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小説・クロスステッチ第1部 <完>
第9章 染まる染まらない~第15章 許されざる者許す者


クロスステッチ 第1部第12章 風 第3回

2010.03.24  *Edit 

 「先生・・・」
 「どうした?」
 「石坂先生の事なんですけど・・・」
 理子は増山の腕の中だった。食事の後、再び増山の部屋へ戻り、
抱かれた。今度はとても優しかった。キスも愛撫も、全てが繊細で
優しかった。慈しむような愛し方に、身も心も震えた。
 理子の言葉を遮るように、増山が唇を重ねて来た。唇を離し、
額をつける。
 「こんな時に、石坂先生の話しはしないでくれないか」
 甘い吐息が理子の火照った顔にかかる。事後の余韻がまだ
残っていた。それだけに余計に悩ましい。
 「ごめんなさい・・・。でも、気になる事があって・・・」
 「気になる事?」
 「あの先生は、私達の事を薄々気付いているんじゃないかって気がして」
 「まさか」
 増山は笑った。
 「でもあの先生、凄く勘が鋭いみたい。『僕も君の事を気にしてる』
って言ったのよ。『僕も』って言葉が気になるの。私が先生を気に
している事に気付いた事自体が凄いと思うし」
 「じゃぁ、俺もお前を気にしている事に気付いているって言うのか?」
 「そんな気がするんですけど・・・」
 増山は理子の髪を弄りながら、額に優しく口づけた。
 「心配しなくていい。もし、そうだったとしても、何も心配はいらない」
 「でも・・・」
 「もし、石坂先生が気付いていたとしても、あの人には何もできないよ」
 「どうして?」
 「気付いたからと言って、何ができる?俺は独身で、あの人は
既婚者だ。俺がお前を気にしているからと言って、何の問題がある?
俺はお前の担任だし、東大入試のサポーターでもある。気にして
当たり前だろう」
 「本当に、大丈夫なの?」
 増山はにっこり笑った。
 「本当に大丈夫だ。もうお前は、石坂先生の事は気にするな。
それともいっそ、お前の方からあの先生を翻弄してやるか?」
 「どういう意味ですか?」
 理子は怪訝に思った。
 「気のある素振りをして、のらくらするのさ。そうすれば、あの
先生はお前をそれとなく口説くに違いない。だが、お前はそれを
交わす。押してくれば引き、引いたら押す。そんな駆け引きを
楽しむといい。少しはストレス解消になるんじゃないか?」
 理子は増山の言葉に驚いた。嫉妬深い増山の言葉とは思えなかった。
 「先生の真意がわかりません。私にそんな事をさせても平気
なんですか?まさか、まだ怒ってる?」
 「馬鹿だな。怒ってなんかないさ。俺はもう、石坂先生の事に
関しては嫉妬する事はない。お前の本当の気持ちがわかったからな。
お前があの先生に興味を持って接触したって構わない。逆に、
お前に翻弄される石坂先生を見るのも面白そうだし」
 矢張り、増山の考える事がわからなかった。
 「でも先生。それで石坂先生が本気になってしまって、直接的な
行動に出てくる心配はないですか?」
 「それは無いだろう。職員室以外で接触する事はないんだし」
 「先生、私、そんな事をしたくないです。石坂先生には数学を
教えて貰わないとならないわけだし、あの先生は真面目な人ですよ。
私に好意を寄せてくれてるからこそ、一生懸命教えてくださってるんだし」
 「理子、誤解しないでくれよ。俺は別に、お前にそうしろと命じて
いるわけでも、頼んでいるわけでもないんだからな。お前がしたい
ようにして構わない、と言ってるんだ」
 「わかりました」
 「一つだけ、言っておく。あの先生が、俺達の事を気付いているか
否かについては、詮索するな。探る必要は無い。それと、向こうから
その事について匂わすような事があっても、気にせずにあっさり
交わすんだ。いいな」
 増山の言葉に理子は頷いた。
 増山は理子を抱きしめると、その肩に口づけた。理子は
それだけで感じて震えた。
 「理子、震えてる。どうしてだ?」
 増山の顔が理子を覗きこむようにして近づいた。
