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小説・散 華
序章


散 華  序章 08

2011.01.18  *Edit 

 澪の兄、藤村幸也は華樹(はなき)グループの顧問弁護士だった。
 十年前、樹が現役から退くと同時にグループの顧問弁護士を
辞職した。乳兄弟であり、幼馴染でもあり、長年に渡って樹を
支えて来た幸也だったが、引退後は一切樹との関係を持っていない。
 澪が失踪した時、航平は何度も幸也の元を訊ねた。だが幸也は、
澪の消息は「知らない」の一点張りだった。樹との関わりを
一切持っていない事にも疑問を抱き、本人だけでなく周囲の
多くの人間を取材したが、その理由は判らなかった。ただ唯一
分かったのは、二人は他人が思う以上に仲が悪いようだ
と言う事だった。
 だが何故そうなのかは分からなかった。他人が口にする理由は、
あまりにもありきたりで、そんな単純な理由は信じられなかった。
 幸也は引退して五年後に脳梗塞で亡くなった。その葬儀の時にも
航平は澪に逢える事を期待して参列したのだが、彼女は来なかった。
「澪さん…。あなたはお兄さんの葬儀に来られませんでしたよね。
幸也さんは、あなたの消息を知らないと言っていた。それなのに、
あなたは幸也さんのお孫さんとは面識があるようだ…」
 幸也の孫娘は二十代半ばに見えた。華陽院の血縁者は
概ね実年齢よりも若く見える人間が多い。年より若く見えるのが
華陽院の血の特徴なのだろう。そう考えると、彼女は
二十代半ばよりも年下と言う事は無い筈だ。
 失踪したのが二十五年前。二人の様子から考えると、
この二十五年の間に何度も逢っていたとしか思えない。
しかも、澪を見た彼女は少しも驚いた風では無かった。
久しぶりに逢ったと言った感じはまるで無い。それに澪は、
この建物の作りも、営業形態も全て把握しているように思える。
「航平さん。あなたが私の消息を知る為に兄の元へ何度も
訪ねてらした事、私、知ってます」
「なんですって?」
「ごめんなさいね。兄は知っていて、口を噤んでいたの。
だって私は、誰にも居場所を知られたく無かったから」
 澪はそう言って、コーヒーカップを手に取り口に付けた。
「幾ら探しても全く消息が知れなかった。余程の事が
あったんだろうとは思いました。あなたが苦しんでいたのも
十分わかってた。でもだからと言って、何故何も言わず、
手紙のひとつさえ残さずにいなくなってしまったんです。
せめて僕だけにでも……」
 澪は悲しそうな顔をした。
「ずっと、この二十五年もの間ずっと……、私を探して
くれていたのね。若々しくて快活だったのに、男として
一番大事な時期を私の為に……」
 美しい顔に翳が射した。
「あなたは変わらず美しいままだ。僕はこんなに老けて
しまったのに」
 澪は首を左右に振った。
「航平さん……。歳月は人を変えるけれど、あなたは
変わってないわ。確かに外見は相応に歳をとったけれど、
その瞳を見ればわかるの。昔のままのあなただって」
「それを言うなら、澪さんだって同じだ」
 航平の言葉に澪は「ふふふ」と笑った。
「ねぇ、航平さん?さっき私と再会した時、すぐに私だって
思ったの?澪によく似た娘なんじゃないか、とか思わなかった?」
 航平はその言葉に驚いた。全く思いもしなかったからだ。
確かに、言われてみればそう思うほうが自然かもしれない。
「僕は微塵も疑わなかった。あなたを見て、あなた以外の
人間を思い浮かべるわけがない」
「あなたは不思議な人だわ。澪を知っている人間が今の私を見て、
藤村澪だと思う人なんて、きっと一人もいやしない。
澪に生き写しの娘に違いないって思うわよ?」
 口の辺に笑みを浮かべながらも、瞳は哀愁を帯びている。
「あの人との間の隠し子か……、あの人以外の男との間の子供で、
それが原因で二人は結婚しなかったんだとか、
そんな風に思うでしょうね」
 どこか嘲笑うような雰囲気に、航平は思わず強く言葉を発した。
「あなたに子供なんていない!それは僕がよく知っている」
 驚いたように目を瞠った後、澪は静かに嗤った。
「随分と確信ありげにおっしゃるのね」
「当然じゃないか。僕がどれだけあなたの周辺を調査したか、
知らないわけじゃないでしょう?あなたに子供なんて、
絶対にいない。それに、あなたを間近で見て、やっぱり
間違いなく澪さんだって思ったんだ」
 胸の内が熱くなってくるのを感じた。そして、それに比例
するように、発する言葉も熱くなってきた。澪はそんな航平に
戸惑いの様子を僅かに見せていた。
「どうして、間違いないって思ったの?だって私は、
本当ならおばあちゃんなのに……」
「見た目の若さは、華陽院の特徴だろうと思った。華陽院家の
人々は総じて実年齢より若く見える。だが、それより何より、
間違いないと確信したのは、あなたのその瞳だよ。
濡れた黒曜石のように漆黒でありながら、僅かに虹色の光を放つ、
その特徴的な瞳。その瞳を持つ人間は、あなたしかいない」
 航平の言葉に、澪は顔を僅かに歪めた。そして、
唇が微かに震えている。
「あなたのお父さんもお兄さんも、その瞳はあなたとは全く違う。
そして、さっき逢った幸也さんのお孫さんも、矢張りあなたの
瞳とは違う。僕の知る華陽院家の人々の中に、あなたのような
瞳の人は誰一人としていない。あなたは藤村澪さんだ。
澪さん以外の何者でもないんだ」
 そうだ。
 それを知っているのは僕だけだ。
 この虹色の光彩を放つ黒き瞳に、きっと多くの男達が
魅せられてきた事だろう。だが、そこに彼女自身の真実を
見出した男は一人もいなかったに違いない。
 孤独で気高き魂が発する虹彩。
 他の誰でも無い、藤村澪自身が放つ光。
 航平は、自分の強き想いを込めて、澪を見つめた。


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