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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第9章 染まる染まらない~第15章 許されざる者許す者


クロステッチ 第1部第13章 流れのままに 第2回

2010.03.26  *Edit 

 「あのさぁー」
 と、枝本が冷たく強い語調で言った。
 「お前、普段からやたらと理子にちょっかい出してるようだけど、
理子にはちゃんと彼氏がいるんだからな。手を出すなよ」
 「彼氏がいるって、オタクじゃないの?」
「俺じゃない。朝霧の人間じゃないから、みんな知らないだけだ。
茂木から聞いてるよ、お前の事は。理子も迷惑してるようだし、
いい加減にしろよ」
 「そうなの?」
 と、渕田は恍けた様子で理子に向かって訊いてきた。
 「そうです。いつも言ってるじゃない」
 「そうだったのかぁ。まぁ、じゃぁ、一応、わかったと言う事で」
 渕田はそう言うと、手を上げて仲間の待つ席へと去って行った。
 「ありがとう」
 理子は枝本に礼を言った。
 「いや、いいよ。あいつの事は茂木も心配しててさ。歴研の時に
話しに聞いてたんだ。理子にも忠告しておいた方がいいと思って
たんだけど、小泉と最上さんの事でそっちのけになってたから、
いい機会だった」
 「私に忠告?」
 枝本の言葉が腑に落ちなかった。渕田に忠告ではなくて、私に?
それはどういう意味なのか。
 「そう、君に。あいつには注意した方がいい。俺は、黒田さん
との関係で、あいつの事をよく知っている。あいつはあれで女好き
なんだ。興味を持った女には、何やかやとしつこく付きまとう。
中一の時も、小松さんと別れた後も、同じクラスの女子と数人
関係を持ってる」
 理子は驚いた。女好きと言う事にも驚いたが、あのクラスで、
あの後に渕田と誰が関係を持ったと言うのだろう。しかも、
数人だと言う。思い出してみても、全く思いつかない。
 「あいつの凄い所は、切れる時には綺麗に切れる所なんだ。
女子の方から恨みごとも全く出ない。萌子も、あいつとの事には
しゃぁしゃぁとしてたし、小松さんも別れた当初はちょっと
泣いてたみたいだけど、すぐに立ち直って未練を見せなかった。
その後の女子達とも同じだ。多分、理子には相手が誰だった
のか、全く思い浮かばないだろう?」
 「うん。全然・・・」
 「憎めないヤツではあるんだよな。それで得してる。でも
アイツは、結構、強引だ。その癖、誰もアイツのそういう行動を
知らない。女子にもモテるみたいだけど、そんなヤツだって
知らない筈だ。その辺の立ち回りが上手い。さっきも、意味深な
事を言ってたろ?一応わかったと言う事で、なんて。どこまで
わかったのか、計り知れないから気をつけた方がいい。大体、
こうして俺と一緒にいる所へ図々しく割り込んでくるところ
からして、普通じゃない。理子に彼氏がいると知っても、
遠慮するかどうかな」
 枝本の話しを聞いて、ちょっと恐怖を感じた。それじゃぁまるで、
自分はハンターに狙われた獲物みたいじゃないか。しかも、
ハンターは執拗そうだ。
「 とにかく、アイツとは絶対に二人きりにならないように、
注意するんだ」
 枝本の言葉に頷いた。
 時計を見ると、11時半を回っていた。
 「ごめん、私、もう行かなきゃ」
 「そうか。わかった。わざわざ呼び出してごめん。それで、
最上さんには・・・」
 「とりあえず、彼女にはまだ何も言わないでおいて。
私も少し考えたいし」
 理子は重たい気持ちで、店を後にした。

 理子は枝本と別れてすぐに増山に電話をした。それから家へ一端
戻り自転車を置くと、その足でいつもの栗山高校まで歩いて行った。
理子が電話をしてから、まだ15分しか経っていないので、到着する
までにはまだ15分くらいはかかるだろう。その間に、乱れた髪を
直し、ノートを取りだした。
 石坂も増山も、連休中はのんびり過ごせと言うが、連休明けには
中間がある。さすがに少しは勉強しておかないとならないだろう。
とは言っても、今の理子には、既に学校の中間テストでは苦労は
無かった。さらっと復習すればそれで済む。
