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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 12

2011.03.04  *Edit 

 そんな妹の様子を見て、綱紀は「ちょっと見せてごらん」
と言って、文緒の手から樹を抱き取った。その途端、
樹が泣きだしたが、綱紀はそれにはお構いなく、
樹の様子を観察した。
 綱紀は様々な働きかけをして、樹の反応を見た。
樹はその間も、文緒の方を見て泣いている。文緒はそばによって、
頭を撫でたりしながらあやすものの、抱かれたがって
腕を伸ばして来る。
「ガラガラとか、持ってきてないの?」
 兄の言葉に、手提げからガラガラを出した。
「ちょっと振ってみて」と言われたので樹の前で振ったものの、
変わらず泣いて文緒に抱かれたがっている。その姿を見て、
文緒は切なくなってきた。
「若君、もうちょっと我慢して下さいよ」
 綱紀はそう声掛けすると、色んな姿勢を取らせた。
 そうして、一通りの事が済んだ後、文緒の腕の中に戻ると、
樹は途端に泣きやんで、嬉しそうに笑顔を浮かべたのだった。
「いやに、お前べったりなんだな」
「そうなの……」
「お前を母親だと認識してるんだな。だから認知の面では、
それなりに発達してきていると言える。だが、八か月にしては、
体の方の発達に若干不安があるかな」
 文緒は兄が自分と同じ事を感じた事にホッとし、そして新たな
不安が湧いてくるのを感じるのだった。
「首の座りはいつごろだった?」
「……最近なの」
 文緒の言葉に綱紀は目を剥いた。驚いているのが分かる。
「それは……、遅い。普通は三、四か月頃には完成する。
遅くとも六カ月までには完成している筈だ。幾ら出産時と
産後の食育が悪かったとは言っても、遅すぎる……」
 文緒は俯いた。自分を見つめて微笑んでいる樹と目が合った。
晴香に似た、色素の薄い琥珀色の瞳が微かに金色の光を含んで
いるように見える。そんな時は、機嫌が良い。
 樹の瞳は、その時の感情によって、様々な色を含んで
いるように見える。首が座りだした最近になって気付いた
事だった。そして、そんな瞳を文緒は昔見た事を思い出した。
 それは祖母だった。祖母の瞳は薄くは無かったが
その時々によって瞳の色が違って見えた。そして、同じように、
祖母の姉で晴香の祖母である大伯母も、色が変化する瞳を
持っていた。そして大伯母の方は瞳の色素が薄かった。
 晴香も自分も、その変化する瞳を受け継いではいない。
双方の母親も普通の瞳だった。だが、その血を樹は
受け継いだのだろう。
 不思議な現象だが、そのお陰で樹の感情を理解するのに
役だっている。そして、その不思議な瞳に魅了されるのだった。
「お兄様。主治医の先生や周囲の人達は遅れているだけで
心配無いって口を揃えておっしゃるんですけれど、ずっと
一緒にいる私はあまり納得できないでいるの。具体的には
言えないんですけど、何かが違う気がして……。幸也が
順調過ぎるからなのかもしれませんけれど」
 その幸也は、二人の近くで祖父と共におはじき遊びに
興じていた。満面に笑みを浮かべてはしゃいでいる様は、
とても子供らしい。
「あの子は、確かに順調だな。平均より少し進んでいるようだ。
活発で利発そうだし、心配ないだろう」
 綱紀は嬉しそうに目を細めて幸也の様子を見ていたが、
その視線が樹に戻って来ると、眉間に小さな皺を立てたのだった。
「四六時中一緒にいる母親の勘は侮れないものがある……。
僕が見た印象を言おう。だがあくまでも、印象だ。僕はまだ
小児を始めたばかりだから臨床経験は少ないし、学問的にも
まだ浅い。だから、僕が言う事を確かに正しいとは受け止め
ないで欲しい。あくまでも参考程度に留めておいてくれ」
 難しい顔をしてそう言う綱紀に、文緒は矢張り何か問題が
あるのだろうと察した。そして、それは一体どういう
問題なのか?小さな波紋が心を揺らす。
「運動失調の疑念が僕の中に浮かんだ」
「運動失調?」
 聞き慣れない言葉に、文緒は思わず聞き返す。
「そうだ。まぁ言葉通りの意味だよ。運動機能に問題がある
怖れがある。運動失調と一言で言っても、その原因や状態は
様々なんだ。脳の神経に問題があって四肢の動作に問題が
ある場合や、脊髄に問題がある場合など、色々だ」
 兄の言葉に、文緒は一瞬目の前が暗くなるのを感じた。
唇が微かに震える。どこかおかしいと感じてはいたが、
それがそんな重要な疾患だったとは思いもよらなかった。

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~ Comment ~

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

毎日ずっと一緒にいる母親は、真っ先に子供の異変に気付くものですが、
また、杞憂な心配もしがちです。
樹の場合、あまりにも成長が遅いって言うのも、
どうしても拭いきれない不安の要素だったようです。

重篤な疾患ではないですが、矢張り普通の子供と違うと言う事は、
本人にも周囲にも少なからず影響が及ぶものですよね。
この先、どうなっていくのか、お楽しみに~^^

NoTitle 

なるほど、母親の・・・というか、この場合は、愛情を持って育て、毎日接しているものの勘とでも言うんでしょうか・・・。

でも、この樹はその後、立派に一族を背負って立つんですよね?
あぁでも、この先の展開に関わってくるような疾患がやっぱりあるんだぁ・・・。

それにしても、お話を読んでいるとどっぷりとこの時代の、中でも上流階級の生活にハマりこんでしまいます(^^;
先が楽しみです~。

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

樹の疾患は、今後の物語に影響致します。
彼の人生にとって大きな問題であり、
その後の人生にも関わってきます。
それが樹の人間形成にも大きく関与し、
結果、この先に出て来る澪にも関わってくるのです。

NoTitle 

樹がそんな疾患をもってたなんて。
辛いですねえ。
そのことが、これからの展開に、何か関わってくるんでしょうか。

それにしても、やっぱり、赤ちゃんが出てくると、ホンワリします。
描写を読むのも、楽しいですね♪
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