 「せ、先生が、好き・・・。だから・・・」
 「だから?」
 低くて甘く切なげな声で聞かれて、理子は余計に震えた。
 「震えるほど、好きなの・・・」
 理子は頬を染め、目を伏せてそう言った。至近距離過ぎて、
まともに視線が合わせられない。特にこういう時の増山の目は、
耐えられない程、セクシーだからだ。
 増山はふっと笑った。
 「本当に、可愛いヤツだな。もう、何度も体を重ねているのに、
一向に馴れないんだな」
 増山の指が、理子の首回りを撫でている。時々、ペンダントを弄る。
それだけで体が熱くなってくるのだった。増山の指先は、とても
すべすべしていて、その指でなぞられると物凄く感じてそそられる。
指紋の抵抗を感じない、不思議な指だった。
理子は耐えられなくなって、増山の胸の中に顔を埋めた。増山は
そんな理子の頭を優しく撫でた。それがとても心地良かった。
 「なぁ、理子・・・」
 「はい?」
 「この連休中、うちへ毎日来ないか?」
 「えっ?」
 理子は増山の顔を見た。増山は優しく微笑んでいた。理子は戸惑う。
躊躇いがちに言った。
 「そうしたいのは、山々ですけど、そんな事をしたら、どこまでも
流されてしまいそうです」
 「自信がない?」
 「ないです。それに、連休明けが怖いです。先生と会った後、
平常心に戻るまでにかなり時間がかかるんです。連休明けはすぐに
中間があるし、不安ですね」
 「そうか。まぁ、仕方ないな・・・」
 「そんな、寂しそうに言わないで下さい」
 「だって、寂しいんだからしょうがない。誰も居なくて、俺、
一人ぼっちだし」
 理子は軽く溜息を吐いた。なんだか、可愛い坊やのようだ。
優しく抱き寄せて、いい子いい子してあげたくなるような雰囲気だ。
母性本能がくすぐられる。
 「じゃぁ、来てもいいですよ」
 言ってしまった。結局、こうなってしまうのか。
 「いいのか?本当に」
 「その変わり、毎日お昼を御馳走して下さいね。それと、エッチは
無しって事で」
 増山は嬉しそうに笑った。
 「わかった。お昼は毎日俺が腕によりをかけて作ってやるよ。
エッチに関してはどうかなぁ・・・」
 「これだけは譲れませんから。約束して貰えないなら、
ここへは来ません」
 理子はきっぱりと言った。本当は、増山の懐でぬくぬくして
いたいのだが、矢張り自分を律していかなければ、この先が心配だった。
 「ふっ、わかってるさ。ちょっと恍(とぼ)けてみただけだ。
お前を困らせるような事はしないよ。約束する」
 そう言って、増山は熱いキスをしてきた。二人はまだ裸のままだ。
体と体が密着する。それをとても悩ましく感じる。自分の体に
増山の素肌を感じる。繋がっている時よりも、体が熱くなって
くる気がした。
 「そろそろ服を着ようか。いつまでもこのままだと、またお前を
犯したくなってくる」
 その言葉に、理子はカーッと赤くなった。なんて恥ずかしい言葉を、
爽やかに笑いながら言うのだろう。
 服を着た後、二人は受験の進捗度をチェックした。元々、
それが第一の目的だった。
 「実は、中間テストが終わった後、受験補習クラスが
できることになったんだ」
 と、増山が言った。
 偏差値60以上の大学を受験する生徒を対象に、希望者を募って
受験のサポートをするらしい。発案者は増山だ。朝霧で東大を
受験するのは理子しかいない。だが、一人で進めていくには
精神的にも大変な事だ。ライバルなり、切磋琢磨なりできる
相手がいた方が、勉強にも張り合いが生まれる。理子の為だが、
他の生徒の為にもなる。合格者が増えれば学校の格も上がるので、
校長は賛成した。
 毎週、火曜と金曜の放課後に行う。個人個人の能力や志望校に
沿った計画や課題を立て、随時チェックしては修正していく。
中心者は増山だ。東大受験の経験を生かし、受験のノウハウを
伝授する。それに、各教科の先生方が協力する形だ。
 「それじゃぁ、先生が一番大変じゃないですか。仕事量も
ハンパじゃなくなるでしょうに」
 「まぁな。でも、全てお前の為だから。どうってことはないさ。
ただ心配なのは、来年度以降も継続されたら、早く家へ
帰れなくなるのが悲しいな」