 増山はそれから10分少々でやってきた。思っていたよりも早かった。
 車から降りて来た増山を見て、理子はうっとりする。昨日会った
ばかりなのに、顔を見るたびに胸が高鳴るのだった。矢張り
この人の前では、平静ではいられない。
 「思っていたより、早く済んだんだな」
 「そうですか?私はもう少し早く終わらせたかったんですけど・・・」
 「それは、一刻も早く俺に逢いたかったからか?」
 「相変わらず、自惚れが強いんですね・・・」
 「違うのか?」
 「違います。それよりも、あまり先生を待たせたくなかったらです」
 「なんだ。同じじゃないか」
 「どこがっ」
 理子は呆れた。
 「それはだなぁ・・・」
 「いえ、もう、結構です」
 また、何だかんだと屁理屈で通すに違いない。そういう所も好き
だったが、この件については言い合うのが不毛な気がした。
 「ところで、お昼は何を御馳走してくれるんですか?」
 理子は話題を変えた。
 「おっ、食いしん坊だな。俺よりも食事の方が気になるようだな」
 「そりゃぁ、もう、お昼ですもん。お腹空いてるし」
 「今日はな。シーフードのグラタンだ。お前の電話を貰ってから
オーブンに入れて来たから、着く頃にはいい具合に出来あがってるだろう」
 「わーい!私、グラタンは大好きなんです」
 理子は喜んだ。グラタン好きだが、家で母は作ってくれた事が
一度もない。仕方が無いので、食べたい時には、自分で作る。
その事を、増山に話した。
 「そうなのか。じゃぁ、理子もグラタン作りは得意なんだな。
その理子にどう評価されるか、楽しみだ。いずれ、俺も理子の
グラタンを食べれるわけだ。そっちも今から楽しみだな。他に、
好きな料理でお母さんが作ってくれないものってあるのか?」
 「茶碗蒸しですね。母方の祖父母の家へ行くと、祖母がいつも
作って出してくれるんです。それが大好きなんですけど、母は
全然作らないんですよね」
 「へぇ~。美味いのになぁ」
 「手のかかる料理を作るのが面倒くさいんですよ」
 「結局のところ、料理が好きじゃないんだな」
 「そういう事です」
 母はお嬢さん育ちなので、娘時代に料理をした事が無かった
ようだ。だが、理子が幼い時には、色々と工夫して色んなものを
食べさせて貰った記憶がある。おやつも手作りだった。それが、
いつから手を抜くようになったのだろうと、考えてみた。
 それは、増山の家で、二人でグラタンを食べている時に浮かんだ。
昨日も思ったが、こうして二人で食事をしている時間をとても
幸せに感じた。結婚したら、こうして毎日一緒に食事ができると
思うと、もう既に幸福感で一杯になる。そして、母の事を思い出したのだ。
 こちらへ越して来たころから、父の帰りは前よりも一層遅くなり、
家族揃って食事を摂る事が稀になった。おまけに、たまに一緒に
食事ができる時でも、日本酒を飲む父の口に母の料理は合わない
らしく、酒の肴を自分で作ったりするのだった。
 増山を相手に、自分自身に置き換えてみたら、これほど嫌な事は
無いと思った。一緒に食事ができない寂しさ。そして、たまに一緒に
食事ができても、自分が作ったものを気に入らずに、勝手に好きな
ものを作って食べる夫。これでは、一生懸命に料理をしようという
気が無くなるのも道理だ。一本気な母だから、どうにか口に合うもの
を色々工夫して作ろうと考えるよりも、まず相手の態度に腹が
立つに違いなかった。
 そう言えば、朝起きると、食卓に前日の夕飯のおかずにラップが
掛ったまま置いてある事がしばしばだった。僅かに、一口、二口と
手を付けられた痕跡がある。父はそれしか食べずに残すのだ。
決してまずい料理ではないのに。
 これまで、父に一方的に怒りをぶつけている母の姿を見て、
ずっと疑問に思ってきたが、情の深い女性だけに、父のそうした
態度に深く傷ついてきたのかもしれない。そう思うと、今度は父に
対して、不信感が湧いてくる。男は身勝手だと言った枝本の
言葉を思い出した。
 そんな理子の様子に気付いたのか、増山が「どうした?」と
尋ねて来た。
 「いえ。こうして先生と二人で食事できるのが、凄く楽しくて
嬉しくて幸せで、それでふと、うちの事情を思い出してしまったんです」
 理子は、増山に自分が今思っていた事を全て話した。
