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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 05

2011.02.07  *Edit 

「あいつは昔から僕を嫌っていた。だからここへきて、
その仕返しをしてやろうとでも言うのか。子供の命に
関わる事だと言うのに」
 拳を握りしめ歯ぎしりする。
 そんな息子を父は宥めた。
「そう怒るものではない。向こうにも向こうの事情と
言うものがある」
「本家の嫡子の命よりも大事な事情があるんですか?」
 普段は陽気で明るい寛だが、激しい一面も持っていた。
それに何より自己中心的だった。人当たりの良さから、
周囲も彼を甘やかしていた結果だろう。父親は自分の教育が
至らなかったようだと、帝大から戻って来た息子を見て
思ったのだった。
「藤村家では、授乳を拒否しているわけではないんだ。
向こうの子供もまだ六カ月だ。裕也君の前に二人の息子を
一歳になる前に死なせているからな。だから幸也の事が
心配なんだそうだ。親としては当然の事だろう」
 先代には藤村の言い分もよく分かった。確かに幼子を残して
主筋とは言え他人の子を育てる事に抵抗があるだろう。
「藤村では、若を藤村の家で養育するのであるなら、
喜んで引き受けると言っているのだが」
 父の言葉を寛は一蹴した。
「父上。馬鹿な事を言わないで下さい。華陽院本家の嫡子を、
何故、従家で育てなければならないんです。家には家のしきたり
と言うものがあるでしょう。藤村の家で育ったら、藤村の家の子に
なってしまいますよ。あそこは華族でもないんですからね。
華族らしい振る舞いを身に付けられないじゃないですか」
「うむ……。確かにそれはお前の言う通りだが……」
「環境が人を育てるんです。藤村の家で育ったら、
裕也のようになりかねない。庶子ならともかく、嫡子ですよ。
そんな事はさせられない」
 息子の言う事も尤もだ。だが、だからと言って、無理強いは
できない。藤村家は従家とは言っても、一族筆頭の家格であり、
華陽院本家だけではなく、一族全部を支えて来た。かの家あっての
一族だった。そして、それをこれからも継続していく為にも、
藤村家と諍いを起こすのは不味かった。
 煮え切らない態度の父に、寛は言った。
「父上のお考えは、僕にも分かりますよ。いくら従家と言っても、
藤村は我が一族には欠かせない家だ。だから、腹が立って
もごり押しはできない。それに、僕は元から裕也とはそりが
合わない。考えてみれば、断られて良かったのかもしれません。
他の家を当たりましょう」
 今の今まで歯ぎしりする程の怒りを露わにしていたと言うのに、
いきなり冷静にそう言う息子に父は驚いた。
 自己中な愚か者と思う一方で、自身の立場を明確に把握して
感情に走らない行動を取る息子を頼もしく思ったりもする。
そして、いつの間にか彼に振りまわされている事に気付くのだった。

 寛の言葉に晴香は反対した。
「お願い。あの子を呼んで下さいませんか?文緒ちゃんに逢って、
私から直接お願いします。だから……」
 肥立ちが悪くないとは言っても、寝たり起きたりの生活だった。
それは昔から変わらない。寛はそんな晴香が不憫でならない。
藤村文緒を乳母に選んだのも晴香のたっての頼みだったからだ。
 殆どを家の中で過ごしている晴香にとって、友達らしい友達は
いない。そんな彼女が子供の時に一緒に遊んだ文緒を望んで
いるのである。はとこの間柄でもある。本来なら、もっと頻繁に
遊ぶ機会があってもおかしく無かったのだが、生憎、文緒の家は
遊びに通ってくるには遠かった。
「文緒ちゃんに逢いたいの。それでも、駄目だったら諦めます。
だから、お願い……。逢わせて下さい……」
 寛は懇願する晴香には逆らえなかった。
 本人が会いたいと言っているのだ。会う事自体に問題は無い。
 だが……。
 寛は晴香の傍で眠っている赤子を見た。
 母親同様、痩せ細っている。
 山羊の乳を与えてはいるものの、口に合わないのか小食なのか、
僅かしか飲まない。
 赤子の世話は女中がしているが、晴香がその様子を見たがるので、
晴香の傍で世話をしているが、あまり乳を飲まない我が子を見て、
胸を痛めているのだった。乳を飲まないから元気もない。
男児とは思えない弱々しさだった。
 こんな状況で、折角会っても断られたらと思うと寛は
憂鬱になる。晴香の嘆きが予想できるからだ。そのせいで
死んでしまわないだろうか?
 誰だって自分の子供の方が可愛いのは当たり前だ。そのくらい、
寛にも分かる。だから藤村の言い分も分からないでは無いのだ。
 だが、寛にとっては、正直なところ我が子よりも晴香の方が
大事だった。子供を失う事で晴香の心が壊れてしまい、
挙句の果てに死ぬような事があったら、寛は世の中の全てを
恨むだろう。
 弱々しい二人を見て思う。
 もし、これで断られたら、土下座しよう。
 何がなんでも、了承させるんだ。
 その為にはなんでもする。

 翌日、寛は藤村家へ使いをやったのだった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

昔の人って、大変ですね。
矢張り、妻や子供の瀕死の様を見れば、
他人への思いやりなんかよりも、まずは
妻と我が子の事を思うのも当然なのかもしれません。
しかも、本家ですし。
何故助けてくれないんだ、と恨み節になるのも
仕方ない事なのかな。

男には有りがちかもしれませんが、
寛にとっては晴香が全てなのです。晴香への強い想いが、
後の不幸へ繋がっている部分があります。
お楽しみに^^

NoTitle 

根底に、いろんなしがらみがあるんでしょうね。
寛も、じっくり読んで行くと、ただ自分勝手なワガママナボンボンではないのが分かってきました。
奥さんを本当に大事におもってるんですね。

寛側から見ると、こちらも少しかわいそうな気がしてきました。
う~ん。
教育までひっくるめて世話をする・・・という事がネックなんでしょうね。ただ乳をあげるというだけの問題ではなく。

ああ、粉ミルク、あげたい・・・・。
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