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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 14

2011.03.17  *Edit 

 兄の綱紀から、その後詳細な対処法が書かれた手紙が届いた。
日々の生活の中における、ちょっとした運動や、日常生活の在り方、
そして積極的に摂取した方が良い飲食類。その指導に基づいて、
文緒は甲斐甲斐しく樹の世話をした。
「楽しそうな事をしてるのね?」
 文緒が樹の足を持って、色んな方向へ動かしているのを見て、
晴香が面白そうな表情を浮かべてそう言った。
「子供の発達に宜しいんですって。スキンシップも取れて
本人も大喜びだし、一石二鳥ってところでしょうか?」
 文緒は笑顔で晴香にも勧めた。
 樹の成長に問題があるかもしれない事を、文緒は晴香に
話さなかった。晴香だけではない。夫以外は誰も知らない。
裕也には、協力を仰ぐべく事情を話した。その時に、
まだ確かな事ではないから、他者には話さない方が良いだろうと
互いに話し合って決めたのだった。
 そうと知ったら、晴香はショックを受けるだろう。
文緒が来て以来、少しずつ体調を回復し、樹と共に過ごせる
時間が増えて来た。我が子を愛しげに見つめる彼女に、
不確かな事を話して不安にさせたくなかった。そのせいで、
情緒不安定になって体調を崩すかもしれない。
 父親である寛に対しても、まだ話すべきではないだろう。
動揺が晴香に伝わらないとは限らない。それに、寛の様子を
見る限り、我が子に対する情が薄いように感じられた。
話した所で一笑に付される可能性もあるのではないか。
 寛は父に従って、東京へ出る事が多い。貴族院議員である
父の議席をいずれ継ぐつもりらしい。三十歳からなので、
まだ五年程あるが、既にその根回しを始めている。
 帰って来ると、真っ先に晴香の部屋へ足を運ぶ。その時に
樹がいれば、最初のうちは抱っこしたりしていたが、
樹が嫌がる為、最近では抱かなくなった。
 樹は人見知りが激しく、文緒以外の人間を激しく拒絶する。
ただ最近は、手足の運動でスキンシップが深まって来た晴香には、
嫌がらなくなってきた。
 だが、自分が産んだわけでもなく、日常的な触れあいも
全く無い父親からして見ると、懐くどころか拒絶する幼子に
愛情が湧いて来ないのも無理はないのかもしれないのだった。
 それは、どこの家庭でも同じ事なのかと言えば、藤村の
家では違った。裕也は家に居る時には、できるだけ息子のそばに
いたがったし、拒まれても懲りずにスキンシップを図っていた。
 子供をあやすのも、文緒から教わったり、母子の様を見て
自分なりに真似たり工夫したりして、その全身から、
子供への愛情が感じられたのだった。
 だから文緒は、同じ父親でありながら、まるで違う
寛の様を見て僅かに疑問を抱くのだった。二人の性格の
違いから来るのかもしれない。愛情は有っても、示し方が
違うだけなのかもしれない。文緒の手前、はっきりと感情を
露わにできないのかもしれない。
 そう好意的に考えてみても、寛自身に、どこか冷たさを
感じずにはいれないのだった。
 子供には愛情を示さない寛だが、晴香には溢れんばかりの
愛情を示す。その労わり様を見れば、誰もがその愛情を
感じる事だろう。
 樹の誕生日が過ぎて間もない、或る晩。
 昼間はまだ暖かい陽光が燦々と降り注ぎ、散歩をすれば
軽く汗ばむ程の陽気なのに、夜になるとヒンヤリした空気が
沁みわたるように感じられるようになってきた。
 少しずつ、秋が深まってゆくのを感じさせる、そんな晩に、
文緒は部屋の外に僅かな気配を感じた。
 文緒の部屋は、東の対屋の入口近くにある。南の対屋へと
繋ぐ渡殿から近い。その渡殿の方から静かな気配が近づいてくる。
既に人々は寝静まっている。
 文緒は近づいてくる気配に、緊張した。
 足音を忍ばせているのがわかる。こんな時間に、一体誰なのか?
 今世間は物騒だ。この葉山はのどかだが、人里から少し
距離のある大きな屋敷に、不審な輩が忍び込んで
来ないとは言えない。
 ふと、文芸雑誌で読んだ推理小説を思い出した。
講談社倶楽部や探偵倶楽部に出ていた恐ろしい話しが脳裏に
浮かび、文緒はそばで眠っている樹と幸也をそっと
覆うようにして、外の気配に神経を集中させた。
 闇の向こうに、僅かな灯りが近づいてきた。
 燈火を持っている?
 強盗であるならば、灯りを持っているのはおかしい。
 近づくにつれ、灯りが揺れているのを感じた。どうやら
蝋燭の火のようだ。それも、かなり絞ってある。芯を短くし、
更に灯篭を被せてあるのだろう。その灯篭から洩れる僅かな
灯りを頼りに歩いているようだ。それからして、ひと目を
忍んでいる事が窺われる。
 目の前の障子が、闇の中から僅かに浮かび上がり、その中に、
薄い灰色の人影が射した。その影は部屋の前で止まった。
文緒は息を顰めた。言い知れぬ恐怖が湧いて来て、背筋が震えた。
 ジッと影を見つめる。
 その影も、こちらの様子を窺っているように感じた。
 ぎゅっと拳を握りしめた時、影が動き出した。部屋の前を
静かに通り過ぎて行き、灯りが遠くなってゆく。それと同時に、
文緒の緊張の糸も切れて、ふぅと大きな息が洩れた。
 文緒はそっと布団から抜けだすと、音を立てないように
慎重に障子を僅かに開けて廊下の先を見つめた。
 濃い影が廊下に長く伸びている。そしてその先に、男らしき
人物の後ろ姿が見えた。背格好や雰囲気から、寛のもので
あるらしいと文緒は感じた。
 静かに障子を閉め、布団の中に戻ってから、改めて
大きな息をした。
 何故、妻の許へ通うのに、こんな時間にひと目を
避けるようにして行くのか?
 文緒には理解しがたかったが、こんな事で緊張し
恐怖まで感じた自分を愚かしく思うのだった。


