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小説・散 華
1.夢の通い路 壱 1~30


散 華  1.夢の通い路 01

2011.01.24  *Edit 

 藤村裕也(ゆうや)は眉を顰めた。
 父である政也(まさなり)から聞かされた話しに、どうしても
反発してしまう。勿論、面と向かってはっきりとは断れない。
 確かに、該当者は少ない。だが、少なくはあるが、他に
いないわけではない。箒(ほうき)の家や柏木の家、それに
行田の家にもいた筈だ。それらの家ではなく、我が家が選ばれた。
理由は分かっている。分かってはいるが、それでも納得できないのだった。
 御一新から六十有余年。
 今更、乳母(めのと)もないだろう。
 確かに有力華族や金持ちの家では未だに乳母がいたりするが、
華陽院の家系は御一新以降、基本的に乳母を廃止している。
天皇家ではないのである。主上に対して畏れ多いとの理由から
廃止したのだった。
勿論、後継ぎの問題もあるから、場合によっては地元の健康な
女から授乳の提供を受ける場合もあった。だが、授乳だけである。
養育に関しては、別の人間を雇うのが常套だった。
 それなのに、何故、うちの文緒を養育も兼ねた乳母として
要求されるのか。若様を我が家へお迎えするのなら、まだいい。
だが、そうではない。
 裕也と文緒は、昨年の昭和五年四月、ソメイヨシノの花びらが
舞う暖かな陽気の中で祝言を挙げた。
前年にアメリカのウォール街で株が大暴落し、世界中が不況へと
突入し、金本位制を取っている国々が次々と金融危機に陥る中で、
日本は金を解禁すると言う愚行を実施し、震災の痛手に追い打ちを
掛けるように、経済は危機的状況へと進んでいる、そんな世情の
中での祝言だった。
 株の暴落により、都市部では倒産が相次ぎ、就職難により
失業者が蔓延し、金解禁の影響から深刻なデフレが発生し、
農作物は売れ行きが落ち価格が低下、冷害・凶作の為に疲弊した
農村部では娘を売る身売りや欠食児童が増加して社会問題に
なっていた。また国内では生活できずに、大陸に活路を求めて
渡って行く人々も増え始めている。
 そんな世の中でありながら、ここは穏やかな時間を送っていた。
 華陽院家は宮家の血筋を汲む華族である。徳川幕府の初期の頃に
独立した。独立した三代目の時に、経済が逼迫。多くの公家同様、
貧乏暮らしを余儀なくされていたが、五代目の当主、柾(まさき)の
代で蓄財に成功する。心身ともに精力的だった柾は、
多くの有力者と縁戚関係を結んだ。
 当時は公家諸法度、武家諸法度が厳しく、簡単に婚姻を
結ぶ事はできなかったが、頭の良い彼は、それらの法の目をかい潜り、
自身の勢力を着実に伸ばしていった。目立たぬようにひっそりと。
 だから表向きは貧乏公家を装ったままだった。金があると知れば、
人が群がって来る事は分かり過ぎる程、分かっている。そして、
金は溜めこむだけではなく、有効に使う。自身の家が長く
存続する為に、彼は四方八方へと手を尽くした。
 その結果の現在だった。
 柾以降、暗偶な当主は現れず、華陽院家の土台は揺るぎない
ものとなった。先々代の当主の時、岩倉卿の許で様々な政治的画策に
寄与した功により、伯爵位を授けられた。
 葉山へは、地租改正後に一族郎党の一部を引き連れて根を下ろした。
藤村家は、その一族の内の一氏族である。昔から法と経済に明るく、
その道で主家である華陽院家を支えて来た。縁戚関係にはあるものの、
藤村家は従家なのである。
 その主家の命令には逆らえない。
 現在の当主は、華陽院寛(ひろし)である。裕也より二つ年下だ。
妻は晴香と言い、寛より四つ下の絶世の美女だった。裕也の
妻である文緒より一つ年上で、はとこの関係にある。
 文緒の母方の祖母と、晴香の母方の祖母が姉妹だった。
美人姉妹で有名で、その血を受け継いだのか二人とも美人だった。
特に晴香は儚げな絶世の美女で、病弱だった事もあり、まさに
深窓の姫と言うに相応しい風情だった。
 この晴香に、華陽院家の若き当主が懸想したのである。
 晴香の母親は先代である大殿の姉にあたり、だから二人は
従兄妹の関係にあった。
