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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 02

2011.01.28  *Edit 

 体が弱くて学校へは行けず、家で家庭教師による教育を受けていた
晴香だったが、殆ど外出する事の無い彼女が妊娠したのだった。
 数えで十九になる晴香は、匂うような美しい女に成長しており、
変な虫が付かぬよう、家庭教師も女を雇い、男の使用人は
一切近づけないようにしていた。
 できれば宮家へ嫁がせたいと考えていたものの、どの宮家の子息も
既に結婚していた。健康面から考えると、家の切り盛りなどの心配は
しなくても良い、高位の家でなければなるまい。
 どこか良い家は無いものか。
 その娘の体調がおかしいと家庭教師から言われた母は驚いた。
頻繁に吐き気を催し、顔色も常より悪い。慌てて医者を呼ぶと、
「身ごもっておられます」と告げられて、母は戦慄き歯を噛みしめた。
 常に身の回りの世話をしている女中達は、家庭教師よりも早くに
娘の異変に気付いていた筈だ。それなのに、何故報告しなかったのか。
 激怒し、打擲し、詰り、叱咤し、ようやく事実を知った。
 東京から戻って来た寛が、戻った直後から晴香の許に
通っていたのである。
 最初にやってきたのは、伯母が留守をしていた昼間だった。
元々可愛がられて出入りしていた寛である。使用人たちは、
寛が東京へ行った本当の事情は知らない。将来の当主が
年ごろになったから学問の為に東京へ行ったとしか
理解していなかった。
「晴香はどうしてる?元気になったのかな?」
 明るい声で気さくに問いかけられ、背が高く男らしい魅力を
備えた若様に笑いかけられては、女中は喜んで答えるしかない。
「相変わらず、風邪を引きやすくて、ひっそりと過ごされております」
 妹のように可愛がっていたのだから、晴香のその後が
気になるのも当然だろう。
「様子、見させてもらってもいいかい?」
 ちゃんと断りを入れている。だが相手は女中だ。
否やとは言えないし、そもそも言う理由も見当たらない。
 こうして二人は再会した。
 互いに相手の姿を見て驚愕し、胸を高鳴らせた。
 晴香は、兄のように慕い、そして初恋でもあった寛が
立派な魅力的な男となって現れた事に胸をときめかせ、
寛は例えようもなく美しく成長した晴香の姿にひと目で魂を奪われた。
 それから寛は人目を避けるように、頻繁に夜に訪れようになり、
夜明け前の丑四つ時に去ってゆく。そんな日々が半年以上も
続いていたのだった。
 その事実を知り、母は愕然とした。母親でありながら、
全く気付かなかった自分を責めた。そして、弟である華陽院家の
当主の許へと走った。
 父と伯母の、怒りに満ちた顔を見た寛は、それでも事の重大さが
理解できずにいた。そして、晴香が身ごもった事を喜んだのだった。
「お二人が何故そうもお怒りになるのか、僕には分かりません。
僕は昔から晴香が好きだった。それでも、父上の申しつけに
従って他の女性とも付き合ってみました。ですが、僕の心に
叶う女性は一人もいなかった。こうなったのも運命だと思います。
身ごもってしまった以上、どうしようもないでしょう。
僕達を結婚させて下さい」
 全く悪びれずに堂々とそう言う寛に、二人は返す言葉もなく
承諾した。四親等の従兄妹である。家訓では禁忌の仲だ。
本来なら結婚など許せるものではなかったが、本人が言うように、
こうなってしまっては仕方が無い。
 晴香の悪阻が軽くなって来た新緑の爽やかな吉日に、
二人は祝言を挙げたのだった。

 この時、藤村家では既に子供が生まれていた。
 ひと月前の桜の頃に男児が元気な産声をあげて誕生したのだった。
 幸也(ゆきなり)である。
 晴香のはとこである文緒は、晴香とは違い健康だった。
教養高く慎ましやかで、黒目勝ちの瞳は思慮深さを感じさせ、
その美しさはしっとりとしていた。
 寛より一足先に帝大を卒業して葉山に戻って来た裕也に、
父の政也から縁戚との見合いを申し渡された。その時の相手が文緒だ。
当時文緒はまだ女学校に通っていたので、婚礼は卒業後との
条件の許の見合いだったが、裕也はひと目で彼女を気に入った。
 女学生だった文緒はとても初々しく、気品を漂わせていた。
優しげな表情は親しみやすく、この娘ならきっと明るく夫と家を
支えて盛りたててくれるに違いない。そう思った。
 文緒もまた、学者風情で優しい面立ちの裕也に心を寄せた。
 そうして二人は婚約し、文緒が在学中の間は休みを利用して
二人の時間を育み、自然と気持ちが盛り上がり、文緒の卒業の
翌月に婚礼を挙げたのだった。
 裕也は文緒と結婚し、幸せな結婚生活を送っていた。彼女は
自分が思った通り、明るく気立ての良い娘で、尚且つ教養高く
頭の良い女性だった。
 家事の切り盛りは勿論の事、家業の仕事にも明るく、裕也は
彼女を得た事でこれまで以上に充実した日々を送っていた。
そして翌年の春、元気な後継ぎを得て、益々活力が湧いて
仕事に勤しんだのだった。
 それから半年後の十月に、寛と晴香の子供が生まれた。
 生まれた子供は男児だった。
 当事者以外は誰も望まない婚姻だったが、男児が生まれた事で
周囲は喜びに満ちた。
 華陽院家の男児は、柾(まさき)以来、漢字一文字の名前が
通例となっていた。それに従い、生まれた男児は樹(たてる)と
名付けられた。一族の柱となって、更なる栄を願っての命名である。


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