 「まぁ・・・」
 理子は赤くなって俯く。このストレートさに、まだまだ
慣れそうには無かった。
 「家で思い出したが、この先のスケジュール、俺はもう既に
おおまかに立ててあるんだ」
「この先のスケジュール?」
 理子はてっきり受験のスケジュールの事かと思ったのに、
話を聞いて驚いた。
 「3月の終わりに入籍して結婚式を上げる。お前はすぐに大学に
名前と住所の変更届けを出して、新しい名前で入学できるように
しないとな。家はお前が大学に通いやすくて、俺の職場もそう
遠くない所にマンションでも買おうと思ってる。時期が時期だから、
早く手を打っておかないと間に合わないから、夏休みの間に、
式場の予約をしておくつもりだ。新婚旅行は夏休みだな」
 嬉しそうに語る増山に、すぐには言葉が出て来なかった。
 「あ、あの・・・、随分と気が早いですね?」
 何となく、恐る恐る訊く。
 「早くは無いさ。3月ってのは、凄く混むんだぞ」
 「そ、それは、そうだろうと思いますけど、まだ受験もして
ないのに・・・。落ちたらどうするんです?」
 「そんな情けない事を言うなよ。理子には絶対に合格して
もらわないと。こういう枷(かせ)があった方が、身が入るんじゃないか?」
 と、笑う。
 「まぁ、万一落ちたら、キャンセルすれば済む事だ。
マンションの方は、これを機に一人暮らしするさ」
 二の句が継げない。何て答えたら良いのかわからなかった。
 「どうした?おとなしいな」
 「あ、あの・・・、なんか、その・・・思いもよらない事なので、
何と言ったら良いのかわからないって言うか・・・。あ、あの、
ここに住むんじゃないんですか?」
 「いいのか?ここで」
 「私は別に構いませんけど・・・」
 「そうか。そう言ってくれると嬉しい。だけど、俺は二人だけで
住みたいなぁ。お前に気を使わせたくないし、俺だって遠慮があるし」
 「えっ?先生が?」
 理子は驚いた。正月の時の様子を思い出して、意外に思ったのだ。
 「なんだよ。俺だって少しは気を使うよ。毎日の事なんだから。
それに、ここだと大学へ通うのが大変だ。俺はちょっと苦労した。
今考えているのは、田園都市線のどこかなんだ。渋谷へ出れば駒場は
すぐだし、本郷も半蔵門線を使えば早い。俺の職場へ通うにも
許容範囲だ。この先の異動にも対応できると思う」
 そうか。増山もいつかは朝霧高校から異動する。多分、県内の
東半分のどこかの高校だろうが、田園都市線なら横浜線と小田急線とも
繋がっているから、どこへ異動しても通えるだろう。
 それにしても、と理子は思う。あまりに急な展開だ。高校生の
自分にとって、最大の課題は受験だ。なのに、それに付随するかの
ように結婚問題にも直面している。本来なら、花嫁になる準備だけに
追われて、結婚前の幸せを満喫する時期でもあるのに、理子にとっては
それよりも受験勉強なのだ。複雑な思いが交差する。
 それと二つほど、疑問に思う事があった。結婚式に新居購入。
金額的にかなりの額になる筈だ。増山は簡単に口にしているが、
その辺の問題は一体どうなっているのだろうか。それに、結婚式が
3月末と言うのは早過ぎないか。入籍は構わないが、合格発表は
3月の半ばだ。それから僅か2週間後に挙式と言うのは、幾ら
なんでも親に対して申し訳ないような気がする。早くから準備
している増山家は良いが、吉住家としての面子の問題が絡んで
くるのではないか。理子の母はプライドが高い。蔑(ないがしろ)に
されたと怒るだろう。式に欠席する可能性も高くなる。
「先生、一つお願いがあるんですが・・・」
 「なんだ?」
 「結婚式の事なんですけど」
 「何か希望があるのか?」
 「その、入籍はともかく、式を3月の末に挙げるのは、
ちょっと早い気がするんです」
 理子は増山に、自分の思っている事を告げた。
 「そうかぁ・・・。確かにそうかもしれないな。ご両親にして
みれば、結婚の許可を担任の俺が貰いに行く事にまず驚愕する
だろうし、まして、入学前に入籍と聞いたら卒倒するかもな。
更に式の日取りまで決まっていて、それが目前ときたら、
いい気持ちはしないだろう」