 父と伯母は仲が良く、必然的に寛も伯母の家へ頻繁に出入り
していた。可愛い弟の息子であるだけに、伯母の良子は寛を可愛がり、
寛より四年後に生まれた晴香とは兄妹のように育った。
 病弱な晴香の世話を甲斐甲斐しく焼いていた寛だったが、
長じるにつれ美しさが増して来る晴香に恋心を抱くようになった。
 十三歳になった時、一族の中の年ごろの娘が何人かあてがわれ、
閨を共にした。それで性の味は覚えたものの、心を動かす事は無く、
嫁取りの目的は失敗した。
 寛の心は、数えで十歳になったばかりの美少女の上にあり、
他の女達と閨を共にしながらも、晴香への想いは強くなる一方だった。
その事に、父親も伯母も危惧の念を強く持つようになった。
 甲斐甲斐しく世話を焼く寛の様子に、最初のうちは微笑ましく
思っていた二人だったが、年頃になっても女性に興味を抱く様子は無く、
晴香ばかりをかまっている状況が普通には思えなくなってきていた。
 華陽院家は早くから近親婚を禁じている。皇族と公家の長い歴史を
見るにつけ、近親婚の危険を感じていた。だから五代目の柾は、
多くの外の優秀な血を取りこんで、一族婚を認めながらも
六親等以上離れていない者同士の婚姻を禁じた。
 このままでは、過ちを犯しかねない。
 そんな危惧から、寛は急きょ、東京の屋敷へ住まわされ、
学習院へ入学させられた。
 父親は方々へ縁談の話しを持ちこみ、学習院時代の寛は何度も
華族の娘たちとのデートを重ねた。だが、親の期待は虚しく、
誰にも心を動かさない。
 寛は決して堅物だった訳ではない。男としての欲望は十分にあって、
それを満たす為に良家の子女だけでなく、出入りの者にまで手を
付けていた。
 背が高く、凛々しい顔立ちの寛は人気があった。勉学よりも
女の方に熱心で、学び舎でも女泣かせで有名になり、寛に
捨てられた良家の子女の家からの苦情を父親は何度も受けて、
息子を叱りつける事度々だった。
 ただ彼は、良家の子女とは言っても、家格や爵位の高い家の
娘には手を付けなかった。後々トラブルが生じても与しやすい家の
娘を選んで遊んでいた。
 父親がそれに気付いた時、浮名を流しながらも考えて
行動している息子を頼もしく思ったのだった。
 そうして、寛は帝大を卒業するまで一度も葉山へ帰る事なく、
昨年の春に帰宅した。
 父親は大学卒業までに縁談をまとめたかったが、ついに叶わず、
それでも何とか、侯爵家の姫君との縁談を水面下で進めていた。
当事者である寛は、その事について何故か何も言わなかった。
頷きはしないものの、首を横に振る訳でもない。黙認状態だった。
 こうなれば、どんどん話を進めてしまおう。進退極るところまで
進んでしまえば、息子も承諾せざるを得ないだろう。
こいつもこいつなりに家の事は考えている筈だ。
 そう思って話しを進めたものの、相手の事情でなかなか話しが
進展せずに翌年まで持ち越した、その春先に事件が起きたのだった。


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~ Comment ~

Re: NoTitle>lime様 

limeさん♪

現代から一挙に昔へ飛びました。
時代と華族って設定で、スケール大きそうに
感じられますが、そうでもないのですよ^^
あまり大きくしちゃうと、収拾できなくなりそうですし(^_^;)
実際には、閉鎖的な狭い世界での、歪んだ愛憎劇が
繰り広げられる予定なのですが、まだ、書ける自信なく……。

長編を連載するって、つくづく難しいなと
今更ながらに感じています。
途中で構成変更するわけにもいかないですしね。
悩む毎日でございます。。。。

引き続き、読んでいただけると有難いです。
途中で放り出されないように、頑張りますね。(^_^;)

NoTitle 

昭和5年、そして華族の家系・・。
壮大なスケールですね。
設定がすごく細やかで、重厚感がすごいです!
まるで想像の及ばない世界ですが、この寛が、なんだか騒動を起こしそうな予感はしてきました。
いったい何が・・・・。
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