 「そうか・・・。お母さんは情の濃い人だからなぁ。理子の
お父さんのようだと、かなり寂しい思いをされてきたんだろうと
思うよなぁ・・・」
 「私、先生が営業マンじゃなくて良かったです。折角結婚しても、
毎晩一緒にご飯食べれないなんて、寂し過ぎます。母が『うちは母子
家庭』ってよく言ってたのが、今さらながらに身に沁みます」
 「俺は、何出されても大丈夫だからな。文句言ったり食べなかったり
なんて事はしないから。食べたいものがあれば、事前に言っておけば
済むことなのになぁ」
 「食べ物の好みが全く違うんですよ。うちの父は、素材で嫌いな
ものって無いんですけど、料理は選ぶんです。例えば、このグラタン。
すっごく美味しいけど、父なら食べないです。母は洋食好きで、
父は和食好きなんです。母は自分を曲げない人だから、もう、
どうしようもないですね。歩み寄ろうとしないんだもの。全てにおいて」
 「そっかぁ・・・。それは辛い物があるかもな。毎日の事だし。
生活だもんなぁ、結婚って・・・」
 と、増山はしみじみとした様子で言った。
 理子は、両親の姿をずっと見てきたから、結婚=生活だと言う事を、
ずっと実感していた。だからこそ、生まれも育ちも違う人間が、幾ら
その時は好きだからと言って、一生、ずっと共に生活していけるのか
と疑問に思ってきたし、自分自身、それを持続していける自信が
無かったのである。
 改めて思う。増山のそばにずっといたい。こうして二人で一緒に
楽しく過ごしていきたい。だけど、実際に生活を共にしたら、
どうなるのだろう。色んな行き違いや食い違い、それに対する
戸惑いもあるだろう。生理的に受け入れられない部分も存在する
のではないか?そういう事に遭遇した時、それを乗り越えて行ける
のだろうか?
 「私やっぱり、自信が無くなってきちゃいました・・・」
 理子は正直に打ち明けた。そんな理子に増山は軽く吐息を
ついて言った。
 「俺は、大丈夫だと思う。お前となら、うまくやっていけると
思うんだ」
 増山は穏やかな表情で微笑んでいた。その顔を見ると、理子も
安心してくる。
 「先生は、どうしてそう思うんですか?」
 「お前を愛してるから。そして、お前も俺を愛してくれてる」
 理子は赤くなりながら言った。
 「でも、両親だって、愛し合っていた筈なのに・・・」
 「お前の両親の事は、誰にもわからないさ。男女の事は当人
同士にしかわからない事が多いからな。だが、自分達の事ならわかる。
お前と俺なら、大丈夫だ。お前は、そういう両親の姿を見てきたから
こそ、他人を顧みない程、自己主張をしない。だからと言って、
自分を主張しないわけじゃない。すぐに感情的にならないのも、
そこから来てる。俺は激しやすいが、お前の冷静さが俺に自分を
早く取り戻させてくれる。だが、それより何より、愛しているからこそ、
俺はお前の全てを許せるんだ。それはお前も同じだろう?」
 増山の瞳には熱い思いが感じられた。その思いは、理子に歓びと
安心を与えてくれた。結果がどうであろうと、今、この人と離れる
事はできないと、理子は思うのだった。

 「先生、ところで、今日会った友達の事なんですけど・・・」
 食事が終わって、増山の部屋へ入って落ち着いた時に、理子は
今日の事を切り出した。枝本と話した事は、理子の心を大きく揺らした。
 「うん。どうだった?」
 まだ何も知らない増山は、呑気な様子だ。
 「実は、今日会った友達って言うのは、枝本君なんです」
 理子の言葉に、増山の顔がピクンと引きつったように見えた。
だがそれも一瞬の事で、何とも無い顔をしている。
 「理子は、今日話すと言って、昨日は敢えて言わなかったよな。
俺が怒ると思ったか?」
 「いいえ。ただ、・・・・」
 「ただ?」
 理子は黙って俯いた。矢張り、昨日のうちに言っておいた方が
良かったのか。
 「俺は理子に、何もかも全てを話して欲しいとは思っていない。
自分一人の胸の内に秘めておきたい事だって、多かれ少なかれ誰に
でもあるだろう。だから、昨日、お前が敢えて言わないでいた事に
対して怒ってなんてない。お前はまだ学生だし、友達同士の付き
合いがあるだろうから、それを逐一俺に報告する義務は無いんだ。
相手が男友達であってもな」
