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小説・クロスステッチ第2部 <完>
21.ふたつの鼓動 ~ 22.美しき花、あとがき


クロスステッチ 第二部 21.ふたつの鼓動 07

2010.12.10  *Edit 

 理子の生活は事件前と同じようにスムーズになった。
 雅春との愛を確認した翌日、理子は教室へ行く前に一人で
カフェへと向かった。近づくにつれて、僅かに心がざわつくのを
感じたが、心を強くして中へ入り、トイレの前までやってきた。
少し気持ち悪さを感じたが、理子は昨夜の雅春との時間を
思い出し、ゆっくりと大きく息を吸って心を落ち着かせ、
自分の中の雅春を探した。
 この上なく幸福そうな笑顔が浮かんできて、彼の愛に
包まれている事を感じ、自分の周囲にある空気が
暖かくなったような気がした。
 大丈夫。何も怖くない。
 そう思ったら、気持ち悪さが解消された。
 暫くそこに佇んで、事件の日の事を反芻した。
 神山佑介…。
 優しそうな顔をしていた。きっと本当は優しい人に
違いない。姉を思うあまりの犯行だ。勿論、犯罪行為では
あるが、何故か理子には憎めない。
 神山美鈴の、切なげな悲しい表情が浮かんだ。悲しみに
暮れる彼女の姿は理子でさえ胸が痛くなのるのだから、
弟なら尚更だろう。だが、人の心はままならない。だからこそ、
理子はこの愛を大切にしなければ、と改めて思うのだった。
 教室へ行くと志水が来ていた。
 隣に座った理子を見て、眩しそうに目を細めた。
「おはよう」
「おはよう。今日は君がいないから驚いてたんだよ。
まさか、寝坊したわけじゃないよね?」
 その言葉に、クスリと笑う。
「寝坊って、2時限目よ?一体、私が毎朝何時に起きてると
思ってるの?5時起きなのよ?そんな人間が寝坊して
この時間になるかしら?」
 とは言え、実は寝坊したのだった。
 夕べの深い交わりに、全てを委ねて眠ってしまい、
ただ愛だけを思ってぐっすり寝たからなのか、
目が覚めたのは6時だった。しかも、雅春に
揺り起こされたのだった。はっとして驚き跳ね起きて、
大失態だ~と恥ずかしい思いに駆られた。
「君が寝坊するなんて、珍しいよな。余程、夕べのが
効いたみたいだな」
 雅春はベッドに寝そべったまま、跳ね起きた理子を
可笑しそうに見ている。
 理子は顔を赤くしながら、「どういう意味ですか?」と
少し睨み気味に訊いた。
 雅春はニヤリと笑うと、「俺の注射の効き目だよ」と
言った。
「俺の注射?」
 一体、どういう意味なんだ、と訝しみ、すぐにその意味が
分かって理子は真っ赤になった。
「先生のエッチ!スケベ!変態!」
 思わずそう叫ぶと、雅春は楽しそうに笑いながら、
「へぇ~。ウブだと思ってたのに、意味わかるんだ~」
 と感心したような顔をした。
 理子は返す言葉もなくて、プイとそっぽを向いた。
 そんな理子の肩に雅春は手を掛けると、
自分の方へと引き寄せた。
 理子は裸の胸に抱き寄せられて、急に胸が高鳴って来た。
 2人とも、裸のまま眠ってしまっていたのだった。
「もう1本、打っとくか?」
 真面目な顔で、朝からそんな事を言うのか。
 耳元に熱い吐息を感じる。柔らかな唇が耳たぶに
そっと触れてたまらない気持ちになる。
「先生…、今日はお休みじゃないんですよ?お互いに
学校へ行かなきゃならないのに」
 赤くなって震える理子に、雅春はフッと笑った。
「俺の妻は、相変わらずつれないな。まぁ、いつも通りで
安心したけど、ちょっと残念だ」
 『俺の妻』と言われて、なんだかこそばゆい気がした。
「じゃぁ、そろそろ起きるか。あまりグズグズしてると
お袋が心配してやって来そうだもんなぁ」
 ああ、そうだった。
 お母さんは今頃、不審に思いながら朝食の支度を
してくれているに違いない。
「大丈夫だよ。昨日の事件のせいで、きっと疲れて
いるんだと思ってる筈だ」
 こんな時、いつも不思議に思う。どうしてこの人は、
口にして無い感情を読み取ってしまうのだろう。
 そんな今朝の光景を思い出し、思わず顔が熱くなった。
 その理子の変化を見て取った志水が、
「やっぱり寝坊したみたいだね」と言った。
 ああ、しまった。この人も敏感な人だったんだ、と、
理子は今朝の事を思い出した事に後悔した。
「寝坊は…、したわよ、ちょっとだけ。でも、
それとこれとは関係ないから」
 理子は、教室へ来る前にカフェへ寄った話しをした。
それを聞いた志水は酷く驚いた顔をした。
「どうして、そんな事を…」
「昨日、お母さんや先生と色々話して、自分は本当は
もう大丈夫なんだって悟ったの。だから、それを確かめにね」
「だからと言って、一人で行くなんて無謀だよ。万一、
昨日みたいに倒れたらどうするんだい。僕が来るまで
待っててくれれば良かったのに」
「ありがとう。でも、大丈夫だった。自信があったし、
一人じゃなきゃ意味が無かったし」
 そう。一人じゃなければ駄目なのだ。一人で乗り越えてこそ
意味がある。これを乗り越える事こそが、二人の愛を
守る証しだと思った。
「私、もう本当に大丈夫よ。今日からみんなと一緒に
カフェに食事に行くの、全然オッケーだから、心配しないで?」
「本当に…、平気なのかい?」
 半信半疑といった顔をしている志水に、理子は笑顔で頷いた。
「カフェに行って、すっかり元の自分を取り戻した事を
感じたの。だから、何の心配もいらないよ?…あ、明日、
授業の後、病院で検査なの。それに付き合ってくれたら
心強いんだけどな」
「勿論だよ。だけど、いいの?僕で…」
「うん。先生は仕事だしね。お母さんが授業が終わる時間に
駒場まで来てくれるって言ってるんだけど、志水君も
一緒に来てくれると安心と言うか…。いいかな?
お母さんも一緒だけど…」
「僕はいいけど、お母さんの方はどうなのかな。
それに、あの人も…」
 心配そうな顔をしている。
 これまでの彼だったら、こんな遠慮はしなかっただろう。
矢張りあの事件は周囲の人間にも影響を及ぼしたようだと
理子は感じた。あの時に一番辛い思いをしたのは確かに
雅春だろうが、志水も相当辛い思いをしたに違いない。
どれだけ自分を責めたのだろう。
「大丈夫。2人ともよく分かってくれてるから。
それにやっぱり、女2人で行くよりも、男性も一緒の方が
断然心強いもん」
 理子の言葉に、志水はホッとした顔をした。

