ChaoS

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

小説・クロスステッチ第2部 <完>
21.ふたつの鼓動 ~ 22.美しき花、あとがき


クロスステッチ 第二部 22.美しき花(最終章) 07

2010.12.14  *Edit 

「どうして、謝るの?」
「いや…、君を困らすような事を言ってしまったかな、と思って」
 志水は視線を逸らせた。
 理子は返すべき言葉が浮かんで来ない。この間の病院の時と
同じ雰囲気を感じて、どう返事をしたら良いのか混乱した。
「なんか、雰囲気が暗くね?」
 突然、富樫がそばに来てそう言うので、理子はビクッとした。
「どうした?テストの結果がイマイチだったのか?それとも
愛理に生気を吸い取られたとか?」
 その言葉に、思わずプッと吹きだした。
「愛理があまりに興奮するものだから、ちょっと
疲れちゃったのは事実かな」
 理子はそう言って笑った。
 富樫は「だよなー」と言いながら、理子の隣に腰かけた。
「普段から感情派だけど、さすがに今日は激しかったよな。
まぁ、それがあいつの面白い所でもあるけどな」
 富樫の表情が柔らかなのに、理子は少し驚いた。いつも
どこかしら尖っているような、そして底知れぬ冷たさを
感じさせる表情をしている為、意外な一面を見た思いだ。
「どうした?」
 不思議そうな顔をした。
「ううん…。何かちょっと、いつもと違う雰囲気を
感じたものだから」
「俺が?」
 理子の言葉に酷く驚いている。
「お前の気のせいじゃないのか?」
 思わぬ責め口調に、理子はたじろいだ。
「うん…。そうかも。気のせいかも」
「そうだよ。お前、何かと疲れてるからだろう。
冬休みは、どうするんだ?」
「うーん。勉強くらいしか、予定が無いかなぁ」
「ダンナのサポートするんだってな。試験も終わったんだから
パーッと楽しみゃぁいいのに、御苦労なこった」
「そう言う富樫君は、パーッと楽しむわけ?」
「俺か。勿論、楽しむさ。林んちへ遊びに行って、
関西を豪遊する」
「ええーっ?」
 隣に座る志水も同時に驚いていた。
「豪遊って?」
 富樫はニヤリと笑った。
「まぁ、豪遊って言うのは大袈裟だけどな。林の帰省に
付き合って、俺も岡山に行って、あいつんちへ泊まらせて
貰うんだ。それで、二人で周辺の史跡や古墳を見て回る事にした」
 交通費節約の為に、富樫のBMW R1200RTに
二人乗りして行くと言う。
「奈良のゼミ終了後に帰宅する予定なんだ」
「じゃぁ、1カ月以上を林君と過ごす訳なんだ」
「そういう事になるかな」
「なんか、女っけなくて、つまらなくない?それに、
いつも二人一緒だよね」
 理子はわざとニンマリして言うと、「変な誤解するなよな」と
鋭い視線を浴びせられた。
「女なんて、どこへ行ったっているだろうが。俺達二人が
その気になれば、幾らでも調達できるんだよ」
「まっ!厭らしい」
「お前、案外、憎ったらしい女なんだな」
 ガンを飛ばすような目つきをされて、理子は笑った。
いつも大人ぶって澄ましている富樫をいじるのは面白い。
それにしても羨ましい。こういう時、男の子っていいなと思う。
おまけに、R1200RTだなんて、大学生の分際で
信じられないバイクに乗っている。その数字の通り
1200ccの大型スクーターで、高級車だ。
長距離向きのバイクだから、岡山までのタンデムツーリングも
楽だろう。ただ、大きいだけに渋滞中の車の脇を
すり抜けて行く事はできない。
雅春もバイク好きだった。それを知ったのは結婚してからだ。
就職してから走る時間が無い為、実家の倉庫に眠っているらしい。
なんだか勿体ない気がする。県立高校は通勤に公共交通機関を
使用しなければならない決まりの為、まさに乗る機会は
無いと言えた。
打ち上げは、この後4時まで続いてお開きになった。
愛理が化粧を直して戻って来ると、場は一層賑やかになり、
久しぶりにみんなと賑やかに過ごせて、理子の心は明るかった。
次に皆と会うのは4月だ。その前の春ゼミで、約半数の
友人達と再会するが、残りは新学期まではご無沙汰となる。
翌日から、理子は毎日勉強漬けになった。
雅春から春休み中にやっておいた方が良い勉強を
指示されたのだった。
 いずれは授業でも学ぶ事になるが、習得するのに時間を
要する毛筆だった。生の史料を読み込む為に必要となる。
資料として整理されている物は現代活字で印刷された冊子に
なっているが、新しく発見されたりする場合もあるし、
現物からでないと読み取れない事もある。
 記録は全て毛筆だ。記録書は楷書で丁寧に書かれているから
判読するのに苦労は無い。だが、日記や手紙の類は、
そうはいかない。公家の日記の場合は、教養高いだけに
読みやすいが、武家の日記や手紙や歌などは個性が強く
読むのに苦労する物が少なくない。
 そう言った史料を正確に読み取る為には毛筆の素養は必須だ。
特に、行書や草書が読めなければどうしようもない。
「君は綺麗な字を書くけど、習字の心得はあるの?」
 と、雅春から訊ねられ、首を横に振った理子だった。
 小学校へ入学して間もない頃、習字教室へ入れられた。
母の意向だ。だが理子はあまりにも退屈で一カ月で止めてしまった。
学校での習字の授業も苦手だった。
