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小説・散 華
序章


散 華  序章 05

2011.01.09  *Edit 

 告別式が終わり、関係者のみが霊柩車の後を追って去った
華陽院邸は、ひっそりとしていた。葬儀会社と手伝いの
人間達だけが、いずれ戻って来る人間達を出迎える為の
準備に忙(せわ)しく動くのみで、弔問客は潮が引くように
サァっと消えて行った。
 一人残った航平は、山中に佇む屋敷を見渡した。
 あの人は来なかった…。
 まさか、既に亡くなっているのか?
 あれ程探しても見つからなかったのは、既にこの世の人では
無いからだったのか…。
 そんな思いが胸をよぎり、航平は軽く頭を振る。
 そんな筈はない。そんな筈は。
 線香の煙が消え去った一帯は、小春日和の長閑な里に様変わり
している。樹も澪も、この屋敷で育ったのだった。
 手入れは行き届いているものの、文化財に指定されそうな古い
邸宅を眺めるにつけ、彼女の来し方を想像する。取材を重ねて
色んな事を知ったが、肝心な部分はベールに覆われたままだ。
 二人の周囲の人間から、色んな話しを耳にした。好意的でない
情報の方が遥かに多かったのは妬みがあったからだろう。
そして、そこから真実を見出すことは出来なかった。
 樹と澪。
 共に切っても切れない間柄でありながら、愛し合っていながら、
何故、一緒にならなかったのか。何故、澪は失踪したのか。
 澪は樹との関係を自身で断ち切ったのだろう。だが、完全には
断ち切れていない筈だ。樹の死に遭遇して、断ち切った筈の鎖が
まだ繋がっていた事を自覚し、逢いに来ずにはいられないのでは
ないか。
 あの人に逢いたい。逢って真実を知りたい。そして今度こそ、
あの人を受け止めたい。
 庭の片隅に秋咲きの白い薔薇が咲いているのが目にとまった。
花の盛りは過ぎていて多くが散りかけている。その中で一輪だけ、
まだ花びらを散らさずにいる花があった。だが、手に触れたら、
あっと言う間に全てを散らしてしまいそうな儚げな様子で、
ひっそりと咲いている。
 あの人もこんな風に、目立たぬ所でひっそりと咲いて
いるのだろうか。
 彼女の佇まいに似ていると思いながら、ぼんやりとその様子に
魅入っていたら突然、航平の中で何かが凝縮したように、
ひとつの思考に纏まった。
 懐から急いで携帯電話を出し、最寄りのタクシー会社へと
電話をした。
 思っていたよりも早く来たタクシーに乗り込み、
行き先を告げる。火葬場だ。
 何故、思いつかなかったのだろう。
 こんなに大勢が集まる告別式に、二十五年も身を隠していた
人間がやってくるわけがないじゃないか。自分ですら、
昔の同僚に気付かれたのだ。
幾ら高齢になっているとは言っても、澪なら気付く人間は多いに
違いない。樹との関係を世間で大きく取り上げられていた人間だ。
いわば有名人である。そして、華陽院家とは親戚でもあり、
ここで育ったのだ。彼女が来たら大騒ぎになるに違いない。
 それを予測できない程の愚かな人間ではないし、わざわざ
華陽院家の人々に不愉快な思いを意図的にさせるような
心無い人間でも無い。
 航平の気持ちは急いた。心臓の動悸が激しくなってきている。
 きっと逢える。きっと来ている。
 その確信にも似た思いの根拠が何処から来ているのかは
分からない。自分の強い願望が、そう確信させているだけ
なのかもしれない。
 火葬場に着くと、釣銭も受け取らずに転げるように車から降りた。
そして周囲を見渡す。建物の中にはいないだろう。きっと一人で
ひっそりと見送っているに違いない。
 そう思って、周囲を探しまわる。探し回りながら、今の彼女を
想像する。自分が知っているのは二十五年前の彼女だ。彼女は
実年齢よりも遥かに若く見えたが、流石に今はそれなりに
なっているのではないだろうか。
 火葬場の、少し奥まった場所へと足を踏み入れた時、
一人の女性がうずくまっているのが目に入った。
山茶花の花びらがその女性の周囲を囲むようにして
散らばっている。体を震わせている。泣いているのか。
 何故、こんな場所で女性が一人で泣いているのだろう。
 不思議に思いながら一歩足を踏み出したら、その女性が
振り向いた。
 涙に濡れた、美しい顔。
 それは紛れもなく、藤村澪だった。


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