細いのは
存じてますけど、体の事を思うと……」
 心配そうに訴える文緒に、晴香はゆったりと微笑んだ。
その笑顔を見て、まるで女神さまのようだと文緒は思った。
「心配してくれて、ありがとう。自分では頑張って食べてる
つもりなのよ?でも、どうしてなのかしら。
なんだか胸が一杯で……」
「旦那様の、せい?」
 晴香の青白い頬が、桃のように淡く色づいた。
「あの方と再会した時、私はこの人に愛される為に
生まれて来たのかもしれないって思ったの。体が弱くて、
孤独だった私の唯一の慰めは、あの方の存在だった。
……だから、あの方に愛されるだけでお腹が一杯に
なっちゃうのよ。あの方の愛が、私の日々の糧なのかもしれない」
 晴香はそう言って夢見るような瞳になった。その姿は
とても幸福そうだ。だが淡くて儚げで、すぐにも消えて
しまいそうな頼りなさを同時に感じる。
 夫との愛の中でのみ生きている晴香に、言い知れぬ不安が
胸の底から湧いてくる。
 結局この人は、母である前に女であり、母には
なりきれない人なのか。だが、樹への愛情の深さも
文緒は知っている。知ってはいるが、ふと思う。
 ただ、単純に母親として自身が産んだ子を愛しく
思っていると言うのではなくて、最愛の夫の子供だから
愛しているのではないかと。
 初めてここへ来た時、必死な形相で、我が子の事を
心配していた。子供がもし亡くなるような事があったら、
晴香自身も生きてはいられない、そう感じられた。
 その後、文緒の腕の中ですくすく育ってゆく我が子の姿を、
嬉しそうに見つめていた晴香だったが、その心中を思うと
文緒は切ない思いに駆られた。だが、今よくよく思い返して
みると、自身が育てられない焦燥感などが一切感じられなかった
事に疑問が湧く。
 きっと人知れず、胸を痛めていたに違いないと思っていたが。
 いや、自分の思い過ごしだ。人の心の中までは分からない。
辛そうに見えないからと言って、辛くないんだと思うのは
間違っている。
「そこまで愛し合える方と結ばれて、お姉さまは幸せね。
でも、その旦那様の為にも、そして若君の為にも、
元気でいなきゃ。だから、もう少し食べないといけません」
「文緒ったら、お母様みたい。でも、その通りね。
お腹一杯でも、残さず食べるように頑張るわ」
 晴香は可笑しそうに笑いながらそう言うと、間もなく
眠りに落ちていった。その寝顔は、隣で可愛い寝息を
たてている樹と瓜二つだった。


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