 習字を習っていたからと言って、癖のある崩し字が読めるとは
限らないが、文字には流れと言うものがあり、習字の心得が
あった方が、筆の運びが分かりやすく、読み取るコツも
身に付きやすいと言えた。
 そういう訳で、理子は急きょ、習字教室へ通うように命じられた。
雅春の知り合いの書道家の先生が横浜市内に住んでいる為、
月水金の週3回、午前中に通い、そこで、普通のお習字を
習うのとは違うやり方で、毛筆の基本を教わるようになった。
そして、家では多くの毛筆史料や、判読方法のテキストを学習した。
 普通に歴史に進学し、卒業して就職して行く分には、
ここまでやる必要は無いのだが、雅春は理子は多分、
卒業後も専門の道へ進むのではないかと予測していた。
それなら、今ここでしっかりと身につけておいた方が
本人の為だと思って提案した。
 重要な歴史史料を判読する場合、最終的に専門の鑑定を
仰ぐのだが、研究者として基本的な解読が出来なくては
自分の思う研究は進まない。
 そんな雅春の思いを受けて、試験は終わったと言うのに、
昼間は毎日勉強に励む理子だった。また、合間に、
雅春の書架から興味を覚えた小説を抜き取っては読んでいた。
こんなに、好きな事に打ち込める時間を持てるのが幸せだった。
 雅春と別居していた夏、気を紛らわす為に随分と勉強に
励んだが、あの時は集中力に欠けていた。何かと悲しい思いに
襲われて、浮かんでくる雅春の面影を振り払うように
勉強していた為、楽しい思いが全く無かった。
 だが今は違う。
 朝目覚めて、隣で眠っている雅春の綺麗な顔を確認してから
朝食と弁当の支度をし、彼の為に衣服や家の中を綺麗にし、
起きて来た彼と一緒に楽しい朝食を取り、元気に出勤して行く
姿を見送る。
 そして、学校で一生懸命働いているであろう雅春の姿を
連想しながら、自身も勉強に励む。帰宅が遅くて、夕飯までの
時間が長い彼のお腹の為に、昼間はおやつを作っている。
それを弁当と共に持たせているのだった。甘い物好きな雅春は、
それをとても喜んでいる。夕方近くになると、買い物へ出て、
雅春の為に晩御飯の支度をする。
 3学期に入ってから、雅春の帰宅時間は10時近くなった。
その為、理子は不本意ながら先に一人で食事をするのだった。
寂しいけれど我慢する。雅春が理子の為に録音したフルートと
ギターの曲をBGMにして、雅春の事を想いながら食べた。
優しい音色を耳にして、彼の愛が深く胸に沁みてくるのだった。
 そして、彼を待つ間に入浴を済ませ、ピアノの練習をし、
本を読む。
 10時頃、少し疲れた顔をした雅春を笑顔で出迎え、
熱い口づけを交わし、食卓を整えて御給仕をする。
 いつも、理子の作った食事を美味しそうに食べてくれる姿を
見るのが幸せだ。この顔を見たくて、料理にも熱が入るのだった。
 雅春は食事の後に翌日の準備をしてから入浴して床に就く。
大体、12時近いので、理子は先に休むのだった。風呂上がりの
雅春にまとわり付き、熱い抱擁と口づけを交わしてから
一人先に寝室へ入る。
 その瞬間が、一番寂しかった。
 目覚めれば、また愛する夫と逢えるのに、後ろ髪を
引かれる思いがする。
 昼間はあまり寂しく感じなくなった。朝の別れも、
前程寂しくない。夜に必ず帰って来る。そして、再び抱きあえる。
そう思うからだったが、寝る前の別れは何故かとっても
寂しく感じるのだった。
 雅春も同じなのだろう。ギリギリまで理子を離そうとはしない。
「先生…、今日の学校はどうでした?嫌なこととか、
ありませんでした?」
 雅春に抱きしめられながら、その日の出来事を訊く。
「大丈夫だよ…。ちょっとやそっとの事で動揺したりはしない。
君を想うと、大抵の事はくだらないと思えて気持ちが楽
になるんだ…」
 雅春が、理子の寝巻のボタンを少し外して、
その胸の膨らみに唇を這わせた。
 体が火照り、疼いてくる。
「先生、やめて?…そんな事されたら、…欲しくなっちゃう」
 理子の言葉に力を得たように、その唇は降下して先端まで進んだ。
 口には含まずに、唇だけでそっとなぞる。それがとても悩ましい。
 指がまだ閉じられているボタンにかかり、1つずつ外しだした。
「先生……」
「たまには、いいだろう?…君をずっと抱かないでいるのは、
俺には無理だ」
 毎日忙しくて帰宅の遅い事もあり、平日は互いに
自重しているが、時々こうして、我慢しきれなくて事に
及んだりもするのだった。
 理子も学校へ通っている時には、さすがにこういう事は
無かったが、今は休みだ。多少寝不足になっても、理子の
生活には差し支えは無い。逆に雅春の方に影響があるのでは
ないかと最初は心配したが、結婚した時ほどの長い時間では
無いので、就寝時間への影響は少なかった。それに、
そういう日の翌朝の雅春は、何時にも増して元気だった。
「注射してる方が元気ってのも、笑えるよな」
 爽やかな朝の光の中で、これまた爽やかな笑顔でそんな事を
言う雅春を眩しげに理子は見つめる。
 こんな毎日を愛しいと感じるのだった。


          次回、最終回です。。。。。




スポンサーサイト



*Edit TB(0) | CO(0)

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。