      久々にアップ致しました。
       この非常時に小説アップしていて良いのだろうか?
       との疑問と、気持が落ち着かず続きを書けないでいる
       状況に、躊躇していました。
       でも時々、過去の作品に遭遇して一挙読みされてる方も
       いらっしゃる事を知り、こういう時だからこそ、
       書いて提供すべきなのかな、と思いなおしました。
       拙い作品で申し訳ありませんが、少しでも何かの
       お役に立てるのであれば、嬉しいです。
       今後とも、よろしくお願い致します。
       

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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

limeさんに触発されました。^^
こちらは計画停電もあり、電気がある時でも
節電や停電の準備やらで、落ち着かないんですけど、
それでも書こうと思います。
好きな事に時間を費やす。それって大事な事ですよね。
お陰で少しだけ、元気になってきました。

お話は、これから最初の佳境へと突入していきます。
数話後に大きく展開致します。
お楽しみに。

NoTitle 

narinariさんも小説の更新されて、うれしいです。
こういう時だからこそ、こういう創作活動は必要なのだと改めて感じます。
自分の精神の安定と、エネルギー充電のために♪

私のところも、この数日、最初の作品から延々と携帯で読みに来てくださる方が多いです。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいなあって思い、エネルギーにもなります。


今回は、なんとなく背筋の寒くなる展開でしたね。
寛と言う人物、なんだかちょっと怖いような・・・。
でも、実際こんな父親、いそうです。
ちゃんと親になりきれない男・・・。

Re: NoTitle>千菊丸様 

千菊丸さん♪

今回の地震で、本当に普段の普通の生活がいかに恵まれて
幸福なものだったのかを、改めて思い知らされた気がします。

各人が、それぞれ出来る事をするしかないですね。
意気消沈していても、事態は好転しないんだし。

読んでくれる人がいるって、嬉しいものですね。
本当に書く励みになります。
どんな感想を持たれるのか、それぞれだと思いますけど、
続きを楽しみにして下さる人の為に、頑張って書こうと
思います。

これからもよろしくお願いします。

NoTitle 

今回の地震で色々と考えることが多かったです。
特に、ふつうにライフラインが確保され、買い物に行けて、ネットができるという「普通の生活」を送れることへの感謝を、改めて感じます。

小説、再開されて良かったです。
わたしも小説の更新をどうすべきか考えてしまいましたが、こういうときにネガティブな気持ちでいるよりもポジティブでいようと思い、小説を書き続けています。

この地震が残した爪痕は深いですが、それに勝る人との絆や繋がりが、それを乗り越えてくれること、わたしでもその力を少しでも貸そうと思っております。
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