 なんだか、空気が重くなったような気がした。怒って無いと
言いながら、気分が良さそうには見えない。話を聞く前の雰囲気と
はまるで違っている。どうしたものか、理子は戸惑った。結局のと
ころ、増山は何が言いたいのだろう。話しを聞きたくないと
言うことなのか・・・。
 増山は、それ以上何も言わなかった。その事が理子の気持ちを
逆なでした。何でいつも、自分ばかりがご機嫌取りをしなければ
ならないのか、そんな気持ちが湧いてきた。こんな事で機嫌を悪く
されるのが納得いかない。そしてその事が、理子の中で更に怒りを
呼び、フツフツと滾って来た。
 理子は立ちあがった。
 「おい、まさか、また帰るなんて言うんじゃないだろうな」
 増山が驚いて理子を見上げた。
 「こんな状態で、帰るなと言う方がおかしいです」
 理子は冷たく言い放つと、鞄を持って踵を返した。
 「おい、待てよっ」
 増山がすぐに理子に追いついて捉まえた。理子はそれを振り払おう
としたが、増山の力が強くてできなかった。暫く揉み合った後、
理子はベッドに押し倒された。両手首を掴まれて抵抗できない。
理子は増山を睨みつけた。その目をまともに受けて、増山は怯んだ。
 「何故、そんな目で俺を見る?怒ったのか?」
 「怒るのは何も先生の専売特許じゃないんですからね」
 理子はそう言った。増山は理子の心の中を覗きでもするように、
理子を見つめた。
 「私もう、先生には何も話さない」
 「おい・・・」
 「だって、聞く耳持たないって態度だったじゃないですか。
聞きたくないんでしょ?」
 「いや、そうじゃなくて、何も俺に無理して何もかも話さなくても
いいんだって事を言いたかっただけだ」
 その言葉を無視するように理子は言った。
 「手を離してくれませんか?とても痛いです」
 理子はまだ、増山を睨んでいた。
 「帰らないか?」
 増山の質問に理子は返答せず、ただ睨んだままだった。増山は
溜息を一つ吐くと、手を離した。
 「私は、話したくない事だったら、例え先生でも話しません。
秘密は持ちたくないけど、どうしても秘密にしておいた方がいいと
思う事だったら、何も言いません。全く気付かれる事も無いと
思います。石坂先生の事だって、言わずにいても良かった事です。
言わないでいたら、私の心をあなたに知られる事は無かったし、
そのせいでお互いに傷つくことも無かったです。でも、私は先生に
知っていて欲しかったんです。だから、話しました。枝本君と会う
事も、事前に話したら、先生は怒るまではしなくても、いい気持ち
ではないだろうって思いました。会う事を許してはくれても、きっと
私と会うまで気を揉むに違いないと思ったから、会った後で
話そうって思ったんです。別に、無理してるわけじゃないです」
 理子の話しを聞いて、増山は体を起こして、理子の隣に座った。
またやってしまったと後悔した。ついさっきまで、下で理子の両親の
話しをしていて、自分達は愛し合ってるから全てを許せると言って
いたばかりだ。理子は男女の愛に一抹の不安を抱いたままだ。
なのに、こんな些細な事で理子を怒らせてしまった。彼女は俺に
不信感を抱いたんじゃないだろうか。そんな思いが湧いてきた。
 「悪かった。すまない・・・」
 増山は謝った。
 「私達って、何か会うたびに喧嘩してませんか?私、こんなの嫌。
両親の、喧嘩とは言えない喧嘩を毎日のように見て育ってきたから、
本当に喧嘩は嫌なんです・・・」
 増山が理子を見ると、理子は泣いていた。静かに涙を零していた。
増山は手を伸ばして、理子の頬を伝う涙を拭った。
 「理子、本当にごめん。でも、こんなのは喧嘩とは呼べないよ。
喧嘩とは呼べないが、お前に悲しい思いをさせてしまったのは確かだよな」
 そう言うと、理子の唇に唇を重ねた。
 「俺が大人げなかった。相手が耕介とかなら、全然気にならない
んだが、枝本と聞くと、どうしても胸がざわつく。お前にとっては、
多分今でも、特別な相手だろうから」
 理子は増山を見つめた。理子の心中まで、よくわかっていると驚く。
全く気付かれる事なく秘密にしておける事なんて、本当は
無いんじゃないだろうか。
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