 「両親にしてみれば、適齢期の娘ならともかく、これから
大学へ入ろうって言う未成年の娘ですから。ましてや、長女だし。
結婚の心づもりなんて全く無い状況で、いきなりすぐに結婚
するって言ったら、パニックになっちゃうような気がするんです。
そうでなくても、多分確実に反対されるでしょうけどね。頭
ごなしに否定される事は確実だと思います」
 理子は前途多難な気がした。自分が成人した大人の女性だったなら、
親がどんなに反対しようと結婚できるだろう。だが未成年だ。
親の許可無しに勝手に結婚できるのだろうか。
 「理子のお母さんは、絶対に反対するだろうなぁ・・・。
お父さんはどうだ?お父さんも反対すると思うか?」
 「父は多分、わかってくれると思います。例えば、相手も同じ
未成年者とか、何か生活上の心配があるとか、そういう問題を
抱えていれば別ですけど、相手が先生なら賛成してくれると思います」
 「そうか。じゃぁ、ちょっとは安心だな。片親だけでも同意が
あれば、法律上は結婚できることになってるからな」
 「先生。母は最後まで反対して、式にも参加しないかもしれません。
そうなった時、先生のご家族に迷惑をかけることにはなりませんか」
 増山は慈しむような笑みを浮かべて、理子の頭を撫でた。
 「大丈夫だ。家族には俺の方からよく話しておく。きっと理解して
くれる筈だ。それより、お前が一番辛い思いをするだろう?それでも、
俺と結婚してくれるのか?お母さんの反対を押し切ってまで」
 理子は頷いた。
 「本当はなぁ・・・。もっと早くに御両親に許可を貰いに行きたい
んだけどな。反対される事は目に見えてるから、そうなるとお前の
受験の妨げになる。大学卒業後の結婚ということであれば、頭
ごなしに反対される事はないんだろうが・・・」
 確かにそれは言えていた。相手は東大出の県立高校の教師だ。
高学歴の上に安定性のある公務員だし、おまけに父親は大手
製薬会社の取締役で資産家だ。本人自身も、外見も中身も
問題がない。反対する理由なんて無いだろう。
 「先生のご両親は、大学卒業まで待ったら、とか、おっしゃら
なかったんですか?」
 「言われた。だけど、俺は、待てないって言ったんだ。
この状況で1年以上も待つのに、更に4年なんて気が狂いそうだって」
 「そんな、大袈裟な」
 「大袈裟ではない。早く一緒になって、安定したいんだ。
人目を憚ったり、帰る時間を気にしたり、そういう制約の元で
更に4年も待つなんて我慢できない」
 情熱的な人だ。でも、そんなに熱くなり過ぎて、すぐに冷めて
きやしないのだろうか?そんな不安がよぎる。増山の気持ちは
十分理解できる。理子の家は制約が多過ぎる。厳し過ぎるのだ。
大学へ入学したら、平日は逢えないだろう。これまでできなかった
デートを週末にする事はできるが、5日間も顔を見ないで過ごす
事になるのは辛い物がある。普通にお喋りできなくて毎日顔を
合わせている今の状況も辛いが、5日間、全く顔を見れないのも辛い。
 週末のデートだって、泊まる事は出来ない。門限の9時までには
帰らないとならない。大学へ入って、ゼミの旅行なども、多分
参加させてもらえないだろう。友人と旅行することも、ままならない。
そんな日々が4年も続く。そう考えると、やっぱりさっさと
結婚した方が良さそうだ。
 「私も同感です。結婚というものに縛られる気がして、以前は
気乗りしなかったんですけど、よくよく考えてみると、私の場合は、
先生と結婚した方が自由になれる気がします」
 そんな理子の言葉に、増山は笑った。
 「ふっふっふっ・・・、それは甘いな、理子。俺が独占欲の強い
男だって事は、既にわかってるだろう?本当の意味で、自由に
なれると思うか?縛る相手が、親から俺に変わるだけなんだぞ?」
 その言葉に、理子も笑って返した。
 「本当の意味での自由って何ですか?人は誰しも、何かしらに
縛られてますよ?それにさっきも言いましたけど、私は先生を
信じてますから。先生が私を縛るようなら、それはそれで構いません」
 「そう言われると、俺はお前を自由にしてやらないといけない
ような気になってくるな」
 二人は見つめ合って笑った。
