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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 03

2011.01.31  *Edit 

「幸也(ゆきなり)もそろそろ離乳の時期だ。文緒は健康だし
教養も高く性格も穏やかで優しい。うってつけじゃないか」
「それはそうですが……、ですが幸也の養育はどうするのです。
我が家の後継ぎですよ。幾ら主家の申し入れとは言え、出来る事と
出来ない事があります。どうしてそこまで……」
 体の弱い晴香が無事出産を終えて周囲は安堵した。
産後の肥立ちも悪くはない。だが、母乳の出が悪かった。
妊娠後期に入っても乳が張っては来ず、出産後も僅かに
初乳が出た程度だった。
 このままでは、折角生まれた子供が育たない。
 村で飼っている山羊の乳で今のところ補ってはいるものの、
体が弱い為に大事に育てられた晴香には、乳児の世話は無理だった。
乳母を雇うしかない。
 そこで白羽の矢が文緒に立ったのである。
 授乳だけでなく、養育まで任せるとなるとそれなりの
人物でないとならない。
一族の中で現在授乳中の女性は四人いた。その中で、家柄、血筋、
本人の人柄や教養を吟味したところ、文緒が残ったのである。
しかも文緒は晴香とは、はとこ同士の関係にある。それを知った
晴香が、是非彼女に任せたいと言ったのだった。
晴香と文緒は子供の頃に何度か会った事がある。母方の親族の
集まりだった。歳もひとつ違いなので大人の集まりの中、
二人で人形遊びや貝合わせなどをした。
そんな幼い頃の記憶を思い出し、自分の子供の世話を是非
彼女にと強く主張したのだった。
「あのこは優しい子だった。彼女ならきっと、私の子供を
慈しんで育ててくれるに違いないわ」
 晴香のその言葉が決定打となった。周囲の意見とも一致して
いるし、もうこれは彼女しかいないと言う事になったのだった。
「とにかく、まずは文緒に話してみようではないか。
彼女の問題でもあるんだからな」
 政也(まさなり)にそう言われて、その夜、裕也は文緒に
話したのだった。
 夫の話しを聞いた文緒は目を丸くして驚いた顔をした。
驚くのも無理はない。自分達が知る限り、乳母のいる家なんて
無かったのだから。
「お乳を差し上げる分には一向に構わないのですけれど……」
 戸惑っている様が窺われる。
「そうだ。僕もそう思う。それに、お育てするにしてもだ。
我が家へお迎えするのであればお断りする理由もない。
だが、そうじゃない」
 裕也は拳を握りしめた。
「幾ら主筋とは言え、何故、我が子を放り出してまで
他人の子を育てなければならないんだ」
「他人では、ないじゃありませんか。親戚ですのに」
 親戚とは言っても、華陽院の家と藤村家の血は遠い。
五代目、柾が家を立て直し強化する為に婚姻を結んだ家の一つだ。
以来、華陽院の傍にあって、ずっとその家計を支えて来た。
一族の中の重鎮の家系である。近親婚を禁じているから、
枝葉同士の交わりはあっても、本家同士の婚姻はその後
結んでいない。だから血縁関係は薄い。
「そうは言っても、御上の家でも無ければ、御一新前の時代でも
無いんだぞ。今は昭和だぞ」
 時代錯誤もいいところだ、と裕也は思う。
「あなた……。そうは仰っても、一族の柱である華陽院御本家の
一大事でもあるわけじゃないですか。大事なご嫡子の生死にも
関わる事なわけですし……」
 妻の言葉に裕也は厳しい目を向けた。
「君はいいのか?そろそろ離乳とは言っても、幸也はまだ
六カ月なんだぞ?幸也だって、我が家にとっては大事な
嫡子じゃないか」
 藤村裕也は実は三男だった。長男も次男も、一歳を待たずに
夭逝している。原因不明の高熱で、呆気なく逝ってしまったの
だった。だからこそ、我が子の今後が心配になる。
 まだ六カ月だけに、明確に父母のどちらかに似ているとは
言えないが、母の要素を取り入れながらも全体的には父親似の
ような印象だ。そんな息子を見る度に、裕也の心は幸福で
満たされる。
 そして、その可愛い子供を産んでくれた妻に対する愛情も、
前よりも一層深まっている。裕也にとって、二人はかけがえの
ない存在だった。だからこそ、華陽院の申し出によって、
家族の幸せを奪われる気がして、受け入れ難いのだ。
「あなた……。私も幸也を置いて一人でお勤めに上がるのは
気が進みません。あなたの仰る通り、大事な我が家の
跡取りですし、それに矢張り、自分の子を置いて行くのは
身が裂かれるよりも辛いですから」
 文緒の言葉に、裕也は力を得たように目を輝かせた。
「そうだろう。それが当たり前だよ。矢張りこの話しは
お断りしよう。君が選らばれた事は栄誉な事だとは思うが、
二人目、三人目ならいざしらず、最初の子供なんだ。それに
僕達だって、まだ夫婦になってから一年半しか経って無いんだ」
 裕也は自分の想いを込めて妻を見つめた。
その視線を受けた文緒は、優しく微笑んだ後、
恥ずかしそうに小さく頷いたのだった。



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~ Comment ~

Re: NoTitle>秋沙様 

秋沙さん♪

乳母と言っても色々で、お乳を上げるだけの人もいれば
養育まで任される場合もありますし、離乳まで里子として
乳母の家で育てる場合もあるし、その家々によって事情は色々なのです。
今回の場合は、ちょっと理不尽ですね。

歴史は大した事ないですよ。好きではありますが、
実際にそれを背景にして書くとなると、かなり
労力を費やすいと言うか、疲れます……。
今回はお話の設定上、少し古い時代を背景にしないと
進行しないお話なので、仕方なく……(^_^;)
難しい事に挑戦してしまったな、と今更ながら実感しています。

NoTitle 

乳母としてお勤めするとなると、自分の子供は置いていかなければならないもんだったんですか?
それは・・・つらいですねぇ。

それにしてもnarinariさん・・・
物語だということを忘れて、歴史物語を読んでいるような気持ちになります。
すごい知識ですね~。
本当に歴史がお好きなんですね♪

私も歴史が好きだったはずのなに・・・(^^;
いざ、それを題材にお話を書いてみようかな、と思ったら、あまりにも知識が浅いことに愕然としました(笑)

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

戦前は、裕福な家庭では乳母を雇っていた所が多かったようです。
戦後になっても、地方の裕福な家庭ではまだ名残が
あったようで、昔、同じ職場のおばさまが、
「うちには昔、乳母やねえやがいたのよ」なんて
自慢されてましたよ。戦後なのに、まだ、そんな家庭が
あったのか!と驚き、思わず疑ってしまいましたが(^_^;)

高貴な家庭じゃぁ、母親が授乳や子育ては、なさらないんですよね。
このお話では、したくてもできない、って状況なのですが。
ダンナ様的には、イヤ~な話でしょうね。
まだ結婚して、そんなに年月経ってないんだし。
藤村家にとっては、悲劇なお話です。

NoTitle 

乳母って・・・辛いですね。
私も文緒の立場だったら「冗談じゃない」って言ってしまいそう。

でも今みたいに粉ミルクも無い時代だと、乳母は必要だったんでしょうね。
・・・でもねえ。
旦那さんの裕也が反対してくれて、私的に嬉しいです。
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