 この日、遅くに心配顔で帰宅してきた雅春に、
理子は駆け寄り抱きついた。
 雅春は全身に理子の匂いと温もりと重さを感じて、
心が潤おってくるのだった。
「おかえりなさい」
「ただいま」
 顔を上げた理子は明るい顔をしていた。それを見て
雅春はホッとし、唇を重ねた。そのまま押し倒したい
衝動に駆られる。すぐにでも理子と交わりたい。
理子を欲する気持ちは相変わらず強いようだ。
 名残惜しい気持ちのまま、唇を離した。
「先生……」
「うん…」
 暫く見つめ合う。互いの思いが交差する。言葉を
交わさなくても、瞳が語っていた。雅春は理子が乗り越えた
事を知り、理子は雅春がそれをわかってくれた事を知った。
 雅春はそっと手を伸ばし、理子の肩を抱き寄せた。
髪の匂いがフワッと立ち昇って、鼻腔をくすぐる。
その髪を優しく撫でながら、「良かった」と呟くように言った。
「君を信じてたよ」
 理子は雅春の腕の中で頷いた。
 夕べの事は、雅春にとっては賭けだった。理子には
確信を持って臨んでいるように見せていたものの、
内心では多少なりとも危ぶんでいたのだった。
 彼女が良くなってきている事は、この一カ月の間に
感じていた事だし、そろそろ大丈夫なのではないかと
思っていた。現場のある大学へ行くのに、最初のうちは
不安を伴うだろうが、徐々に馴れて平気になって
ゆくだろうと踏んでいた。
 だからこそ、倒れたと聞いてショックだったし、
男子を怖く思った事には更に憂鬱な思いに襲われたのだった。
 ただ、雅春に対しては他の男子とは違う気がした。
他の男子に対しては距離を置かないと不安を感じたようだが、
雅春に対しては、それは無い。帰宅した雅春と、いつもの
ように抱き合いキスを交わした。雅春と触れあう事には
恐怖を感じていない。
 ペンダントとブレスレットの件については、旅行中から
考えていた事だった。彼女が唸されている夢の内容を
よくよく吟味してみると、行きつく所はペンダントと
ブレスレットだった。そして、事件後の事を何度も反芻し、
矢張り原因はそこにあると結論した。
 彼女がそれらを失いたくない気持ちはよくわかる。
雅春が彼女だったら、矢張り同じように思うだろう。
実際、理子が編んでくれたマフラーや帽子をそれに
当ててみれば、これらを奪われたとしたら言葉には
尽くせない程の痛みを覚えるに違いない。
 ずっと身につけていた事で、その気持ちは更に
強いのだろう。だが、例えそれらを失ったとしても、
二人の愛に変わりは無い筈だ。何が起ころうと愛は
揺るがない。それを彼女に伝えたかった。
 ゆっくりと、全身全霊を込めて愛した。体と心に
2人の愛を刻むように。
 理子の中で自分が、そして自分の中で理子が溶けて
ゆくような感覚が押し寄せて来た。魂が融合し
一体化したように思う。大きな歓びだった。互いの中に
互いの存在を感じ、心が強くなってゆくのを感じ、
きっとこれで大丈夫だと確信した。
 朝、すっきりと目覚めて隣を見たら、理子がまだ寝ていた。
とても満ち足りた顔をして眠っている。その寝顔を見て、
雅春も満たされた。あまりに幸せそうに眠っているの
で起こすのが可哀想なくらいだった。
 そして、目覚めた理子は、いつもの理子だった。
 退院してからも理子はいつものように笑顔で雅春を
迎えてくれていたが、瞳の奥に僅かに翳りがあるのを
雅春は感じていた。事件の傷痕をずっと引きずっているのが
分かった。だが今朝の理子の瞳には何の翳りもなく、
雅春が惹かれたピュアな、くったくのない瞳だった。
 思わずからかうと、いつもの理子らしい反応が返ってきて
安心した。
 これなら大丈夫だ。
 そう思ったが、それでも一抹の不安は拭えなかった。
 そして、こうして帰宅して、変わらぬピュアな瞳を
向けられて、本当に彼女が乗り越えた事を悟ったのだった。
 乗り越えてくれると信じていた。だが、どれだけの時間が
掛るのか、それは雅春には分からない事だった。
だからこそ、こうして乗り越えてくれた事が嬉しくて
たまらない。これ以上の時間を費やすのは雅春自身も辛いし、
本人にとっては更に辛い事だっただろう。
 荷物を置き、リビングに入ると母に「おかえり」と
声を掛けられた。母がいる事をすっかり忘れていて、
思わず飛びのく程驚いたのだった。
「まぁ、何を驚いてるの?」
 博子が呆れたように笑った。
「いや……」
 すっかり2人の世界に浸っていたとは、さすがに言えない。
「先生。大学院から郵便物が届いてますよ」
 理子の声に我に帰る。
 やっと来たか……。
 それは、首を長くして待っていた物だった。