 「先生と一緒にいるのが一番幸せだから、結婚する事に決め
たんです。ああしたいとか、こうしたいとか、そんなのは二の
次です。ただ、そばにいてくれるだけでいいんです。だから、
早く一緒に暮らしたいって思うようになったんです」
 「理子・・・、ありがとう。俺もお前がそばにいてくれるのが
一番幸せなんだ。俺のそばで、お前が幸せそうに笑って
くれてるのが、俺の毎日の糧になるのさ」
 増山はそう言うと、理子を抱きしめた。

 増山の車で自宅へ向かっている途中、携帯のメール音が鳴った。
誰からだろうと見てみると、枝本からだった。枝本からメールが
来るのは珍しい。何事かと思って見ると、小泉とゆきの事で会って
話したい事があるから都合はどうか、という内容だった。
会いたいと言われても、連休中は毎日増山の家へ行く約束を
してしまっている。今さら1日だけキャンセルというのも、
理子自身気が引けて嫌だった。だが、内容が内容だ。捨てては
おけない。電話で済まないかと返信すると、直接会って
話したいとの返事が来た。携帯を持ったまま考えていたら、
増山から声を掛けられた。
 「どうしたんだ?何かあったのか?」
 「あの・・・、友達が、どうしても会って話したい事があるって・・・」
 「いつ?」
 「こっちの都合はどうかって聞かれてて・・・」
 「そうか・・・。じゃぁ、明日の午前中はどうだ?午前中に会って
話して来ればいい。俺のところは午後からでいいから」
 「いいんですか?」
「 ああ。どうせ毎日会えるんだ。一日くらい、半日でも大丈夫さ。
ただ、お昼は一緒に食べたいから、昼までに済ませてくれると
有難い。作って待ってるから」
 『作って待ってるから』、その言葉に感動した。何だかとっても
胸に沁みる。
 「話しが終わったら、電話してくれ。そうしたら迎えに行く」
 「わかりました。ありがとうございます」
 「いやいや、礼には及ばない」
 その物言いが、笑いを誘った。
 理子は早速、枝本にメールした。明日の午前中なら大丈夫なので、
9時に駅前のファミレスはどうかと返信すると、それで了解との
返事がきたので、取りあえずホッとした。
 「最上か?」
 増山の問いにドキリとした。
 「いえ、違います・・・」
 「そうか」
 増山はそれ以上追及してこなかったが、理子としては、本当の
事を言わずにいるのが少し辛かった。嘘をついてはいないが、
どうなんだろう?嫉妬深い増山の事を思うと、言わないでいた方が
良い気もするし、逆に言わずに後から知れた方が恐ろしい気も
してくるのだった。
 「明日、会った時にお話しします」
 理子はそう言った。取りあえず、話しを聞いてからにしようと思った。
 増山は意外そうに、「話してくれるのか?」と訊いてきた。
 「プライベートの事なのに、いいのか?」
 増山のその言葉を理子は嬉しく思った。やっぱり、この人は私を
尊重してくれている。私の全てを独占している態度を示しながらも、
肝心な所ではいつも尊重してくれているのだ。情熱的で堪え性が
無いけれど、あるライン以上には行かないように抑制している事を、
理子はいつも感じていた。
 セックスをしている時も、冷静さを失ってはいない事も
わかっていた。それとなく理子を労わってくれていた。あんなにも、
理子の中で切なげに悶えて悩ましい表情を見せながらも、まだ
故意に解放しきってはいないと感じるのだった。まだ若く、
経験の浅い理子を慮っての事だ。だから理子は、増山が求める
ままに応えたいと思うのだった。
 受験が終わって結婚したら、増山の思うがままに受け入れて
あげようと決めていた。
 「先生。大丈夫です。多分、会ったら話さずにはいられない
だろうと思うし」
 小泉とゆきの事は、以前から二人の間でも話題になっていて、
増山も気にしている事だ。それに察するに、あまり良い話しでは
なさそうだ。きっと、増山に話さないではいられないだろう。
親友の恋は、どうなるのだろうか?考えただけで、心が寒く
なってくるのだった。
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