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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 09

2011.02.22  *Edit 

 樹(たてる)は通常よりも二カ月程成長が遅れているようだった。
だがどこか弱々しい印象を受ける。
 心配だった首の座りは八カ月頃に完成した。床にあおむけに
寝かせて、腕を引っ張ると首もちゃんと着いてくる。手足も
バタバタさせるようになった。いないいないばぁや、
ガラガラにも反応する。だが、どの行動も全て、赤子らしい
活発さが感じられない。
 文緒は意識して樹とのスキンシップを多くした。樹の発達を
促すべく、色んな刺激を与えた。それらに可愛らしく反応は
するものの、全体的に大人しい。
 それでも、そんな様子をそばで見ている晴香にとっては、
樹がほんの僅かに笑っただけでも、とても嬉しいようで、大層、
喜ぶのだった。それこそ、赤ん坊のように。
 首が座ってからは、晴香の膝の上にも座らせて、母子の
スキンシップを図った。だが樹はほんの僅か座っただけで、
すぐに文緒を求めるのだった。
 本当の母親は晴香なのに、乳を吸わせてくれる暖かい
ぬくもりの方が恋しいのだろうか。
 晴香は樹を膝の上へ乗せた時、慈愛に充ち溢れた表情を
浮かべるが、樹が文緒のそばへ行きたがって離れると、
僅かに憂いを浮かべるのだった。文緒はそれを見るのが
悲しくてたまらない。
 これは、本当は酷な行為なのではないか……。
 我が子がすくすく育ってくれる様を見たい思いの一方で、
他人の懐で、そちらにすっかり懐いてしまい、本当の母親で
あるにも関わらず距離がある事に胸が痛まぬわけがない。
 だが、共に過ごす時間が少なくなれば、距離は開く一方だろう。
 文緒は、乳母としての自分の存在意義を考えてしまうのだった。
確かに二人に取って必要な存在ではあるだろう。ただ母乳が
出ないだけであるのなら、文緒は乳をあげるだけで済んだ。
 それ以外の子育ては、母親である晴香の仕事だ。だが、
病弱な晴香には無理だった。だから、養育も含めた乳母が
必要となったのだ。当然の結果だ。
 そう理屈ではわかってはいても、割り切れない思いが残る。
同じ母親だからこそ、晴香の胸の内が慮られる。
 季節は梅雨になっていた。
 目が覚めるような新緑が、雨に濡れて静かに佇んでいる。
 そんな梅雨の晴れ間を利用して、文緒は樹を抱っこして、
元気に歩き出した幸也の手を繋ぎ、周囲を散策するのだった。
 自然の様々な現象や、植物や昆虫や動物達の様子に目を
輝かせている幸也は、元気一杯だった。好奇心旺盛な息子を
愛しく思う。学問好きな父裕也に似たに違いない。見た目の
様子も裕也に似ている。そんな息子を見るたびに、
夫を恋しく感じた。
 葉山は自然に溢れている。
 一年を通して気候も安定している方だ。山海の幸に恵まれ、
水も美しく、多くの華族達の別荘も建っている。彼らの別荘の
多くは、海に近い場所にあった。だから山を散策していても、
出会う事はまずない。
 海が見下ろせる場所に来ると、幸也は興奮する。
「うーみ、うーみ」
 と、可愛らしい声でしきりに叫ぶ。
 一歳を過ぎてから、発する言葉がどんどん増えている。まだ
こんなに幼いのに、もう意味のある言葉を発するのかと、
文緒は我が子の様子に驚いた。
 文緒は散策に出た帰り道に、藤村家に寄る。
 夫がいる時もあれば、仕事で東京まで出ていていない時もある。
在宅の時には、息子の成長に目を見張り、抱きしめたり頭や頬を
撫でたりと、その可愛がりぶりは相当なものだった。
 そうして、樹へは穏やかな視線を向ける。
 自分から妻を奪った存在ではあるが、晴香によく似た美しい
赤子のいたいけな様を見て、その成長を見守ってやろうと
思うようになった。そんな夫に、文緒は感謝するのだった。
 いつものように散策に出、藤村家に寄ってみると、珍しく
文緒の長兄である秋月綱紀(こうき)が来ていた。医者を
生業としている。二人の婚儀以来だった。
「お兄様。どうなさったの?」
 驚いている妹に、兄は爽やかな笑顔を向けた。
「久しぶりだね」
 綱紀は笑顔のまま、何故自分がここにいるのか、
その理由を話しだした。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

そうですよね。
仕方ない事なんですよね。

静かに時間が流れてくれたら安心なんですが、
これから徐々にやってきます。波乱が……。

NoTitle 

仕方ないことだけど、文緒はつらいですね・・・。
樹の成長が遅いことも、樹が自分の方になついてしまうことも。

でも、今のところ、晴香もそれを受けとめてくれているし、
旦那さんも理解してくれてて、穏やかな状況ですね。
このまま静かに時間が流れてくれたらいいんですが。
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