          拍手&コメント、ありがとうございます。
          非常に、とっても、とーっても、嬉しいです。
          読むのを楽しみにしてくださっている方がいるのを
          知り、とても励まされました。
          あっさりした文体のようで、回りくどい説明的な
          部分もあったりで、あまり万人受けしない書き方と、
          ベタなお話で、読む人を選ぶ作品なのかな、と言うか、
          それはこの話に限った事ではなく、私の書く物全てに
          言えることなのかな、と思うのですが、それでも
          楽しんで読んで下さる方がいらっしゃるのが何より
          嬉しいです。
          さて。
          理子は何とか立ち直ったようです。
          前回で最終回にしちゃっても良かったような……?
          ここから先は、後日談みたいな感じのお話の展開に
          なっちゃうのかなぁ~?自分ではよく分からないのですが、
          キリの良い所までは書いておいた方が良いのかな?
          と思い、次章を持って最終としました。
          この章は、次の8回目で終わり、明日の夜から
          最終章へ突入です。最終章は全8回となります。
          作品自体は、既に1カ月前に書き終えているのですが、
          連載が終了するまでは、自分の中で終わった感が
          湧いてこないみたいです。
          この連載が終了したら、次回作をどうするか、
          悩み中です……(^_^;)



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~ Comment ~

Re: NoTitle>OH林檎様 

OH林檎さん♪

コメント、ありがとうございます。

営みにロマン……。そう感じて頂けて嬉しいですねぇ。
二人の愛も昇華してきた感じです。
ただ求めるばかりの交わりから、精神的な深い交わりへと
進んで、愛が深まっていくのを表現したかったのです。
先生も理子も、互いに互いの存在を自分の中に感じ、
体も心も融合し、深い歓びを会得する。なんか、悟りみたいwww

志水くんと紫さんは、どうなるのでしょうね。
この二人が発展するとなると、非常に複雑な展開になるかと。
志水くんの心の闇は根がとても深いし、紫さんは
何と言っても先生のお姉さんですから、志水くんにとっての
その存在は複雑なんですよ~。
次章で、少しだけ二人の絡みがあります。
どう絡むのか、乞うご期待^^

NoTitle 

理子の中で自分が、
そして自分の中で理子が溶けてゆくような感覚が押し寄せて来た。
魂が融合し一体化したように思う。


ここの表現すごく好きだなぁ。
営み(←昭和www)にロマンを感じます。
まぁ、自身はこんな思いしたことないですけどね(爆)

次回作…、
個人的には志水くんと紫さんのその後がすっごく気になります。
新章でその事が触れてなければ、激しくリクエストします!(なんてね)
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